FC2ブログ

【やさしい教師のいじめかた】

どうも、SS担当タイヤキです。

……お久しぶりです(汗)
ここ数ヶ月程イベント告知しかしてきませんでしたが、ひさしぶりにSS投稿です(土下座)

それはそれとして、今日はプリキュアとラブライブが山場でしたね。
プリキュアは、ひめちゃんの心に響く言葉で遂にいおなちゃんも仲間になって、これからが楽しみです!
それにしても、どのキャラも可愛いとか、もうどうしたらいいのか分からない……(混乱

ラブライブは、ある意味良い最終回でした。
詳しくはまだご覧になってない方もいらっしゃると思いますので書きませんが、
本当に、ラブライブっぽい終わり方だったなと、妙に納得してしまいました(笑
……ラブライバー達の歓喜の声がこだまして聞こえてきそうです(ボソ

で、今回のSSですが、妙な設定にしたせいでキャラが崩壊してます。。。
なのはちゃんの「真っ直ぐさ」と、フェイトちゃんの「バトルマニア」、はやてちゃんの「悪戯好き」だけは
辛うじて残っているはず……(冷汗
設定は、不良のフェイトちゃんとその幼馴染のはやてが通う学校に、教育実習に来るなのは先生!
からの、フェイなの!!
年下攻めが好きなんです……ごめんなさい(先に謝るスタイル)

……しかも、文字数がいつもの倍ほどあります(テヘペロ☆

それでも構わん! と言って頂ける方は、以下からどうぞ(※百合注意)
----------------------------------------------------
【やさしい教師のいじめかた】
 
 ────ああ、鬱陶しい
 
「えー、やっだぁ~、マ~君ってばぁ」
 
「いーじゃねぇか、さぁや、なぁ」
 
「えー……」
 
 フェイトは目の前でイチャついているカップルから顔を逸らすことも出来ず、不機嫌な表情で睨み続ける。しかし、目の前のバカップルには全く効果はなく、周りの雰囲気さえも意に介すことなく、お互いを見つめ合って話し続けている。
 
 フェイトは、そんな二人の様子に増々気分が沈んでいき、久しぶりに学校にでも行ってみようか、などと気紛れな考えを抱いた数十分前の自分自身を軽く呪ってしまいたくなった。
 ただでさえ、朝のラッシュに晒された電車の中は、すし詰め状態だと言うのに……。
 スーツ姿の男たちに四方から押され、身動きのとれないフェイトは、楽しくもないカップルの様子を見続けるしかなかった。
 
 
 
     ◇◆◇
 
「────ふぅ」
 
 フェイトは靴箱から上履きを取り出しながら、小さくため息をつく。
 電車の中での出来事は、フェイトのやる気を十分に削いだが、それでも学校に来たのは、ちっぽけな意地を守るためだった。その事が増々、フェイトをうんざりさせた。
 
 フェイトは、もやもやとした気持ちを抱えたまま、気怠い足取りで教室に向かう。
 腰まで伸びた長い髪は金色に輝いていて、人の目を引く容姿の上に、日頃の素行の悪さも相まって、学校でフェイトはある意味有名人だった。
 だから、教室に向かっている間、生徒達が遠巻きに不安そうな視線をこちらに向けて、ひそひそとお互いを支え合うように囁く光景は、フェイトにとって日常的なものだ。
 がらっと教室の扉を開けると、ざわざわと騒がしかった教室の雰囲気が、一瞬にして凍り付いたように静かになる。これも、よくある光景だ。
 フェイトは、教室の冷ややかな空気など気にもかけず、自分の席に座る。
 
「おはよー、フェイトちゃん」
 
 そうだった、とフェイトは軽い口調で挨拶をしてきた人を見上げる。
 そこには、肩に掛からない程度の髪に、人懐っこい垂れ目の女の子が立っていた。
 彼女の名前は八神はやて。言葉が関西訛りなのは、小学生の頃に関西から海鳴市へ越してきたからだ。
 そして、そんな彼女の面倒を当時クラス委員をしてたフェイトが見る事になり、それからずっと同じクラスで……つまりは腐れ縁という間柄だ。
 
「はぁ……、相変わらず物好きだ……いいのか?」
 
「何が?」
 
「私になんか、声をかけていたら、クラスから浮くぞ」
 
「お? なんや、ウチの事心配してくれてるん?」
 
「はぁ? そんな訳ないだろう!」
 
「またまたぁ、そんな事言うて、ツンデレさんやなぁ」
 
「な!? だ、誰がツンデレだ!!」
 
 フェイトの言葉に、向いに立つ少女はにやけた顔に変わる。まるで手のひらで遊ばれているような感覚に、フェイトは不機嫌そうに顔を背けた。
 
「あ~、ごめん、フェイトちゃん。久々に学校に来てくれたもんやから、つい意地悪してもうた……けど、愛ゆえに、やねんで?」
 
 何が愛ゆえに、だ。
 フェイトは、へらへらした笑顔を浮かべているはやてを横目で一瞥する。しかし、一方のはやてはそんなフェイトの冷たい視線など気にする様子もなく、ニコニコとした表情のまま、楽しそうにフェイトを見つめている。
 
「……はぁ、ホント図太くなったよね、はやては……」
 
「ん? こんな、か弱い女子を捕まえて、フェイトちゃんはひどいなぁ~」
 
「良く言うよ、全く……か弱い女子は私に話し掛けたりしない」
 
「ホンマ、皆損しとるよなぁ~……本当のフェイトちゃんは、こ~んなに可愛らしいのになぁ」
 
 満面の笑みで億尾もなく褒めるはやて。
 唐突で、真っ直ぐな褒め言葉に、フェイトは恥ずかしくなって赤面してしまう。
 
「うるさい! 私は、そんなんじゃない!!」
 
 フェイトは赤面した理由を悟られまいと声を荒げると、教室はしんと静まり返った。
 目論見通り、クラスの生徒達は勘違いをしたのだと、フェイトはほっと心の中でため息をつく。
 はやての表情を確認すると、彼女の表情は全く変わっていなかった。きっと、はやてには赤面の理由も、怒鳴った理由も分かっているのだろう、フェイトは堪らなくなって、また彼女から顔を逸らした。
 
 
 
     ◇◆◇
 
 あのまま会話を続けていたら、フェイトの今の立ち位置は大きく変わっていたかもしれない。しかし、タイミング良く鳴ったチャイムにフェイトは助けられた。
 
「今日は、皆に紹介したい人がいます」
 
「先せ~い、それってもしかして転校生ですか?」
 
「残念、ハズレで~す♪ さ、入ってきてー」
 
 担任の言葉に、クラスのムードメーカ的存在の生徒がすかさず質問を返す。
 しかし、その質問は予め想定されていたようで、先生はにんまりとした表情に変わる。フェイトはそんなクラスのやり取りがつまらないとばかりに、窓の外を眺めていた。
 
「失礼します!」
 
 凛とした声の後に、ガラッと教室の扉を開けて入ってきたのは、グレーのスーツに身を包んだ女性だった。
 腰まである長い髪は頭の横で一つに束ねられ、黒目がちで大きな瞳は、どこか可愛らしい印象を与えている。
 
「教育実習で、今日から三週間、この学校のお世話になります、高町なのはです。至らぬ点もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします」
 
 彼女の自己紹介はすこし声が震えていて、緊張していることが伝わってくる。しかし以上に耳についたのは、妙に堅苦しい挨拶だった。それに、深々と頭を下げている姿勢にも妙に迫力があり、普通の教育実習にきた大学生といった感じがしない。
 
 (まさかね……)
 
 あんなにも可愛らしい女性がそんな訳がない、とフェイトは変な考えをあっさりと捨てると、再び窓の外に視線を戻した。
 
 (身長だって、おそらく私の方が高いし)
 
 フェイトは中学生の中でもかなり背の高い方で、学校内ではどの女の先生よりも高かった。一方、教育実習の先生は、担任の女先生よりも少し身長が低いようだった。
 背の高さが全てではない事は分かっているが、フェイトの中では学内の力関係を考える上で重要なパラメータとなっている。因みに、身長は学内トップが体育教師で、自分自身は10番目以内にはいた。
 フェイトは、耳に入ってくる彼女の声を聞きながら、彼女を自分よりも下に配置するように、脳内の番付を更新していた。
 
 
 
     ◇◆◇
 
 学校に来る、という目標を達成したフェイトは、一時間目が始まる前に、さっさと教室を出て行った。目ざとくはやてに見つかったが、何も言わずに玄関を出て行った。
 
 そのまま、家にも帰らず商店街をブラブラしていると、なじみのゲームセンターを見つけて、そこに入る。
 平日の朝ともあってか、大学生らしい人が数人いるだけで、店内はガランとしていた。
 
「よぉ、フェイトちゃん。また学校さぼりかい?」
 
 気さくな感じで声をかけて来たのは、この店の店長。週に3日はこの店に来ていたこともあり、フェイトはすっかり顔なじみになっていた。
 
「まぁね」
 
「か~! 全く困った生徒だねぇ~、こりゃ学校側も大変だ」
 
「ふん、何を今さら」
 
「まぁ、俺もはみ出し者だからエラそうなこたぁ言えねぇが、あんまし褒められたもんじゃねぇぞ」
 
「……ふん、説教なら聞く耳持たないよ、ヴァイスさん」
 
「…………はぁ、まあいいけどよ、ほどほどにしとけよ」
 
 そう言い残して、ヴァイスは店の奥へと引っ込んでいった。
 フェイトは手頃な台を見つけると、イライラした様子でドカッと座り、ポケットからコインを取り出す。そして、それを感情のままに投入口に放り込んだ。
 
 
 
      ◇
 
 どのぐらい時間が経ったのだろう。ふと周りを見渡すと、随分とお客が増えていた。フェイトは座った状態で、入口の自動ドアから外の様子を窺うと、陽に当たるビルの色が少しオレンジがかっていた。ポケットからスマホを取り出して時間を確認すると、もう夕方の五時を少し回ったところだった。
 もう一戦したら帰ろう、とフェイトはいつの間にかバケツ一杯まで増えたコインを掴む。店の奥では、ヴァイスが苦虫を潰したような顔をしているのが、視界の隅に映った。
 
 (無理もない)
 
 ほとんどタダ同然で店に何時間も居座られた挙句、店に来たときよりもコインが増えているのだから、店側としては堪ったものではない。しかも、それは今日だけではなく、毎回なのだから、ヴァイスからすれば文句の一つでも言いたくもなるのだろう。
 フェイトは、彼の姿に少し同情したが、同時に口元から小さく笑みが零れていた────。
 
 ほとんど無意識に近い形でゲームをしていたフェイトは、いつの間にか勝利していたようで、画面上に大きく”WIN”の文字が表示されている。
 
「くっそ! このアマぁぁぁ!!!!」
 
 ガタンという大きな音がゲーム機を挟んだ反対側から聞こえてきて、帰ろうとしていたフェイトは顔を上げた。
 その男子は真っ黒の学ランに身を包み、髪は真っ赤に染め上げら、ツンツンに立てていた。怒髪天を突くと言う言葉がまさにぴったりな格好をしている。その両脇には仲間と思われる男子学生が二人立っている。
 フェイトはおもむろに立ち上がると、向いに立つ不良達を睨みつけた。
 
 相手は三人────────だが、フェイトより背は低かった。
 
 フェイトにとって背の高さは力関係を推し量る上で重要なパラメータだった。
 睨みつけられた男子共は、思いの外フェイトの背が高いことに驚いたようで、一瞬顔が引きつったが、彼らのプライドがすぐにそれを隠した。
 
「おい! お前、なめやがって!!!」
 
「…………」
 
「何とか言えや!」
 
「…………弱い犬ほど良く吠える」
 
 フェイトの言葉に、赤髪の男はブチっという音が聞こえそうな程、額の血管を浮き立たせている。そして、その顔は髪の毛と同じくらい真っ赤に変わっている。
 一方のフェイトの表情は冷ややかだった。この程度の相手なら、いきなり襲いかかられても返り討ちにできるという自信がフェイトにはあった。
 
 ”金色の死神”
 
 それがフェイトの二つ名だ。この地区周辺で、この名を知らないものは居ない程度には、フェイトは強かった。
 おそらく、両脇の男共はその事に気づいたのだろう、そうでなければ、中央の男とは対照的に、顔を真っ青にして身を引いたりはしないはずだ。
 
「てめぇ……この俺様を侮辱するとはいい度胸じゃねぇか…………」
 
「リーダー、やべえよ、こいつ……」
 
「あ゛!?」
 
「……こいつ、金色の死神って呼ばれてる奴ですよ……」
 
「あ゛あ゛!? だから、何だってんだ!!」
 
「この間、コイツのせいで西高の東糺(とうれ)が病院送りにされたって……」
 
 右隣の男の告げ口に、赤髪の男はフェイトを品定めするように片方の目だけ大きく見開くと、にたりと不気味な笑みを浮かべた。そして、まるで蛇のように舌をべろりと出す。どうやらリーダーの男は、取り巻きの忠告を聞き入れるつもりはないようだ。
 
「……おもしれぇ」
 
 男の言葉をフェイトは冷ややかな視線で受け止める。この後に続く言葉は、大方想像がついた。そのくらいには同じシチュエーションをフェイトは経験してきている。
 
「ちょっと表ぇ出ろや……まさか、金色の死神とまで呼ばれてる奴が、のこのこ逃げたりはしないよなぁ~?」
 
「いいけど……後で後悔するだけだよ」
 
 フェイトの声はどこまでも冷たかった。しかし、男は満足気に伸ばした舌で唇の周りをべろりと舐めまわすと、「こっちへこい」と言って自動ドアに向かって歩き出した。
 
 
 
      ◇
 
 連れて来られたのは、ゲームセンターの裏側にある小さな空地だった。
 何度もゲームセンターを訪れていたフェイトだが、このような場所があった事は知らなかった。
 
「ケケケ……のこのこと付いてきて良かったのかぃ? 金色の死神さんよぉ~……ケケケ」
 
 空地についた途端、赤髪の男の雰囲気が変わった。それまであったリーダーっぽい覇気は消え、ぴんと伸ばしていた背筋も猫背に変わった。フェイトを見る瞳は大きく見開かれ、狡猾そうな雰囲気を感じさせる。
 
「良くおびき出した、九阿戸(くあと)」
 
「な!?」
 
 突然ビルの隙間から聞こえた声に、フェイトは驚きの声を上げた。
 ぞわっとした感覚がフェイトの全身を襲う……どうやら、罠にはめられたらしい。
 ぬっと空地の奥から人影が現れる。
 
「へぃ、相手が単純でぇ、思ったより簡単でした……ケケケ」
 
「ふ、そのようだな」
 
 冷笑を浮かべるその男は、白衣に身を包んでいる。肩まで伸びた黒々とした髪は、手入れなどしていないようで、毛先が好きな方向へはねている。
 
「やあ、金色の死神さん! こうしてお目にかかるのは初めてかな」
 
「へぇ、貴方が噂の”マッドサイエンティスト・須狩(すかり)”か?」
 
「おやおや、光栄だねぇ、僕の名前を知ってくれているとは!」
 
 須狩はにやりと気持ちの悪い笑みを作り、大袈裟に両腕を広げて喜びをアピールしている。この男もまた、フェイトと同様にこの地域で知らないものは居ない程有名だった。この辺ではナンバー2の実力だと噂されていた……因みに、フェイトはナンバー3らしい。
 しかし人の噂など当てにならない、とフェイトは須狩を見て思った。
 もっと大柄な男だと想像していたが、思った以上に痩せこけている。身長は確かにフェイトより高かったが、とても強そうには見えない。
 
「まぁ、この辺りのナンバー2という噂だからね……でも、今日ナンバー3に落ちそうだけど」
 
「ククク、思ったより饒舌なお嬢さんだが、果たしてそれはどうかな?」
 
「ふん、貴方に私が倒せるとでも?」
 
 須狩はフェイトの言葉を待ってましたと言わんばかりに、口の端をさらに吊り上げる。
 
「……君は、何か大きな勘違いをしているようだ」
 
「なに?」
 
 須狩の言葉に、笑みに、フェイトは妙な胸騒ぎを覚えた。背筋を冷たい汗が流れる。
 
 ────そして、その嫌な予感は的中した。
 
 須狩が歩いて九阿戸の側まで歩き始めると、その奥からぞろぞろと彼に付いてくる人影が見えた。最初から、一対一でヤルつもりは無かったようだ。
 
 (それにしても、多すぎる!)
 
 フェイトは、付いてくる人影の多さに目を見張る。その数は、少なく見積もっても三十人は居た。
 
「”私”が倒すのではない……”私達”が倒すのだよ…………ククク、皆、金色の死神に引導を渡せるとあって、張り切ってねぇ~」
 
 フェイトの表情が予想通りのものだったのだろう、須狩は面白そうにクククと口を押えて笑っている。その様子が癪に障ったものの、それどころではないフェイトは、ぐるりと回りを見渡して、グッと拳を握る。
 
「なるほど、これが貴方のやり方というわけか……」
 
「ククク……」
 
「数だけで勝てると思っているなら、貴方は私には勝てないよ」
 
 少しずつ冷静さを取り戻してきたフェイトは、落ち着いた声で相手を挑発した。
 しかし、須狩は表情一つ変えなかった。
 
「数だけ……ならね、さぁ! お前たち、思う存分暴れるといい!! パーティの始まりだぁ!!!!」
 
 両手を大きく掲げて宣誓する須狩の声を合図に、取り囲んでいた男共が一斉にフェイトに向かってきた。
 しかし、一斉にといっても連係プレーなど存在しない不良達の攻撃は、360°から同時に繰り出されるわけでもなく、右、左、後ろと順に仕掛けてくる不良達の攻撃をフェイトは軽々と躱していく。
 スピードは、フェイトの最大の武器だ。どの方角から攻撃がくるかさえ判れば、躱すことは容易だ。唯一死角となる背後の攻撃も、常に体を回転させることで対処していた。
 そして、相手の攻撃の流れが止まった時を見計らって、回し蹴りを叩き込む。それが、フェイトの常勝手段だった。
 
「はっ!!!」
 
 今回も、いつものように相手の攻撃が止まった所で、回し蹴りを正面の男の鳩尾(みぞおち)目掛けて繰り出す。
 しかし、足から伝わる感触はいつもと違っていて、まるで丸太でも蹴ったような感覚とドグっという鈍い音に、フェイトは驚いて相手を見る。
 確かに鳩尾に当たっているハズなのに、相手は平気な面で立っていた。
 
 (中に何か着込んでいるのか?)
 
「ご明察! そう、こいつら全員、防弾チョッキを着ているのだよ!! クク……ハハハ!!」
 
 またしても、フェイトの心情を察したように補足する須狩。フェイトはその男の発した言葉に驚きを隠せず、口をあんぐりと開けた。
 
「ぼ……防弾チョッキ!?」
 
「やり過ぎだと思うかい? まぁ、死神と呼ばれる相手とやるんだ、このくらいは準備しないと失礼だろう?」
 
「…………バカだ」
 
「だが、あまり筋力の無い君相手なら、効果的だろう?」
 
「……ふん、そんなもの胴体以外を狙えばいいだけの話だ!」
 
「フフ、しかし的が小さくなると君の得意の回し蹴りは当てにくいのではないかね?」
 
「────なめるな!」
 
 須狩の挑発に乗る形で、フェイトは回し蹴りを正面に突っ立っていた男の顔面にお見舞いした。今度は、いつもの肉がめり込むような感触が足を伝う。同時に、「ぐあっ」と短い男の悲鳴が空地に響く。
 
「──ほう、流石だ! しかし、いいのかい? うら若き乙女がそんなに足を上げて……パンツが丸見えではないのかッ!!」
 
「ふん、精神攻撃のつもりか? お生憎様、スカートの下は短パンだ!」
 
 攻撃が有効であることを確かめたフェイトは、次々に男共を屠っていく。
 躱しては、相手の動きが止まった所で、頭部への攻撃。その繰り返しだ。そして敵数は、十分も経たない間に三分の二まで減った。
 
 (いける!)
 
 少し息は上がっているものの、このペースならそこまで苦戦せずに片を付けられそうだとフェイトは減った敵の数を見ながら計算を立てる。
 
「いや~! 見事だ!!」
 
 すると、突然思い出したかのように、須狩が声を張り上げた。
 両手を広げて空を見上げる姿は、やはり大袈裟だ。
 
「なんだ、降参する気にでもなったのか?」
 
 フェイトは皮肉っぽく言うと、須狩は「まさか!」と大きく開いた目を向けてくる。
 数の上では確かにまだ相手の方が上だが、今までの流れでは須狩側の方が不利になることは分かっているはずだが、その表情には、焦りも動揺も見られない。よく見ると、周りの男共の表情もまだにやけたままだ。
 
「……随分と余裕だな、いいのか? そんなにのんびりと構えていて」
 
 フェイトは男共の余裕面が気に食わないとばかりに、低い声で唸った。
 
「そうだな、そろそろ次のフェーズに移行しようじゃないか!」
 
 その言葉に、フェイトの周りを囲む男達の雰囲気が一変した。口は相変わらず片端だけ吊り上げていたが、眼光は獣のように鋭い。そして、全員が両腕を前に出し、ボクサーのようにファイティングポーズを取った。
 フェイトは、彼らの放つ殺気に飲み込まれまいと、敵の攻撃に備えて構えを取る。
 
「さぁ、諸君!! 君たちの時代は目前だ!! 思う存分やるがいい!!!!」
 
 須狩の声に呼応するように、うぉぉぉという怒声が男共から発せられる。その声は、地面を震わせていると錯覚してしまうほどの迫力があった。
 その怒声が静まらない内に、正面の男がファイティングポーズのままフェイト目掛けて突進してきた。
 何だかんだと能書きを垂れていた割に、仕掛けられた攻撃のシンプルさにフェイトは拍子抜けした。結局先程の繰り返しか、とひらりと敵の突進を躱した──。
 
 しばらく敵の攻撃を躱して行くうちに、フェイトは異変に気付いた。
 
 (敵の攻撃が止まらない?)
 
 単純に突っ込んできているだけの攻撃だが、その攻撃は休むことなく各方面から繰り出されてくる。それだけではなく、徐々に包囲網が小さくなってきていた。
 
 (このままでは、逃げ場がなくなる!?)
 
 フェイトがその事に気づいた時には、すでに手遅れだった。グッと包囲網を一気に縮められ、ついには左右に躱すスペースさえ無くなってしまった。
 それでも、辛うじて攻撃を躱し続けていたフェイトだが、上に躱した所でその足を掴まれて思いっきり地面に叩きつけられた。
 
「ぐぁ!!」
 
 フェイトは、その衝撃に耐えきれずに低い呻き声を上げる。メキメキっと骨が軋む音が耳の奥から聞こえてきた。
 
「ククク……仕上げは上々だ!!」
 
 遠くから、須狩の自信に満ちた声が聞こえてくる。
 
「ここまで、か……」
 
 フェイトはひんやりとした冷たい地面の感触を頬で感じながら、ひた暗い何かに体を浸食されていく。諦めたように呟いた言葉に、指先の感覚を奪われていく。……もう、足にも力が入らなくなっていた。
 自分の末路を想像するとあまりにも情けなくて、自分の人生の余りの惨めさに笑いが込み上げてきた。
 
 ──何とも、つまらない人生だった
 
「さぁ、これで終幕といこうじゃないか!!!」
 
 それでも、フェイトは力の入らない体をよろよろと持ち上げると、諦めたような虚ろな瞳で向かってくる男共を見た。男たちの目はどす黒い欲望に満ちていて、所詮自分は彼らの欲望の捌け口でしかなかったのだと思うと、悔しくて涙が零れてきた。
 
 (これで、終わり……か)
 
 フェイトは、零れる涙を止めることもせず、現実から目を背けるように顔を伏せた──。
 
「待ちなさい!!!!! あなた達、何やっているの!?」
 
 突然の静寂。
 甲高い女性の声に、男共の動きはピタリと止まった。須狩まで想定外と言わんばかりに、能面のように表情が固まっていた。
 しかし、フェイトは自分の世界に入ったまま抜け出せず、地面を見つめたまま現状の変化に気づかずにいた。
 
「あなた達、たった一人の女の子に……」
 
 つかつか、とヒールの音がフェイトの耳に入ってきた。その音に、フェイトは漸く自分がまだ無事であることに気づいて、顔を上げた。
 
「おやおや、ここは貴女のような一般人が来れるような所ではないはずだが……?」
 
 質問を受けた女性は、須狩を一瞥しただけで質問には答えず、倒れている少女の元へと歩いて行く。
 
「……大丈夫?」
 
 声をかけられたフェイトは驚いて振り向く。フェイトと同じ目線までしゃがんでいた女性と目が合う。
 
「…………あ、あなたは?」
 
 フェイトの驚いた表情に、女性はふわりと優しく微笑みかけると、掌をぽんっとフェイトの頭に乗せた。
 
「私は、高町なのは。今日から同じクラスで先生をやってるんだよ、フェイトちゃん」
 
 サイドポニーを揺らせながら、にっこりと笑う彼女に、フェイトは今朝の出来事を思い出した。
 
「…………私の名前……どうして」
 
「美人さんだから、すぐに覚えられたよ♪ でも、できれば授業に出て欲しかったなぁ~」
 
 なのはは笑顔のままのんびりとした口調でフェイトの質問に答える。その口調があんまりにも緊張感がないから、フェイトは茫然としてしまう。
 
「お取込み中のところ悪いが、関係ないなら消えてくれないか? それとも、ソイツと一緒に堕ちるかい?」
 
 須狩は、片方の目だけを異様に大きく開くと、楽しいおもちゃを見つけたような口調でなのはに問いかける。
 
「私は、この子の先生よ!」
 
 キッと須狩を睨みつけながら発した言葉は、須狩をキョトンとさせるだけだった。
 
「先生……ククク……ハハハハハハ!!!」
 
「何が可笑しいの?」
 
「……いやいや、これはこれは、そうですか……先生様でしたか……ククク」
 
 須狩は、笑いを堪え切れず、腹を押さえてこれ以上ないくらいに笑い転げている。
 
「仕方ないよ、この辺じゃ、先生なんてただのカツアゲの対象でしかないんだから……」
 
「え?」
 
 フェイトは笑い転げている須狩を睨みながら、なのはにだけ聞こえるように小さく呟く。フェイトの言葉に、なのはは驚いて小さな声を上げた。
 
「……先生は逃げて」
 
「え?」
 
 フェイトはヨロヨロと立ち上がりながら、隣でしゃがんでいるなのはに声をかけた。不思議と先程まで感じていた絶望感は、すっかり身体から消えていた。
 
 (それだけじゃない)
 
 目の前でこの先生を馬鹿にされると、なぜか怒りが沸々と湧いてきた。それは、きっとこの先生が初めてだからだ。
 
 (私を助けようとしたのは)
 
 だからこそ許せないのだ。例えこの身が砕けてでも、須狩には一矢報いねばならない。
 フェイトは、ほとんど力の入らない拳を握りしめ、須狩を睨みつける。
 
「須狩────!!!!!」
 
 フェイトは腹の底から声を振り絞って叫ぶと、配下達が作る壁に守られた須狩目掛けて、走りだした────。
 
「ダメ───────!!!!」
 
 しかし、二歩目を踏み出す前に、がっしりとなのはに腰を掴まれて、フェイトは慌ててその足を止めた。
 
「な……先生、何してるの? 早く逃げて!」
 
「そんなことできる訳ないでしょ! フェイトちゃんは私の生徒なんだから!!」
 
 反論の声はキンキンと甲高く、フェイトは堪らず両耳を手で塞ぐ。
 
「いや~、素晴らしい……その先生の意思を尊重して、二人仲良く嬲ってあげよう!!」
 
 須狩がじゅるりと嫌らしく舌で唇を舐めると、配下の男共も同じような目つきに変わる。
 
「では、パーティの第二幕と行こうじゃないか、諸君!!!!」
 
 須狩の声で、油断しきった男共は野獣のようにフェイトとなのはに向かってくる。フェイトは、何とか先生だけでも守ろうとしゃがんだままの彼女の前に突っ立つ。
 しかし、フェイトの蹴りが炸裂することは無かった。
 
「はっ!!」
 
 ドンっという車が衝突したような大きな音と同時に、先頭を走っていた男が後方へ吹っ飛ばされる。庇っていたはずの女性が何故かフェイトの目の前にいて、拳を突き出したままのポーズで止まっていた。
 何が起こったのか誰一人分からず、皆一応に立ち止まってしまう。
 
「な……な…………」
 
 比較的離れた所から見ていた須狩は、その一部始終が見えていたのか、なのはを驚愕の目で見ていた。
 
「…………もうやめない?」
 
 須狩に投げかけた言葉は、悲しみと懇願を帯びていた。
 
「……バカな、規格外すぎる……、お前たち、フェーズ2をもう一度だ!!」
 
 須狩が声を張り上げると、現状を上手く理解できていない配下達は、先程フェイトを追い詰めたファイティングポーズを一様に構える。
 
「行け──! 行け────!!」
 
 先程までの余裕など微塵もない須狩の甲高い声に、男共はうぉぉと地響きしそうな低い声を発しながら突進してきた。
 しかし、なのははその攻撃に動じる様子もなく、地に根を張っているようなどっしりとした構えを取る。
 
「────ダメだ! 先生、危ない!!!」
 
 その様子を見て、フェイトは必死で叫んだ。彼女の側まで行こうとしても、立っているだけでやっとの足は、小さく震えるだけで前に進めることができない。
 
「……大丈夫だよ、フェイトちゃん♪」
 
 そんなフェイトの心配を和らげるように、優しい声が返ってきた。その声に、男たちが襲ってきている最中だという事を忘れてしまいそうになる。
 同時に、なのはから向けられた笑顔は、フェイトの時間を止めてしまった。
 
「はっ!! やっ!! ふっ!!」
 
 正面に向き直ったなのはは、短い掛け声と共に拳や蹴りを繰り出す。その一発一発の重さが桁違いで、攻撃を受けた敵はポンポンと面白いように後ろへ吹き飛ばされていく。その様子は、まるでアクションゲームのようだ。
 なのはが拳を振る度に、ドンという相手が吹き飛ばされる音と、地面を踏みしめる音が重なりあって聞こえる。フェイトは、茫然とその光景を眺めていた。
 
 しばらくして、相手もなのはの強大さに気づいて、その足を止めてしまった。辺りを見渡すと、須狩の姿がない。
 
「あなた達のボスは、尻尾を巻いて帰ったけど、まだやる?」
 
 その声で、取り巻き達も慌てて周りを見渡す。須狩が居ない事に気づいて、ホントだ、げぇ、と男共は口々にして、慌てて逃げ始めた。
 
「あ! ちょっと、倒れてる子も連れて帰って~」
 
 最初から最後まで緊張感のない声でなのはが言うと、取り巻き達は恐る恐る倒れている仲間を抱えると、急いで逃げて行った。
 フェイトは、事態が収拾していく様を、未だに信じられないといった表情で眺めていた。
 
 
 
      ◇
 
「フェイトちゃん、大丈夫? 怪我してない?」
 
「大丈夫……ですよ、先生」
 
 先生なんて言葉、口にしたのは何時以来だろうか。敬語で話すのも久しぶりだ、とフェイトはむず痒い思いをしながら、なのはの質問に答える。
 須狩一味が散開し、静寂が訪れた空地でポカンとしていたフェイトに、なのはは心配そうな表情で覗き込んできた。
 
「ふふ……」
 
「……? 何か?」
 
「ううん、フェイトちゃんは他の先生から不良だって聞いてたから、きっとロングスカートにマスクしてるんだと思ってたら、すっごい普通の格好だし、おまけにびっくりするぐらい美人さんなんだもん」
 
「はぁ……」
 
「だから、学校で会った時は、先生達が嫉妬してたのかなって思ってたけど、まさか本当に不良だったとは思わなかった」
 
 満開のスマイルで、さらっと暴言を吐かれ、フェイトは返答に窮した。助けてもらった手前、他の先生達と同じような扱いはできなかった。
 
「それに、あの時、私の事守ってくれようとしたでしょ? なんかフェイトちゃんって、正義の味方みたい♪」
 
 アメと鞭とはこの事か、とフェイトは続けて投げられた言葉に、どう応えて良いか分からず、増々困惑して口を噤んでしまう。
 確かにフェイトはなのはを守ろうとしたが、結局はフェイトの方が守られる結果となったのだ。それに気づいて、恥ずかしくなったフェイトはなのはから顔を背ける。
 
「あ! フェイトちゃん、服ドロドロじゃない!」
 
「え? ……ああ、別にこのぐらい大丈夫ですよ」
 
「ダメだよ! 女の子がそんな恰好でフラフラ外を歩いちゃ! ほら!」
 
 ぐいっと突然に腕を引っ張られて、フェイトは訳も分からないまま、なのはに連れられるままに歩き出した。
 
 
 
     ◇◆◇
 
「……あの、先生?」
 
「んー? 何、フェイトちゃん? どこか痒い?」
 
「いえ、そうではなくて……どうして、先生が私の髪、洗ってるんですか?」
 
「どうしてって、フェイトちゃんが一人で洗えないっていうからー」
 
「そんな事、一言も言ってません! 私は、お風呂の準備はしなくていいですって言っただけです!!」
 
「えー? その後、一人で髪洗えないって言ったじゃーん♪」
 
「違います! 一人で髪を洗うのとか、色々時間がかかってしまうので、お風呂は結構ですって言ったんです!!」
 
「だから、私がこうして手伝ってるんだよ♪」
 
「…………はぁ」
 
「お客さーん、どこか痒いところはございますかぁ~?」
 
 フェイトは今、なのはの住んでいるアパートの風呂場にいた。泥だらけのままではダメだと言われ、半ば強制的に先生のお宅に連れて来られたのだった。
 アパートに着いた途端に、すぐに制服を引っぺがされて、洗濯機の中へ放り込まれ、逃げ場を無くしたフェイトはそのまま風呂場へ連行された。この先生はそれだけでは飽き足らず、フェイトが体を洗おうとした矢先、スーツ姿のままズカズカと風呂場に入ってきたと思ったら、フェイトの髪を無理やり洗い始めたのだった。
 この先生は、私を犬か何かと勘違いしているのか、と疑ってしまう程、フェイトの髪を洗うなのはの表情はご満悦で、「フェイトちゃんの髪サラサラだぁ~」などとの賜っている。
 
「先生……」
 
「なになに?」
 
「……今日は、……その、あ……ありがとう、ございました…………」
 
 なのはは、フェイトの言葉に一瞬目を丸くしたが、すぐに優しく微笑むと「どういたしまして」と言葉を返した。感謝の言葉を口にしたフェイトは、恥ずかしくなって口をキュッと結んでしまった。
 こんなに素直に気持ちを伝えることができたのは、おそらく先生の手が優しいからだろう、とフェイトは頭に感じる優しい掌の感触を感じながらぼんやりと考える。
 あんなにも大勢の男共を吹き飛ばした手だから、もっとゴツゴツとした感じなのかと想像していたが、なのはの手は普通の女性の柔らかさを含んでいて、髪を撫でられる度に、心地の良い感覚が全身に伝わってくる。
 
「それにしても、フェイトちゃんの髪も肌もホント綺麗だよね~、不良さんとは思えないくらい……」
 
 フェイトが感傷に浸っていると、なのはの指が突然フェイトの背中をツツツっとなぞる。
 
「!!!????」
 
 ゾワゾワとした感触が突然背中から襲ってきて、驚いたフェイトは声を上げることも忘れて、なのはの指から逃げるように背をピンと反らせる。
 
「な、何するんですか!」
 
「にゃはは、ごめんごめん」
 
 振り向いたフェイトは顔を真っ赤にして、なのはに向かって大声を上げるものの、なのはは笑顔でその怒りを受け止めると、軽い口調で謝ってくる。そして、茹蛸のように全身まで赤くなっていくフェイトに、「もうしないから」と謝罪の言葉を追加する。
 
「さ、フェイトちゃん、髪流すから下向いててね」
 
 なのはは苦笑いのまま髪に付いた泡を流そうとシャワーの柄を握った。文句を言い足りないフェイトだが、そこは素直に従うしかなかった。
 
 
 
      ◇
 
 髪を流し終わったなのはは、着替えの準備をしてくる、と言って、フェイトを残して風呂場を後にした。
 
 フェイトは体を洗い終わると、さっさと風呂場から出てきた。お風呂には湯が張られていたが、あまり長風呂が得意ではないフェイトは、申し訳ないなと思いつつも、お湯には浸からずに出て来たのだ。
 流石に、こんなに早く出てくると思われていないらしく、脱衣所にはバスタオルしか置かれていなかった。フェイトは仕方なく、バスタオルで体を拭くとそのままタオルを体に巻きつけた。
 
「先生ー、着替えあります?」
 
 リビングでなのはの姿を目にしたフェイトは、彼女に声をかけた。なのはは、ドタバタと忙しなく動き回っていた。
 
「え? うそ、もう出て来たの?」
 
「はい、あまり長い時間居座るのも悪いと思って」
 
「もー、そんなのいいのにぃ……あ、フェイトちゃんの着替えまだ出してなかったね、ちょっと待ってて」
 
 パタパタとスリッパの音を立てながら、なのはは奥の部屋へと入っていく。
 不意に、シチューの匂いがフェイトの鼻を刺激して、キッチンの方へと足を向けると、鍋の中でコトコトと煮込まれているクリームシチューがあった。忙しそうにしていたのは、これが理由のようだ。
 
「フェイトちゃん、ちょっとサイズ合わないかもだけど、コレき……きゃっ!」
 
 ビタンという何かが床を叩く音に驚いたフェイトが振り向くと、見事に顔を床にぶつけたなのはの姿がそこにあった。手に持っていたと思われる服が、その前方に散らかっている。
 
「……へ?」
 
「いったぁ~…………」
 
 鼻の辺りをさすりながら起き上がるなのはの姿に、フェイトは驚きを隠せなかった。周りを見渡しても、こける要因になる物は存在しない。
 
 (まさか、何もない所で転んだ!?)
 
 あれ程の格闘センスを見せつけられていたフェイトは、その事実が俄かには信じられなかったが、未だに鼻を摩って立てない様子のなのはの元へと歩いて行く。
 
「先生、大丈夫?」
 
「うん、だ、大丈夫だよ……にゃはは……」
 
「ほら、先生捕まって」
 
「あ、ありがとう……」
 
 生徒にこんな所を見られた為か、恥ずかしそうに頬を掻いていたなのはだが、フェイトから差し出された右手が余りにも自然で、無意識に左手を乗せた。
 
「もう、あんなに強いのに、こんな所でこけるなんて……もしかして、先生ってドジっ子?」
 
 キュッとなのはの手を握りながら、クスクスと冗談交じりに笑うフェイトに対して、
 
「ち、違うよ! 今回はその、本当にたまたまで、いつもはこんな事ないんだから!!!」
 
 と、凄まじい勢いで反論をするなのは。
 そのセリフで、なのはがいつも”こう”なのだという事を知り、フェイトは堪らなくなってグイッと腕に力を入れてなのはを持ち上げると、そのままの勢いで彼女の腰に手を回して抱きしめる。
 
「へ? ……え? あ、あの、フェイトちゃん……」
 
 驚いたなのはは、少しでもフェイトから距離を取ろうと上半身だけでも仰け反ろうとするが、フェイトはそれに追従するように覆いかぶさってくる。フェイトは、まるでホステスのように不敵な笑みを浮かべている。
 
「フェ、フェイトちゃん……ち、近いよぉ……」
 
「先生って、意外と華奢なんですね」
 
「ふぇ? そ、そうかな……」
 
「それにドジっ子な所もあって、何だか可愛いですね」
 
「ふぇぇぇぇ……な、ななな…………」
 
 真剣な表情のフェイトに見つめられてなのはは、それ以上何も言えなくなってしまう。
 同性の、しかも年下の女の子に「可愛い」と言われただけで、耳まで真っ赤に染めるなのはの姿は、フェイトの中に眠っていた悪戯心をこしょこしょと優しくくすぐってくる。
 それに、あんなに強いのに、今はこんなにも無防備で、それがフェイトの心の別の部分をくすぐっていた。
 
「……耳まで真っ赤にして、ホント可愛い♪」
 
 フェイトはにっこりと笑うと、ぱっと両手を離してなのはを解放した。
 唐突に抱き寄せられたと思ったら、唐突に離されてしまったなのはは、環境の変化に心境が追い付いて来ないようで、茫然と立ち尽くしている。
 
「先生って、結構からかうと面白いですね♪」
 
 フェイトは、小さな子供のように無邪気な笑顔をなのはに向けながら、はやても自分をからかう時はこんな気持ちなのかな、などとぼんやり考えていた。
 
「もー! フェイトちゃんの意地悪!!」
 
 先生とは思えない口調で不満を言われ、ぷぅっと頬を膨らませるてプイッとそっぽを向くなのはは、年齢以上に幼く見えてフェイトは思わず目を丸くした。
 その後、何だか面白くなって、フェイトがお腹を抱えて笑い転げると、なのはもつられて、声を出して笑っていた。
 
 (明日から、学校が楽しみだな)
 
 フェイトは、笑いながら、明日からの学校生活に胸を躍らせていた。
 
(おわり)
 
----------------------------------------------------
スポンサーサイト



テーマ : 魔法少女リリカルなのは
ジャンル : アニメ・コミック

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

タイヤキ

Author:タイヤキ
サークル「前に詰めて下さい」のページです。
『魔法少女リリカルなのは』と『プリキュア』ネタが多いです。

【メンバ―】
タイヤキ:SS担当
こじょ :表紙・挿絵担当
てんぷら:ドット絵、その他

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
アクセスカウンター
カレンダー
04 | 2021/05 | 06
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -
リンク
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR