【にこまき物語 第五話】
どうも、SS担当タイヤキです。
非常に遅くなりましたが、にこまき物語の最新話です!!
本当に、遅くなってすみません!!!(ジャンピング土下座)
一応、この話でプロローグ編はこれにておしまいです!
続きを書くかどうかは……正直迷ってます。。。
終盤の構想とかはあるのですが、本当に書くとなると一年以上書き続ける必要がありそうで……(白目
今回更新は無いですが、一応、用語説明です。→用語説明
ま、まぁ、とりあえず本編は以下からどうぞ(※百合?注意)
非常に遅くなりましたが、にこまき物語の最新話です!!
本当に、遅くなってすみません!!!(ジャンピング土下座)
一応、この話でプロローグ編はこれにておしまいです!
続きを書くかどうかは……正直迷ってます。。。
終盤の構想とかはあるのですが、本当に書くとなると一年以上書き続ける必要がありそうで……(白目
今回更新は無いですが、一応、用語説明です。→用語説明
ま、まぁ、とりあえず本編は以下からどうぞ(※百合?注意)
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【にこまき物語 第五話】
真姫は家に戻る道すがら、先程の事を思い出していた。
希から言い渡された”お題”の事を考えると、無意識に苦虫を噛み潰したような表情に変わる。
──それでも、やるしかない!
真姫は首を大きく左右に振ると、気合を入れ直すようにグッと前を見据える。その瞳は今空で輝いている星々と同じように輝いていた。
◇
「──それで私達はニコを助けようと思って、情報を集めてるんだけど、当日の事を教えてくれないかしら」
時間は遡って、再び夕方の広場。
絵里から連合軍の壊滅という信じられない事実を突き付けられて、半ば放心状態に陥っていた真姫だったが、絵里の言葉ではっと我に返った。
顔を上げると、絵里と希の表情が先程よりさらに深く影を落としているように見えた。夕日のせいかもしれないが、その表情は真姫の不安を増々加速させた。
「────大丈夫?」
何も言えず茫然と立ち尽くしていた真姫に、希は心配そうな表情で話しかける。
「…………ええ、大丈夫」
「でも、顔真っ青やよ?」
真姫は自分自身でも顔に血の気がない事は気づいていた。全身は夏服で吹雪の中にいるほどの寒さを感じ、掌だけが汗でびっしょりと湿っている。不安が全身を襲う度に思考を止めようとするが、留まる事を知らない不安はヒタヒタと後から追いかけてきた。
それでも真姫は再び「大丈夫」と気丈な声で応えると、腹をくくった表情に変わる。
「分かったわ、そういう事なら話すわ、あの日何があったか……」
そして真姫はニコが攫われた当日の事を話し始めた────────。
「……………………なるほど」
一部始終を聞いた絵里は、重い気持ちを吐き出すように呟いた。その表情がさらに険しくなっているのは夕日のせいではないだろう。
「ねぇ、アナタ達、ニコちゃんを助けに行くの?」
ずっと俯いて懺悔のように話をしていた真姫だったが、急に顔を上げて絵里と希の二人を見る。その眼差しには強い覚悟が滲み出ている。その瞳から彼女が次に何を言おうとしているのか、絵里には想像がついた。
「ええ、そうよ…………」
「なら、私も連れて行って!!」
真姫の質問に絵里がため息交じりに答えると、彼女はその言葉に被せるような勢いで発言し、ずいっと上体を絵里の方に寄せる。絵里にプレッシャーをかけているつもりなのだろうが、その瞳一杯に溜まっている涙のせいで迫力に欠ける。
「……駄目よ」
絵里は詰め寄る真姫に対して冷たく言い放つ。
射抜くような冷たい瞳で睨まれて思わず一歩後ずさった真姫だったが、その場に踏み止まると絵里を睨み返す。
「お願い! 私、どうしてもニコちゃんを助けたいの!!」
「無理よ……戦闘も出来ないような子供に来られても、こっちも迷惑よ!」
真姫の懇願に対して、絵里は吠えるように拒否をする。
絵里の辛辣な言葉に、真姫はとうとう泣き出してしまった。それでもなお諦めきれないといった感じで絵里の事を睨み続けている。
「うっ……とにかく、駄目なものは駄目よ」
「待って! ……絶対、足手まといにはならないから!!」
「ちょ、ちょっと! しつこいわよ!!」
真姫の迫力に圧されるように、捨て台詞を吐いてその場から逃れようとした絵里。しかし、真姫は絵里の手を掴んで必死に懇願する。彼女の顔は涙でぐしゃぐしゃになっているが、そんな事など気にもかける様子もなく、強い意思を感じる瞳で絵里を見つめ続けている。
絵里が掴まれた手を振りほどこうとする度に、真姫は「ううう」と唸りながら増々強く握ってくる。
「…………真姫ちゃん、どうしてもって言うなら、きちんと両親の承諾を取ってきて」
二人の様子を見かねた希は、憂いを帯びた瞳で真姫に語りかける。
「そしたら、ウチらも真姫ちゃんを連れて行くことをちゃんと考えるよ」
希の言葉に、真姫は毒気を抜かれたようにキョトンとした表情に変わる。
「分かったわ!」
しかしそれもつかの間、真姫は自信満々な表情で大きく頷いていた────。
◇
希から言い渡された期限は一週間。
その間に両親の了解を取る必要がある。
「──よし」
真姫は玄関の前で大きく深呼吸をすると、勢いよく扉を開けた。
「ただいま」
いつもより少しだけ声が張ってしまったが、両親に違和感を持たれないように、と真姫は平然としたフリをして家の中に入る。
「おかえり、真姫」
最近帰りの早い父に出迎えられて、真姫は「ただいま」と小さく口にする。そして、できるだけ表情を変えない様に意識しながら本題に入る。
「──あのね、パパ。お願いがあるの……あのね、」
「まさか、あの友達を助けたいとか言い出すんじゃないだろうな?」
勇気を振り絞ってお願いをしようとした矢先父親に先を読まれてしまい、真姫の表情は凍りつく。予期しないカウンターパンチを喰らってしまった真姫は、そのまま時間が止まったかのように固まってしまった。
「…………真姫、そんなに心配しなくても、ちゃんと国王様が助けて下さる……だから、安心してここで待っていなさい」
真姫の父は、固まってしまった娘を両腕でぎゅっと抱きしめると、子供をあやすような優しい声で話しかける。
その低くて穏やかな声は耳心地がよく、真姫は思わず父の言葉に流されそうになった。
「……それじゃダメなの、パパ。……連合軍はもうすでに壊滅しているの!」
真姫が顔を上げて訴えると、父親は可哀想な子を見るような目で真姫の事を見つめ返してくる。
「余程、怖い夢でも見たのかな? 真姫、連合軍が壊滅しただなんて、そんな事あるわけないじゃないか」
「パパ……でも…………」
「大丈夫だよ、真姫。仮にもしそんな話があったとしても、真姫より私の耳に入るほうが先だろう……まだ私も知らないということは、少なくともそんな事にはなっていないさ」
確かにこの町で病院を経営している父は、他の人たちよりも優先して情報が入ってくる。特に、軍事関連の情報は、緊急の救急先となりえる病院には真っ先に連絡が来るのだ。
過去にも魔王討伐軍が編成されたことがあり、その際は各町の大きな病院には真っ先に連絡が来ていた。
しかし討伐軍が動くより先にニコが魔王を討伐しまったため、その討伐軍は出番もなく解散したと聞いている。
「パパ……分かった…………」
父親の言葉を聞いても安心することが出来ない真姫は、不安な気持ちを押し隠すように父の胸に顔を埋める。
それでも胸騒ぎが収まることは無かった────。
◇
初日の説得は失敗に終わってしまった真姫だが、彼女は諦めることなく事ある毎に両親への説得を続けていた。しかし、攻略の糸口は一向に見つからないまま、六日間が過ぎていた。
そんな彼女の様子を遠目で眺めていた絵里は、おそらく両親の説得は出来ないだろうと高を括っていた。
「……どうしたの、希? そんな真剣な顔をして」
宿屋の一室でテーブルに広げたカードを真剣な表情で見ている希の様子が気になった絵里は背中越しに声をかける。
得意のタロット占いをしているのだろう、何を占っているのかは分からないがその表情からあまり良い結果ではなかったと推測される。
そんな絵里の予想通り、希からあまり嬉しくない言葉が返ってきた。
「いやな、真姫ちゃんが両親の説得をできるか占ってみたんやけど…………これは、ちょっと大変なことになりそうやね……」
「……どういう事?」
「カードが言うには、どうやら真姫ちゃんは強行突破に踏み切りそうなんよ……下手すると、ウチらと一緒に行くことを諦めて、一人で飛び出してしまうかもしれへん」
「ええ!? 一人って……まさか……」
「…………そうならんことを祈るしかないな……」
希の深いため息に、絵里は戦慄を覚えた。いくら何でも、戦闘の素人が一人で魔王討伐の旅に出るなど、小学生でも分かるほど無謀な事だ。
しかし、一週間前の彼女の顔が脳裏に浮かび絵里は思い直す。自分が圧されてしまう程の迫力と思いつめたような表情をしていた彼女なら確かにありえる、と。
「……えりち、もしもの時は…………」
希の縋る様な目に見つめられ、絵里は大きくため息をついた。
「……分かったわ、その時は私達で何とかしましょう……」
ぱぁっと明るくなる希の表情が可愛くて、絵里もつられて笑顔になる。この笑顔が見たいがために過去何度も無茶をしてきて、その度にそんな自分に対してどうしようもないなと少し呆れていた。
今回もちょっと大変な事を引き受けてしまった、と後悔をしつつも希の笑顔を護れた自分を少しだけ褒めていた。
◇
希の祈りも虚しく、約束の期限になっても両親の説得が出来なかった真姫はとうとう強行手段に踏み切った。
「アナタ! 大変! ……真姫が!!」
二階から響き渡る真姫母の声に、驚いた真姫父は慌てて二階に上がる。
真姫母は驚愕の表情で娘の部屋の前に立ちつくしている。部屋の扉は開け放たれ、その先に見える何かに驚いているようだ。
「どうした、何があったんだ? …………なっ!?」
真姫父が彼女の視線の先を追いかけると、予想外の事態に驚愕した。
視線の先に見える真姫の部屋は、窓まで開け放たれていて、サッシに掛かっているはずのカーテンはベッドに括りつけられ、窓の外にまで伸びている。
自分の娘がよもや二階から外へ飛び出すとは、夢にも思わなかった二人は狼狽する。
「どうしましょう、アナタ……真姫が……真姫が…………」
「落ち着くなさい、まだそう遠くへは行っていないはずだ! 私は外を見て来るから、お前は知り合いに連絡して、捜索に協力してもらえるように、お願いをするんだ!」
「……ええ、分かったわ!!」
そのまま、二人は急いで下へ駆け下りて行った────────。
◇
──とんとん。
「はーい」
絵里は返事をすると、部屋のドアを開けた。
扉の向こうには、肩で粗く息をしている真姫が立っていた。
「ハア、ハア……約束どおり、両親を説得してきたわよ……これで、一緒に連れて行ってくれるんでしょ?」
明らかに嘘だと分かる真姫の言葉に絵里は目を丸くしたが、希の占いの事もあり、このまま追い返すのは得策ではないと考えて部屋の中に案内する。
真姫はそれを了承の意と勘違いして、ぱぁっと表情を明るくしていた。
「──で、両親の説得はできていないのでしょう?」
真姫を席に座らせると同時に絵里は彼女に詰め寄った。
油断していた真姫は、突然図星を突かれて驚きの表情に変わったものの、すぐに反論する。
「ちゃんと、説得したわよ!」
本当に説得したのだと相手に思わせるために、真姫はしっかりと絵里の瞳を見つめながら、はっきりとした声で応える。
しかし、相手はまるで騙される様子もなく、あっさりと反論が返ってきた。
「嘘ね……じゃないと、こんな夜中に押しかけては来ないでしょう…………そんなに息を切らせて」
「ぐっ……そ、それは……一秒でも早くニコちゃんを助けたくて……」
往生際悪く言い訳を重ねる真姫に、絵里はため息をつく。
「じゃあ、一応今から貴女の家に行って、両親に確認とるけど、それでいい?」
「そ、それは…………!!」
決定打を喰らった真姫は、そこで俯いてしまう。その様子を見て、説得は失敗したのだと絵里は確信した。
(まさか、本当に強行手段に転じるとはね……見た目は大人しくて、賢そうな子なのに……やることは結構強引ね)
希から予め占いの結果を聞いておいて良かった、と絵里は希の方を見る。
希はドアの前に立って、こちらの様子を窺っている。おそらく、真姫が突然飛び出してしまわないように、扉を閉鎖しているのだろう。
希と目が合った絵里は困った表情を浮かべると、希が満面の笑みを返してきて、八の字に曲がった絵里の眉毛がさらに大きく曲がった。
この後どうするべきか、と絵里がしばらくの間思案していると、おもむろに希が口を開いて、
「お、来たみたいやね……真姫ちゃん、お客さんやよ」
と言ってドアを開けた。
それと同時に、ドタドタとこちらに駆け寄ってくる大きな足音が廊下に響き渡る。
「真姫!」
父の大きな声が聞こえてきて、真姫はビクッと肩を震わせた。
しかし名前を呼ばれても、真姫はドアから背を向けたまま動こうとはせず、何かに耐えるように肩を小刻みに震わせている。
その様子を見た父は、ずかずかと部屋の中に入ってくると、彼女の肩を掴んで無理やり正面を向かせた。
「痛い!」
「バカ者! 全く、何を考えているんだ!! さぁ、早く帰るぞ」
「嫌! 私は、もうあの家には帰らない!」
「真姫……!」
実の娘から予期しない言葉を聞いた父親は、ショックのあまりその場で固まってしまう。父の様子を見ていた真姫は、隙をついてその腕から逃れるとその場から逃げ出すようにドアに向かって走り出した。
────パシン!!!
しかし、真姫の脱走劇はすぐに幕を下ろした。
ドアの前には真姫と同じぐらいの背をした女性が立っていて、その人の痛烈なビンタを頬に受け、真姫は痛みのあまりその場に立ち尽くす。
「──────ママ……!」
真姫にビンタをお見舞いした女性は、その瞳にいっぱいの涙を溜めこんでいた。
「真姫……お願い……帰ってきて」
背中に手を回し、ぎゅっと娘を抱きしめた母親は、堰き止めが崩壊したように涙を流している。母の柔らかい温もりを感じた真姫は、罪悪感から胸を強く締め付けられた。
「ママ……ごめんなさい……私、どうしても行かなきゃいけないの…………」
真姫の言葉に、母が息を呑んだ事が背中越しに伝わる。
それでも、もう真姫の決心は揺るがなかった。
「私ね、ニコちゃんの事が本当に大切なの……彼女の居ない世界で生きる事なんてできないくらいにはね」
落ち着きはらった真姫の声は、その言葉にとてつもない重さが秘められていることを感じさせた。
「────でも、だからって真姫が行くことはないじゃない、国だって動いているのよ?」
涙で腫らした瞳でなおも母は娘に訴えかける。
それでも、真姫は軽く首を横に振ると、強い意思を秘めた瞳で母を見つめ返す。
「ニコちゃんは、私を助けるために何度も命を懸けてくれたの……今度は私の番」
真姫の瞳から伝わる強い意思に、母は全てを悟ったように哀しげな表情で自分の娘を見つめ続ける。
「それに二年間もニコちゃんに会えないの我慢してたんだから…………もうこれ以上は限界」
そう言って、真姫は苦笑いを作る。冗談めいて発した言葉だったが、その言葉に娘の本心が僅かに垣間見え、両親は何も言えなくなってしまった。
真姫がそんな風にニコの事を想っていたという事実に驚いたのは、絵里と希も同じだったようで二人とも口をポカンと開けて呆けている。
「ごめんなさい、パパ、ママ。私は、勘当されてでもこの町から出て行くつもりなの……例え一人でも、ニコちゃんを助けに行くわ……本当にごめんなさい」
口でこそ謝罪はしているものの、家に帰るつもりは無い、と娘の覚悟を見せつけられた両親は、諦めたようにうな垂れてしまった。
「…………そうか」
ポツリとしわがれた声で呟いた父の言葉は、罪悪感となって重く真姫の心に圧し掛かった。目の前で子供のように泣きじゃくって娘を抱く母の姿は、真姫の心に深く傷を残す。
しかし、どのような事象も真姫の決心を揺らがすことはなく、彼女は優しい瞳で父と母を見つめるだけだった。
そんな家族の様子を見ていた絵里は、意を決したように口を開いた。
「あの、私、絢瀬絵里と申します。真姫さんのことですが────────────」
◇
その後、絵里と希が真姫の護衛を務めるということで決着がついた。
絵里は真姫の両親に自分達の職業や目的を説明し、「目的が一緒だから私たちが彼女の護衛もします」と付け加えた。ただし、混乱が生じる事を恐れて、連合軍が壊滅したという事実だけは伏せておいた。
絵里が説明をしている間、希は初めからこうなる事が分かっていたかのように、安心した笑顔で絵里を見つめていた。
「さ、行くわよ!」
「はい、お願いします、絵里さん、希さん」
真姫はこれからお世話になる二人にぺこりと頭を下げる。
「呼び捨てで良いわ、真姫」
そう言うと、絵里はすっと手を差し出す。
真姫はその手をとって、握手を交わしながら「分かったわ、絵里」と返す。
「ウチも呼び捨てでいいよ、真姫ちゃん」
絵里の隣に並んでいる希からもそう言われ、
「よろしくお願いします、希」
と改めて挨拶をした。
町の入口に立っているのは三人だけで、周りには見送る人もいない。
──両親とはもうお別れは済ませた。
真姫は、門の外に広がる世界を睨みつけながら、大きく一歩足を前に踏み出した。
その歩は振り向く事など忘れ、ただひたすら前に、前に向かっていた────────。
(プロローグ編 完)
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【にこまき物語 第五話】
真姫は家に戻る道すがら、先程の事を思い出していた。
希から言い渡された”お題”の事を考えると、無意識に苦虫を噛み潰したような表情に変わる。
──それでも、やるしかない!
真姫は首を大きく左右に振ると、気合を入れ直すようにグッと前を見据える。その瞳は今空で輝いている星々と同じように輝いていた。
◇
「──それで私達はニコを助けようと思って、情報を集めてるんだけど、当日の事を教えてくれないかしら」
時間は遡って、再び夕方の広場。
絵里から連合軍の壊滅という信じられない事実を突き付けられて、半ば放心状態に陥っていた真姫だったが、絵里の言葉ではっと我に返った。
顔を上げると、絵里と希の表情が先程よりさらに深く影を落としているように見えた。夕日のせいかもしれないが、その表情は真姫の不安を増々加速させた。
「────大丈夫?」
何も言えず茫然と立ち尽くしていた真姫に、希は心配そうな表情で話しかける。
「…………ええ、大丈夫」
「でも、顔真っ青やよ?」
真姫は自分自身でも顔に血の気がない事は気づいていた。全身は夏服で吹雪の中にいるほどの寒さを感じ、掌だけが汗でびっしょりと湿っている。不安が全身を襲う度に思考を止めようとするが、留まる事を知らない不安はヒタヒタと後から追いかけてきた。
それでも真姫は再び「大丈夫」と気丈な声で応えると、腹をくくった表情に変わる。
「分かったわ、そういう事なら話すわ、あの日何があったか……」
そして真姫はニコが攫われた当日の事を話し始めた────────。
「……………………なるほど」
一部始終を聞いた絵里は、重い気持ちを吐き出すように呟いた。その表情がさらに険しくなっているのは夕日のせいではないだろう。
「ねぇ、アナタ達、ニコちゃんを助けに行くの?」
ずっと俯いて懺悔のように話をしていた真姫だったが、急に顔を上げて絵里と希の二人を見る。その眼差しには強い覚悟が滲み出ている。その瞳から彼女が次に何を言おうとしているのか、絵里には想像がついた。
「ええ、そうよ…………」
「なら、私も連れて行って!!」
真姫の質問に絵里がため息交じりに答えると、彼女はその言葉に被せるような勢いで発言し、ずいっと上体を絵里の方に寄せる。絵里にプレッシャーをかけているつもりなのだろうが、その瞳一杯に溜まっている涙のせいで迫力に欠ける。
「……駄目よ」
絵里は詰め寄る真姫に対して冷たく言い放つ。
射抜くような冷たい瞳で睨まれて思わず一歩後ずさった真姫だったが、その場に踏み止まると絵里を睨み返す。
「お願い! 私、どうしてもニコちゃんを助けたいの!!」
「無理よ……戦闘も出来ないような子供に来られても、こっちも迷惑よ!」
真姫の懇願に対して、絵里は吠えるように拒否をする。
絵里の辛辣な言葉に、真姫はとうとう泣き出してしまった。それでもなお諦めきれないといった感じで絵里の事を睨み続けている。
「うっ……とにかく、駄目なものは駄目よ」
「待って! ……絶対、足手まといにはならないから!!」
「ちょ、ちょっと! しつこいわよ!!」
真姫の迫力に圧されるように、捨て台詞を吐いてその場から逃れようとした絵里。しかし、真姫は絵里の手を掴んで必死に懇願する。彼女の顔は涙でぐしゃぐしゃになっているが、そんな事など気にもかける様子もなく、強い意思を感じる瞳で絵里を見つめ続けている。
絵里が掴まれた手を振りほどこうとする度に、真姫は「ううう」と唸りながら増々強く握ってくる。
「…………真姫ちゃん、どうしてもって言うなら、きちんと両親の承諾を取ってきて」
二人の様子を見かねた希は、憂いを帯びた瞳で真姫に語りかける。
「そしたら、ウチらも真姫ちゃんを連れて行くことをちゃんと考えるよ」
希の言葉に、真姫は毒気を抜かれたようにキョトンとした表情に変わる。
「分かったわ!」
しかしそれもつかの間、真姫は自信満々な表情で大きく頷いていた────。
◇
希から言い渡された期限は一週間。
その間に両親の了解を取る必要がある。
「──よし」
真姫は玄関の前で大きく深呼吸をすると、勢いよく扉を開けた。
「ただいま」
いつもより少しだけ声が張ってしまったが、両親に違和感を持たれないように、と真姫は平然としたフリをして家の中に入る。
「おかえり、真姫」
最近帰りの早い父に出迎えられて、真姫は「ただいま」と小さく口にする。そして、できるだけ表情を変えない様に意識しながら本題に入る。
「──あのね、パパ。お願いがあるの……あのね、」
「まさか、あの友達を助けたいとか言い出すんじゃないだろうな?」
勇気を振り絞ってお願いをしようとした矢先父親に先を読まれてしまい、真姫の表情は凍りつく。予期しないカウンターパンチを喰らってしまった真姫は、そのまま時間が止まったかのように固まってしまった。
「…………真姫、そんなに心配しなくても、ちゃんと国王様が助けて下さる……だから、安心してここで待っていなさい」
真姫の父は、固まってしまった娘を両腕でぎゅっと抱きしめると、子供をあやすような優しい声で話しかける。
その低くて穏やかな声は耳心地がよく、真姫は思わず父の言葉に流されそうになった。
「……それじゃダメなの、パパ。……連合軍はもうすでに壊滅しているの!」
真姫が顔を上げて訴えると、父親は可哀想な子を見るような目で真姫の事を見つめ返してくる。
「余程、怖い夢でも見たのかな? 真姫、連合軍が壊滅しただなんて、そんな事あるわけないじゃないか」
「パパ……でも…………」
「大丈夫だよ、真姫。仮にもしそんな話があったとしても、真姫より私の耳に入るほうが先だろう……まだ私も知らないということは、少なくともそんな事にはなっていないさ」
確かにこの町で病院を経営している父は、他の人たちよりも優先して情報が入ってくる。特に、軍事関連の情報は、緊急の救急先となりえる病院には真っ先に連絡が来るのだ。
過去にも魔王討伐軍が編成されたことがあり、その際は各町の大きな病院には真っ先に連絡が来ていた。
しかし討伐軍が動くより先にニコが魔王を討伐しまったため、その討伐軍は出番もなく解散したと聞いている。
「パパ……分かった…………」
父親の言葉を聞いても安心することが出来ない真姫は、不安な気持ちを押し隠すように父の胸に顔を埋める。
それでも胸騒ぎが収まることは無かった────。
◇
初日の説得は失敗に終わってしまった真姫だが、彼女は諦めることなく事ある毎に両親への説得を続けていた。しかし、攻略の糸口は一向に見つからないまま、六日間が過ぎていた。
そんな彼女の様子を遠目で眺めていた絵里は、おそらく両親の説得は出来ないだろうと高を括っていた。
「……どうしたの、希? そんな真剣な顔をして」
宿屋の一室でテーブルに広げたカードを真剣な表情で見ている希の様子が気になった絵里は背中越しに声をかける。
得意のタロット占いをしているのだろう、何を占っているのかは分からないがその表情からあまり良い結果ではなかったと推測される。
そんな絵里の予想通り、希からあまり嬉しくない言葉が返ってきた。
「いやな、真姫ちゃんが両親の説得をできるか占ってみたんやけど…………これは、ちょっと大変なことになりそうやね……」
「……どういう事?」
「カードが言うには、どうやら真姫ちゃんは強行突破に踏み切りそうなんよ……下手すると、ウチらと一緒に行くことを諦めて、一人で飛び出してしまうかもしれへん」
「ええ!? 一人って……まさか……」
「…………そうならんことを祈るしかないな……」
希の深いため息に、絵里は戦慄を覚えた。いくら何でも、戦闘の素人が一人で魔王討伐の旅に出るなど、小学生でも分かるほど無謀な事だ。
しかし、一週間前の彼女の顔が脳裏に浮かび絵里は思い直す。自分が圧されてしまう程の迫力と思いつめたような表情をしていた彼女なら確かにありえる、と。
「……えりち、もしもの時は…………」
希の縋る様な目に見つめられ、絵里は大きくため息をついた。
「……分かったわ、その時は私達で何とかしましょう……」
ぱぁっと明るくなる希の表情が可愛くて、絵里もつられて笑顔になる。この笑顔が見たいがために過去何度も無茶をしてきて、その度にそんな自分に対してどうしようもないなと少し呆れていた。
今回もちょっと大変な事を引き受けてしまった、と後悔をしつつも希の笑顔を護れた自分を少しだけ褒めていた。
◇
希の祈りも虚しく、約束の期限になっても両親の説得が出来なかった真姫はとうとう強行手段に踏み切った。
「アナタ! 大変! ……真姫が!!」
二階から響き渡る真姫母の声に、驚いた真姫父は慌てて二階に上がる。
真姫母は驚愕の表情で娘の部屋の前に立ちつくしている。部屋の扉は開け放たれ、その先に見える何かに驚いているようだ。
「どうした、何があったんだ? …………なっ!?」
真姫父が彼女の視線の先を追いかけると、予想外の事態に驚愕した。
視線の先に見える真姫の部屋は、窓まで開け放たれていて、サッシに掛かっているはずのカーテンはベッドに括りつけられ、窓の外にまで伸びている。
自分の娘がよもや二階から外へ飛び出すとは、夢にも思わなかった二人は狼狽する。
「どうしましょう、アナタ……真姫が……真姫が…………」
「落ち着くなさい、まだそう遠くへは行っていないはずだ! 私は外を見て来るから、お前は知り合いに連絡して、捜索に協力してもらえるように、お願いをするんだ!」
「……ええ、分かったわ!!」
そのまま、二人は急いで下へ駆け下りて行った────────。
◇
──とんとん。
「はーい」
絵里は返事をすると、部屋のドアを開けた。
扉の向こうには、肩で粗く息をしている真姫が立っていた。
「ハア、ハア……約束どおり、両親を説得してきたわよ……これで、一緒に連れて行ってくれるんでしょ?」
明らかに嘘だと分かる真姫の言葉に絵里は目を丸くしたが、希の占いの事もあり、このまま追い返すのは得策ではないと考えて部屋の中に案内する。
真姫はそれを了承の意と勘違いして、ぱぁっと表情を明るくしていた。
「──で、両親の説得はできていないのでしょう?」
真姫を席に座らせると同時に絵里は彼女に詰め寄った。
油断していた真姫は、突然図星を突かれて驚きの表情に変わったものの、すぐに反論する。
「ちゃんと、説得したわよ!」
本当に説得したのだと相手に思わせるために、真姫はしっかりと絵里の瞳を見つめながら、はっきりとした声で応える。
しかし、相手はまるで騙される様子もなく、あっさりと反論が返ってきた。
「嘘ね……じゃないと、こんな夜中に押しかけては来ないでしょう…………そんなに息を切らせて」
「ぐっ……そ、それは……一秒でも早くニコちゃんを助けたくて……」
往生際悪く言い訳を重ねる真姫に、絵里はため息をつく。
「じゃあ、一応今から貴女の家に行って、両親に確認とるけど、それでいい?」
「そ、それは…………!!」
決定打を喰らった真姫は、そこで俯いてしまう。その様子を見て、説得は失敗したのだと絵里は確信した。
(まさか、本当に強行手段に転じるとはね……見た目は大人しくて、賢そうな子なのに……やることは結構強引ね)
希から予め占いの結果を聞いておいて良かった、と絵里は希の方を見る。
希はドアの前に立って、こちらの様子を窺っている。おそらく、真姫が突然飛び出してしまわないように、扉を閉鎖しているのだろう。
希と目が合った絵里は困った表情を浮かべると、希が満面の笑みを返してきて、八の字に曲がった絵里の眉毛がさらに大きく曲がった。
この後どうするべきか、と絵里がしばらくの間思案していると、おもむろに希が口を開いて、
「お、来たみたいやね……真姫ちゃん、お客さんやよ」
と言ってドアを開けた。
それと同時に、ドタドタとこちらに駆け寄ってくる大きな足音が廊下に響き渡る。
「真姫!」
父の大きな声が聞こえてきて、真姫はビクッと肩を震わせた。
しかし名前を呼ばれても、真姫はドアから背を向けたまま動こうとはせず、何かに耐えるように肩を小刻みに震わせている。
その様子を見た父は、ずかずかと部屋の中に入ってくると、彼女の肩を掴んで無理やり正面を向かせた。
「痛い!」
「バカ者! 全く、何を考えているんだ!! さぁ、早く帰るぞ」
「嫌! 私は、もうあの家には帰らない!」
「真姫……!」
実の娘から予期しない言葉を聞いた父親は、ショックのあまりその場で固まってしまう。父の様子を見ていた真姫は、隙をついてその腕から逃れるとその場から逃げ出すようにドアに向かって走り出した。
────パシン!!!
しかし、真姫の脱走劇はすぐに幕を下ろした。
ドアの前には真姫と同じぐらいの背をした女性が立っていて、その人の痛烈なビンタを頬に受け、真姫は痛みのあまりその場に立ち尽くす。
「──────ママ……!」
真姫にビンタをお見舞いした女性は、その瞳にいっぱいの涙を溜めこんでいた。
「真姫……お願い……帰ってきて」
背中に手を回し、ぎゅっと娘を抱きしめた母親は、堰き止めが崩壊したように涙を流している。母の柔らかい温もりを感じた真姫は、罪悪感から胸を強く締め付けられた。
「ママ……ごめんなさい……私、どうしても行かなきゃいけないの…………」
真姫の言葉に、母が息を呑んだ事が背中越しに伝わる。
それでも、もう真姫の決心は揺るがなかった。
「私ね、ニコちゃんの事が本当に大切なの……彼女の居ない世界で生きる事なんてできないくらいにはね」
落ち着きはらった真姫の声は、その言葉にとてつもない重さが秘められていることを感じさせた。
「────でも、だからって真姫が行くことはないじゃない、国だって動いているのよ?」
涙で腫らした瞳でなおも母は娘に訴えかける。
それでも、真姫は軽く首を横に振ると、強い意思を秘めた瞳で母を見つめ返す。
「ニコちゃんは、私を助けるために何度も命を懸けてくれたの……今度は私の番」
真姫の瞳から伝わる強い意思に、母は全てを悟ったように哀しげな表情で自分の娘を見つめ続ける。
「それに二年間もニコちゃんに会えないの我慢してたんだから…………もうこれ以上は限界」
そう言って、真姫は苦笑いを作る。冗談めいて発した言葉だったが、その言葉に娘の本心が僅かに垣間見え、両親は何も言えなくなってしまった。
真姫がそんな風にニコの事を想っていたという事実に驚いたのは、絵里と希も同じだったようで二人とも口をポカンと開けて呆けている。
「ごめんなさい、パパ、ママ。私は、勘当されてでもこの町から出て行くつもりなの……例え一人でも、ニコちゃんを助けに行くわ……本当にごめんなさい」
口でこそ謝罪はしているものの、家に帰るつもりは無い、と娘の覚悟を見せつけられた両親は、諦めたようにうな垂れてしまった。
「…………そうか」
ポツリとしわがれた声で呟いた父の言葉は、罪悪感となって重く真姫の心に圧し掛かった。目の前で子供のように泣きじゃくって娘を抱く母の姿は、真姫の心に深く傷を残す。
しかし、どのような事象も真姫の決心を揺らがすことはなく、彼女は優しい瞳で父と母を見つめるだけだった。
そんな家族の様子を見ていた絵里は、意を決したように口を開いた。
「あの、私、絢瀬絵里と申します。真姫さんのことですが────────────」
◇
その後、絵里と希が真姫の護衛を務めるということで決着がついた。
絵里は真姫の両親に自分達の職業や目的を説明し、「目的が一緒だから私たちが彼女の護衛もします」と付け加えた。ただし、混乱が生じる事を恐れて、連合軍が壊滅したという事実だけは伏せておいた。
絵里が説明をしている間、希は初めからこうなる事が分かっていたかのように、安心した笑顔で絵里を見つめていた。
「さ、行くわよ!」
「はい、お願いします、絵里さん、希さん」
真姫はこれからお世話になる二人にぺこりと頭を下げる。
「呼び捨てで良いわ、真姫」
そう言うと、絵里はすっと手を差し出す。
真姫はその手をとって、握手を交わしながら「分かったわ、絵里」と返す。
「ウチも呼び捨てでいいよ、真姫ちゃん」
絵里の隣に並んでいる希からもそう言われ、
「よろしくお願いします、希」
と改めて挨拶をした。
町の入口に立っているのは三人だけで、周りには見送る人もいない。
──両親とはもうお別れは済ませた。
真姫は、門の外に広がる世界を睨みつけながら、大きく一歩足を前に踏み出した。
その歩は振り向く事など忘れ、ただひたすら前に、前に向かっていた────────。
(プロローグ編 完)
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