【まっすぐGo!】
どうも、SS担当タイヤキです。
遅く鳴りましたが、告知通りプリキュアSSです。
ただ、ハピプリではなくスプラッシュスターという……(汗
も、元々S☆Sネタで書きたかったんです……堪忍してつかぁさい(土下座
内容は、咲←舞でゲストとしてスイートの奏が出てきます。
妖精たちは出てきません、すみません(白目
では以下からどうぞ(※百合注意)
遅く鳴りましたが、告知通りプリキュアSSです。
ただ、ハピプリではなくスプラッシュスターという……(汗
も、元々S☆Sネタで書きたかったんです……堪忍してつかぁさい(土下座
内容は、咲←舞でゲストとしてスイートの奏が出てきます。
妖精たちは出てきません、すみません(白目
では以下からどうぞ(※百合注意)
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【まっすぐGo!】
────好きだよ、咲ちゃん
学校帰りの河川敷。
私は今、ずっと好きだった人に告白されている。
夕日に照らされた大好きな彼はキラキラと輝いていて、男の人だということを忘れそうになる。
私の心臓はツーアウト満塁でバッターボックスに立った時のように早鐘を打っていて、顔は夕日で隠しきれないほど真っ赤になっている。
少し離れた場所から、そんな自分の姿を冷めた目でもう一人の自分が眺めている。
遠くで顔を真っ赤にしている私が口を開いた瞬間、突然景色がガラガラと崩れ、辺りは黒く染まっていく。
世界が真っ暗闇に閉ざされると、どこからともなく声が聞こえてきた。
────ごめんなさい、ごめんなさい……私のせいで、こんな…………
耳に馴染む優しい声、しかし今は悲痛な色に変わってしまっている。
そんな声を聞きたくなくて、私は「舞のせいじゃない!」と声を張り上げるが、闇に吸い込まれて大好きな相手に届かない。
声が届かないもどかしさから、私は叫び続ける──何度も、何度も……。
(…………明るい?)
窓から差し込む光に照らされた見慣れた天井を視界に捉え、私は今までの出来事が夢だった事に気づいた。どんよりとした気分で窓の外を見ると、雲一つない青空にますます気分が沈む。
同じ夢を見るのは、これで何日目だろうか。
連日のよに続く夢にうんざりしながら、私は数日前の出来事を思い返す。
夢に出てきたような河川敷で、私は確かに和也さんから告白された。出会った頃からずっと大好きだった憧れの先輩からの告白──しかし私はその告白を断った。
その理由は自分でも分かっていない。もしかしたらその数日前に舞からも告白されたことが原因だったのかもしれないし、単純に和也さんの事が好きではなくなったのかもしれない……。
その事を舞に話すと、舞はボロボロと泣き始め、その後ずっと私に謝り続けていた。舞のせいではない、と何度伝えても舞の涙も謝罪も止まる事なく続いた……そして、その次の日から舞は私の事を避けるようになっていた。
──私にとっては、そっちの方が深刻な問題だった。
あれから一週間。
今日こそは舞と話をするんだ、と心に誓い私はベッドから勢いよく跳ね起きた────。
◇
結局、今日も舞と話をできず、避けられ続けた私は、すっかり心が折れてしまい猫背のままトボトボと帰り道を歩いている。
「うぅ~……このまま一生、舞とお話もできないのかなぁ……」
「あれ? 咲ちゃんじゃない、どうしたの?」
「え?」
私は猫背の状態のまま、顔だけ声がした方へと向ける。
「あっ! 奏ちゃん!?」
そこには、同じプリキュアのキュアリズムこと南野奏ちゃんの姿があった。
彼女は「こんにちは」と軽やかな声で挨拶をすると、こちらへと歩いてくる。その手には買い物袋が握られていて、おそらく響ちゃんの為に作るのだろう、と仲良くお菓子を食べている二人の姿を想像して、私は胸がチクリと痛んだ。
「珍しく元気ないけど、どうしたの?」
「いや~……そのぉ~……」
「あれ? そう言えば、舞ちゃんんは?」
”舞ちゃん”という単語に私は全身を硬直させる。
「ふーん……そういうことか……珍しいわね、喧嘩なんて」
「いや、喧嘩というか……私が悪いだけというか……」
次第に小さくなる声と共に、どんどんと私の心も沈んでくる。
そんな様子の私に、奏ちゃんは今からウチに来ないかと持ちかけてくれた────話なら聞くわよ、と。
◇
奏ちゃんの優しい言葉に甘え、彼女の家でもあるケーキ屋さん「Lucky Spoon」にお邪魔させてもらった私は、今奏ちゃんの愚痴を聞かされている。
「でね、響ったらひどいのよ! この間も──────」
私は、彼女の愚痴に対して時々「そうなんだー、大変だね」と相槌を打つだけ。
どうやら話を聞く限りでは、響ちゃんと奏ちゃんは只今絶賛喧嘩中のようだ。しかも、その理由が響ちゃんが他の女子のお菓子を美味しそうに食べていたとかどうとか……正直、私には喧嘩の理由がよく分からない。
「もー、奏ったら、咲ちゃん困ってるじゃない!」
そんな私を助けてくれたのは、同じくプリキュア仲間のキュアビートことエレンちゃんだった。
エレンの指摘に、我に返った奏ちゃんは「ごめんなさい」と謝ると、恥ずかしさからか、彼女は耳まで真っ赤にした。そんな彼女に対して、私は「ううん、大丈夫だよ」と返す。
エレンちゃんの言葉で我に返った奏ちゃんは真剣な眼差しに変わった。友達の事を大切にしたいという慈愛に満ちたその瞳は、彼女の性格を良く表しているように思う。
「それで、舞ちゃんと何かあったの?」
相手の悩みを真剣に聞きたいという想いが伝わる真っ直ぐな質問に応えるように、私はここ一週間の出来事について正直に話し始めた────。
「…………なるほど、そうだったの」
私の説明が終わり、長い沈黙を破る様にポツリと奏ちゃんが呟く。ふっと隣に視線を移すと、エレンちゃんが眉を八の字に曲げて、悲しげな表情を浮かべている。
「うん……私、もうどうしたら良いのか、分からなくなっちゃった…………」
私は自分の話をそこで締めくくると、無性に悲しくなってきて目尻に涙が溜まり始め、それが零れない様に慌てて天井を見上げた。
同時に、不安な気持ちが、土砂降りの雨のように私の心に降ってくる。
「咲ちゃん……」
少し悲しみを帯びた奏ちゃんの声を聞きながら、
「うぅ~……このまま一生、舞とお話もできないのかなぁ……」
と此処にくる前にも呟いた言葉をもう一度小さく零した。
すると「咲ちゃん!」という力強い声に、驚いた私は視線を前に戻す。
そこには凛とした表情を浮かべている奏ちゃんの姿があった。その瞳の輝きから強い意思を感じる。
「……私の方が、喧嘩という意味では先輩だと思うから、言わせてもらうとね……」
「私も良く響と喧嘩するし、昔は”もう一生口も利いてやらない”って思ってたこともあったけれど……でも、仲直りする度に私達はさらに仲良くなれた。それは、きっと心の奥底では相手の事を信じているからだと思うの」
ギュッと両手を胸の前で強く結び、祈るような恰好で奏ちゃんは言葉を紡いでいる。
「相手を……信じる……」
そんな彼女の言葉を、私は無意識に反芻していた。
「……そう。私は、心のどこかで響の事をもっと知りたいし、私の事をもっと知ってもらいたいと思っていて、響もきっとそうだって、私は信じてるの……お互いがお互いを信じていれば、仲直りなんて、後はきっかけだけよ!」
頑張れ、という意思表示なのだろう。奏ちゃんはグッと腕に力こぶを作る格好を取ると、私に笑顔を向ける。
「まぁ、今まさに喧嘩中だから、偉そうな事言えないけど……」と最後にぺロっとしたを出して、その笑顔が苦笑いに変わったが、奏ちゃんの瞳の輝きは全く衰えていなかった。
──私も、舞とこんな風になりたいな。
胸の奥で小さな勇気が息吹くのを感じながら、奏ちゃんと響ちゃんの姿を将来の自分達に重ねていた。
◇
──────勇気は十分に貰った……あとは、相手を信じて行動あるのみ!
私は、心を奮い立たせるように空を見上げる。
奏ちゃんに相談した翌日、私は放課後に校門の前で咲を待ち伏せることにした。
きっと舞だってこのままで良いなんて思っていない、それが一晩考えて出した私なりの答えだった。
──来た!
下駄箱から歩いてこちらに向かってくる舞の姿を発見し、私は慌てて門に隠れる。舞が門から出てきた瞬間に掴まえる算段だ。
門に隠れて舞が現れるのを待っていると、今まで鳴りを潜めていた不安が突如として押し寄せてきた。足は震え、手は汗でじんわりと湿り始める。それでも、逃げ出したい気持ちを懸命に堪えて私は舞を待った。
「きゃ!? 咲!?」
「やっと、掴まえた!!」
ようやく現れた舞の腕を掴むと、私は有無を言わせぬ勢いで彼女を引っ張る。
一方の舞は、捕まった瞬間こそ驚いていたが、私が引っ張ると大人しく付いてきてくれた。少しは抵抗されるかと思っていただけに、私はほっと胸を撫で下ろす。
──さぁ、目指すはあの山だ!
◇
「ごめんなさい……」
太陽の樹に着いて、先に口を開いたのは舞の方だった。
私はすっかり出鼻を挫かれて、しばらくその場で立ち尽くす。
「私が変な事を言ったばかりに、咲を混乱させてしまって……しかも、また迷惑かけて……」
「……迷惑?」
舞の言葉に違和感を覚えた私は、その部分を追及するように同じ言葉を舞に返す。
「だって、今日ここに連れて来たのは、私が咲の事を避けている事を怒っているからでしょ? ……ごめんなさい」
「…………どうして、舞が謝るの?」
「え?」
「確かに、舞をここへ連れて来たのは、舞と最近ちゃんと話が出来てなかったからだけど、別にその事について怒ってるわけでもないし、舞が悪い訳でもないのに、どうして謝るの!?」
舞の言葉に、沸々と怒りが込み上げてきた私は思わず声が荒くなる。
「だって……私が変な事を言い出さなければ、きっと今頃、咲はお兄ちゃんと付き合ってたと思うし、私の事でこんなに悩むことも無かったと思うから……」
「そんな事……」
「そんな事、あるでしょ? だって、お兄ちゃんの告白を断った次の日、咲は私に話し掛けづらそうだったもの……」
私の反論より先に、舞から的確な指摘が飛んでくる。
舞が言っている事は確かにその通りで、私はあの日舞とどう接していけばいいか悩んでいた。舞はそんな私の気持ちをいち早く理解して──距離を置いたのだ。
私は、自身の不甲斐無さを噛みしめるようににギリッと歯ぎしりをした。
「でも、別にそれは……」
そして、何とか言葉を見つけようと私は口を動かすが、私の口は意思を持たずにパクパクと動くだけで、そこから言葉が生まれる気配がない。
「……だから、私は咲のために距離を置いた方が良いと思って…………」
舞の声が震えている事に気づいて、私ははっと顔を上げると、彼女は顔を俯けて肩を震わせていた。顔が良く見えないが、彼女の頬にきらりと光る何かが流れている。
「────バカ!!」
私は、そんな彼女に全力で叫んでいた。
「バカ、バカ、バカ、バカ……舞のバカ!!」
彼女の事をこんなにバカ呼ばわりするのは、もしかするとこれが最初で最後かもしれない。
でも、私は自分の気持ちを抑えきれず、目の前で悲しみに暮れる彼女に向かって叫び続ける。一方の舞は私の迫力に飲まれたように潤んだ瞳できょとんとした様子でこちらを見ている。
「私は! 舞に避けられるようになって、すごく悲しかった! もうずっとお話も出来ないんじゃないかと思うと、泣きそうなくらい悲しかったんだよ!!」
「私はね、舞……ずっと一緒に舞と笑い合いたい……だから、私のためだって言うなら、ずっと一緒に居てよ、舞!!」
最後の方は、自分でも何を言っているのか分からないくらい頭に血が上っていたけれど、自分の気持ちを全て吐き出せたという満足感から、きっと思いの丈は伝えられたのだろうと思った。
「でも……私は……咲のことを友達とは違う意味で、好き、なのよ……そんなのやっぱり変だもの……」
舞は自分が喋り終えると再び顔を伏せてしまい、何かに抗うように肩を震わせ始める。舞は賢いからきっと私より何倍も色々な事を考えてくれたに違いない、彼女の姿を見て私はそう確信する。
そして、そんな優しい彼女だからこそ、一緒に居たいのだと改めて思った。
────相手の事を信じて
私は、昨日の奏ちゃんの言葉を思い出しながら、勇気を出して一歩踏み出す。
そのまま舞の所まで近づくと、ぎゅっと両腕で彼女を包み込むように抱きしめた。
「確かに、舞の好きと私の好きは意味が違うのかもしれないけど、私は舞と一緒に居たい……」
相手に届くように、耳元ではっきりと自分の意思を伝える。
抱きしめた瞬間にビクッと体を硬直させた舞は、私の言葉を聞いてもその姿勢のまま動こうとはしない。
「……咲は、私の事を勘違いしてるのよ…………」
背中越しに聞こえた彼女の言葉に対し、私は「勘違い?」とだけ返して辛抱強く続きを待つ。
「……私は、咲とお兄ちゃんが仲良く話をしているだけで、心がドロドロと嫉妬色に染まっていくような人間なの……そんな穢れきった私は、やっぱり咲の傍に居るべきじゃないわ……」
「穢れてなんかない!! そんなの、全然当たり前の事じゃん……バカ」
再び叫ぶように大声で叱責し、私は彼女を抱きしめる力をさらに強める。
「私だって、和也さんが他の女の人と話している所を見たり、舞が私の知らない子と話しているのを見ると、嫉妬してたりするんだよ」
ちょっとは、と語尾に付け加えたのは、ほんの僅かばかりの自尊心から。
そして、「だからそんな風に自分を傷つけないで」と私は祈るように彼女に伝えた。
「お願いだよ、舞……これからも私の傍に居て……」
「……本当に、いいの?」
「いいに決まってるじゃん!」
遠慮がちに訊ねる舞に、私は即答する。
ありがとう、と少し震えた舞の声が聞こえてきて、私は無性に今の舞の顔が見たくなる。
私は舞の肩を掴んで、少しお互いの距離を離すと「どういたしまして」と笑顔で応えた────。
◇
その時の舞の顔は、今まで見たことがないくらい涙でぐしゃぐしゃで、でも今まで見たことがないくらい綺麗で、私は思わず見惚れてしまった。
だから、その後無意識に彼女のおでこにキスをしてしまったのは仕方のないことで、決して恋愛的な感情からではない。
加えて言うと、その後舞から「お返し♪」と言って頬にキスされて、耳まで赤くなってしまったのも、決して恋愛的な感情からではない。
あれから数日。
私達の生活はすっかり日常を取り戻していた。
ただ一つ、変わったことがあるとすれば────────。
「咲、おはよう!」
「舞! おっはよー!」
「咲の笑顔はホントいつも見ると元気になるから、大好き♪」
「うえぇぇ!? もう、舞……恥ずかしいから……」
「うふふ、照れてる咲も可愛いわ♪」
「ううう……」
──────そう、舞が少しだけ積極的になったこと。
(私、耐えられるかなぁ~……)
そんな彼女が可愛くて、私は胸の奥がキュンキュンしながらも、”これは恋愛感情じゃない”と言い聞かせて、舞と一緒に学校への道を今日も歩いて行く。
これから先も舞と一緒に肩を並べて歩いて行く未来を夢見て────。
(おわり)
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【まっすぐGo!】
────好きだよ、咲ちゃん
学校帰りの河川敷。
私は今、ずっと好きだった人に告白されている。
夕日に照らされた大好きな彼はキラキラと輝いていて、男の人だということを忘れそうになる。
私の心臓はツーアウト満塁でバッターボックスに立った時のように早鐘を打っていて、顔は夕日で隠しきれないほど真っ赤になっている。
少し離れた場所から、そんな自分の姿を冷めた目でもう一人の自分が眺めている。
遠くで顔を真っ赤にしている私が口を開いた瞬間、突然景色がガラガラと崩れ、辺りは黒く染まっていく。
世界が真っ暗闇に閉ざされると、どこからともなく声が聞こえてきた。
────ごめんなさい、ごめんなさい……私のせいで、こんな…………
耳に馴染む優しい声、しかし今は悲痛な色に変わってしまっている。
そんな声を聞きたくなくて、私は「舞のせいじゃない!」と声を張り上げるが、闇に吸い込まれて大好きな相手に届かない。
声が届かないもどかしさから、私は叫び続ける──何度も、何度も……。
(…………明るい?)
窓から差し込む光に照らされた見慣れた天井を視界に捉え、私は今までの出来事が夢だった事に気づいた。どんよりとした気分で窓の外を見ると、雲一つない青空にますます気分が沈む。
同じ夢を見るのは、これで何日目だろうか。
連日のよに続く夢にうんざりしながら、私は数日前の出来事を思い返す。
夢に出てきたような河川敷で、私は確かに和也さんから告白された。出会った頃からずっと大好きだった憧れの先輩からの告白──しかし私はその告白を断った。
その理由は自分でも分かっていない。もしかしたらその数日前に舞からも告白されたことが原因だったのかもしれないし、単純に和也さんの事が好きではなくなったのかもしれない……。
その事を舞に話すと、舞はボロボロと泣き始め、その後ずっと私に謝り続けていた。舞のせいではない、と何度伝えても舞の涙も謝罪も止まる事なく続いた……そして、その次の日から舞は私の事を避けるようになっていた。
──私にとっては、そっちの方が深刻な問題だった。
あれから一週間。
今日こそは舞と話をするんだ、と心に誓い私はベッドから勢いよく跳ね起きた────。
◇
結局、今日も舞と話をできず、避けられ続けた私は、すっかり心が折れてしまい猫背のままトボトボと帰り道を歩いている。
「うぅ~……このまま一生、舞とお話もできないのかなぁ……」
「あれ? 咲ちゃんじゃない、どうしたの?」
「え?」
私は猫背の状態のまま、顔だけ声がした方へと向ける。
「あっ! 奏ちゃん!?」
そこには、同じプリキュアのキュアリズムこと南野奏ちゃんの姿があった。
彼女は「こんにちは」と軽やかな声で挨拶をすると、こちらへと歩いてくる。その手には買い物袋が握られていて、おそらく響ちゃんの為に作るのだろう、と仲良くお菓子を食べている二人の姿を想像して、私は胸がチクリと痛んだ。
「珍しく元気ないけど、どうしたの?」
「いや~……そのぉ~……」
「あれ? そう言えば、舞ちゃんんは?」
”舞ちゃん”という単語に私は全身を硬直させる。
「ふーん……そういうことか……珍しいわね、喧嘩なんて」
「いや、喧嘩というか……私が悪いだけというか……」
次第に小さくなる声と共に、どんどんと私の心も沈んでくる。
そんな様子の私に、奏ちゃんは今からウチに来ないかと持ちかけてくれた────話なら聞くわよ、と。
◇
奏ちゃんの優しい言葉に甘え、彼女の家でもあるケーキ屋さん「Lucky Spoon」にお邪魔させてもらった私は、今奏ちゃんの愚痴を聞かされている。
「でね、響ったらひどいのよ! この間も──────」
私は、彼女の愚痴に対して時々「そうなんだー、大変だね」と相槌を打つだけ。
どうやら話を聞く限りでは、響ちゃんと奏ちゃんは只今絶賛喧嘩中のようだ。しかも、その理由が響ちゃんが他の女子のお菓子を美味しそうに食べていたとかどうとか……正直、私には喧嘩の理由がよく分からない。
「もー、奏ったら、咲ちゃん困ってるじゃない!」
そんな私を助けてくれたのは、同じくプリキュア仲間のキュアビートことエレンちゃんだった。
エレンの指摘に、我に返った奏ちゃんは「ごめんなさい」と謝ると、恥ずかしさからか、彼女は耳まで真っ赤にした。そんな彼女に対して、私は「ううん、大丈夫だよ」と返す。
エレンちゃんの言葉で我に返った奏ちゃんは真剣な眼差しに変わった。友達の事を大切にしたいという慈愛に満ちたその瞳は、彼女の性格を良く表しているように思う。
「それで、舞ちゃんと何かあったの?」
相手の悩みを真剣に聞きたいという想いが伝わる真っ直ぐな質問に応えるように、私はここ一週間の出来事について正直に話し始めた────。
「…………なるほど、そうだったの」
私の説明が終わり、長い沈黙を破る様にポツリと奏ちゃんが呟く。ふっと隣に視線を移すと、エレンちゃんが眉を八の字に曲げて、悲しげな表情を浮かべている。
「うん……私、もうどうしたら良いのか、分からなくなっちゃった…………」
私は自分の話をそこで締めくくると、無性に悲しくなってきて目尻に涙が溜まり始め、それが零れない様に慌てて天井を見上げた。
同時に、不安な気持ちが、土砂降りの雨のように私の心に降ってくる。
「咲ちゃん……」
少し悲しみを帯びた奏ちゃんの声を聞きながら、
「うぅ~……このまま一生、舞とお話もできないのかなぁ……」
と此処にくる前にも呟いた言葉をもう一度小さく零した。
すると「咲ちゃん!」という力強い声に、驚いた私は視線を前に戻す。
そこには凛とした表情を浮かべている奏ちゃんの姿があった。その瞳の輝きから強い意思を感じる。
「……私の方が、喧嘩という意味では先輩だと思うから、言わせてもらうとね……」
「私も良く響と喧嘩するし、昔は”もう一生口も利いてやらない”って思ってたこともあったけれど……でも、仲直りする度に私達はさらに仲良くなれた。それは、きっと心の奥底では相手の事を信じているからだと思うの」
ギュッと両手を胸の前で強く結び、祈るような恰好で奏ちゃんは言葉を紡いでいる。
「相手を……信じる……」
そんな彼女の言葉を、私は無意識に反芻していた。
「……そう。私は、心のどこかで響の事をもっと知りたいし、私の事をもっと知ってもらいたいと思っていて、響もきっとそうだって、私は信じてるの……お互いがお互いを信じていれば、仲直りなんて、後はきっかけだけよ!」
頑張れ、という意思表示なのだろう。奏ちゃんはグッと腕に力こぶを作る格好を取ると、私に笑顔を向ける。
「まぁ、今まさに喧嘩中だから、偉そうな事言えないけど……」と最後にぺロっとしたを出して、その笑顔が苦笑いに変わったが、奏ちゃんの瞳の輝きは全く衰えていなかった。
──私も、舞とこんな風になりたいな。
胸の奥で小さな勇気が息吹くのを感じながら、奏ちゃんと響ちゃんの姿を将来の自分達に重ねていた。
◇
──────勇気は十分に貰った……あとは、相手を信じて行動あるのみ!
私は、心を奮い立たせるように空を見上げる。
奏ちゃんに相談した翌日、私は放課後に校門の前で咲を待ち伏せることにした。
きっと舞だってこのままで良いなんて思っていない、それが一晩考えて出した私なりの答えだった。
──来た!
下駄箱から歩いてこちらに向かってくる舞の姿を発見し、私は慌てて門に隠れる。舞が門から出てきた瞬間に掴まえる算段だ。
門に隠れて舞が現れるのを待っていると、今まで鳴りを潜めていた不安が突如として押し寄せてきた。足は震え、手は汗でじんわりと湿り始める。それでも、逃げ出したい気持ちを懸命に堪えて私は舞を待った。
「きゃ!? 咲!?」
「やっと、掴まえた!!」
ようやく現れた舞の腕を掴むと、私は有無を言わせぬ勢いで彼女を引っ張る。
一方の舞は、捕まった瞬間こそ驚いていたが、私が引っ張ると大人しく付いてきてくれた。少しは抵抗されるかと思っていただけに、私はほっと胸を撫で下ろす。
──さぁ、目指すはあの山だ!
◇
「ごめんなさい……」
太陽の樹に着いて、先に口を開いたのは舞の方だった。
私はすっかり出鼻を挫かれて、しばらくその場で立ち尽くす。
「私が変な事を言ったばかりに、咲を混乱させてしまって……しかも、また迷惑かけて……」
「……迷惑?」
舞の言葉に違和感を覚えた私は、その部分を追及するように同じ言葉を舞に返す。
「だって、今日ここに連れて来たのは、私が咲の事を避けている事を怒っているからでしょ? ……ごめんなさい」
「…………どうして、舞が謝るの?」
「え?」
「確かに、舞をここへ連れて来たのは、舞と最近ちゃんと話が出来てなかったからだけど、別にその事について怒ってるわけでもないし、舞が悪い訳でもないのに、どうして謝るの!?」
舞の言葉に、沸々と怒りが込み上げてきた私は思わず声が荒くなる。
「だって……私が変な事を言い出さなければ、きっと今頃、咲はお兄ちゃんと付き合ってたと思うし、私の事でこんなに悩むことも無かったと思うから……」
「そんな事……」
「そんな事、あるでしょ? だって、お兄ちゃんの告白を断った次の日、咲は私に話し掛けづらそうだったもの……」
私の反論より先に、舞から的確な指摘が飛んでくる。
舞が言っている事は確かにその通りで、私はあの日舞とどう接していけばいいか悩んでいた。舞はそんな私の気持ちをいち早く理解して──距離を置いたのだ。
私は、自身の不甲斐無さを噛みしめるようににギリッと歯ぎしりをした。
「でも、別にそれは……」
そして、何とか言葉を見つけようと私は口を動かすが、私の口は意思を持たずにパクパクと動くだけで、そこから言葉が生まれる気配がない。
「……だから、私は咲のために距離を置いた方が良いと思って…………」
舞の声が震えている事に気づいて、私ははっと顔を上げると、彼女は顔を俯けて肩を震わせていた。顔が良く見えないが、彼女の頬にきらりと光る何かが流れている。
「────バカ!!」
私は、そんな彼女に全力で叫んでいた。
「バカ、バカ、バカ、バカ……舞のバカ!!」
彼女の事をこんなにバカ呼ばわりするのは、もしかするとこれが最初で最後かもしれない。
でも、私は自分の気持ちを抑えきれず、目の前で悲しみに暮れる彼女に向かって叫び続ける。一方の舞は私の迫力に飲まれたように潤んだ瞳できょとんとした様子でこちらを見ている。
「私は! 舞に避けられるようになって、すごく悲しかった! もうずっとお話も出来ないんじゃないかと思うと、泣きそうなくらい悲しかったんだよ!!」
「私はね、舞……ずっと一緒に舞と笑い合いたい……だから、私のためだって言うなら、ずっと一緒に居てよ、舞!!」
最後の方は、自分でも何を言っているのか分からないくらい頭に血が上っていたけれど、自分の気持ちを全て吐き出せたという満足感から、きっと思いの丈は伝えられたのだろうと思った。
「でも……私は……咲のことを友達とは違う意味で、好き、なのよ……そんなのやっぱり変だもの……」
舞は自分が喋り終えると再び顔を伏せてしまい、何かに抗うように肩を震わせ始める。舞は賢いからきっと私より何倍も色々な事を考えてくれたに違いない、彼女の姿を見て私はそう確信する。
そして、そんな優しい彼女だからこそ、一緒に居たいのだと改めて思った。
────相手の事を信じて
私は、昨日の奏ちゃんの言葉を思い出しながら、勇気を出して一歩踏み出す。
そのまま舞の所まで近づくと、ぎゅっと両腕で彼女を包み込むように抱きしめた。
「確かに、舞の好きと私の好きは意味が違うのかもしれないけど、私は舞と一緒に居たい……」
相手に届くように、耳元ではっきりと自分の意思を伝える。
抱きしめた瞬間にビクッと体を硬直させた舞は、私の言葉を聞いてもその姿勢のまま動こうとはしない。
「……咲は、私の事を勘違いしてるのよ…………」
背中越しに聞こえた彼女の言葉に対し、私は「勘違い?」とだけ返して辛抱強く続きを待つ。
「……私は、咲とお兄ちゃんが仲良く話をしているだけで、心がドロドロと嫉妬色に染まっていくような人間なの……そんな穢れきった私は、やっぱり咲の傍に居るべきじゃないわ……」
「穢れてなんかない!! そんなの、全然当たり前の事じゃん……バカ」
再び叫ぶように大声で叱責し、私は彼女を抱きしめる力をさらに強める。
「私だって、和也さんが他の女の人と話している所を見たり、舞が私の知らない子と話しているのを見ると、嫉妬してたりするんだよ」
ちょっとは、と語尾に付け加えたのは、ほんの僅かばかりの自尊心から。
そして、「だからそんな風に自分を傷つけないで」と私は祈るように彼女に伝えた。
「お願いだよ、舞……これからも私の傍に居て……」
「……本当に、いいの?」
「いいに決まってるじゃん!」
遠慮がちに訊ねる舞に、私は即答する。
ありがとう、と少し震えた舞の声が聞こえてきて、私は無性に今の舞の顔が見たくなる。
私は舞の肩を掴んで、少しお互いの距離を離すと「どういたしまして」と笑顔で応えた────。
◇
その時の舞の顔は、今まで見たことがないくらい涙でぐしゃぐしゃで、でも今まで見たことがないくらい綺麗で、私は思わず見惚れてしまった。
だから、その後無意識に彼女のおでこにキスをしてしまったのは仕方のないことで、決して恋愛的な感情からではない。
加えて言うと、その後舞から「お返し♪」と言って頬にキスされて、耳まで赤くなってしまったのも、決して恋愛的な感情からではない。
あれから数日。
私達の生活はすっかり日常を取り戻していた。
ただ一つ、変わったことがあるとすれば────────。
「咲、おはよう!」
「舞! おっはよー!」
「咲の笑顔はホントいつも見ると元気になるから、大好き♪」
「うえぇぇ!? もう、舞……恥ずかしいから……」
「うふふ、照れてる咲も可愛いわ♪」
「ううう……」
──────そう、舞が少しだけ積極的になったこと。
(私、耐えられるかなぁ~……)
そんな彼女が可愛くて、私は胸の奥がキュンキュンしながらも、”これは恋愛感情じゃない”と言い聞かせて、舞と一緒に学校への道を今日も歩いて行く。
これから先も舞と一緒に肩を並べて歩いて行く未来を夢見て────。
(おわり)
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