【新刊告知】レインボーフレーバー11【スペース:お65】
どうも、SS兼広報担当のタイヤキです。
来週に迫りましたレイフレ11の新刊告知です!
今回は、ハピプリでひめぐみSS本です。
ひめちゃんがどんどん成長していって、めぐみを支えている姿は見ていてキュンキュンしますね!
そして、表紙は例のごとくまつうみ先生に描いて頂きました!! ぐへへ(ヨダレ)
本当に、毎度ありがとうございます!!!
というわけで、表紙とSSサンプルです。
SSは続きを読むからどうぞ(※百合注意)

「あなたと二人一緒なら」
◇◆◇
「ふぅ」
三幹部を無事撃退することに成功して、めぐみは変身を解くと小さく息を吐いた。甘く見ていたつもりはないが、フォーチュンのスターライトアセンションをまともに受けても平然としていた三幹部は、やはり一筋縄ではいかないと再認識する。
「お疲れ様、めぐみちゃん。いおなちゃんも、今日もすごかったねぇ~」
いつもののんびりとした口調でゆうこから声をかけられ、めぐみはふと我に返る。
「うん、ゆうゆうも……今日は大変だったね」
「それにしても、私の攻撃を受けても全然平気そうだったわね……流石、三幹部と言ったところね」
「そうだね、私達も、もっと強くならなきゃ! だね♪」
どうやら、三幹部の強さにショックを受けていたのは、めぐみだけではなかったようで、ゆうこといおなの表情にも険しいものがあった。
「ちょっと、ちょっとぉ~、ワタシも頑張ったんですけどぉ~!」
すると、そんな重苦しい雰囲気など微塵も感じさせない明るい声が境内に響き渡る。
「あ! ごめんね、ひめ……そうだよね、ひめのおかげでアクシアの本当の力が解放できて、三幹部も追い払うこともできたんだもんね!」
「ひめちゃんも、お疲れ様♪ 特製ハニーキャンディいる?」
「いる! ……ホントだよ~、チョー疲れたんだから!」
ゆうこから受け取った飴をすぐに頬張ると、ひめは口の中をモゴモゴと言わせながら、疲労度についてアピールをする。こういう時に、包み隠さずに自分の思いを素直に口にできるひめを、めぐみは少し羨ましく思う時がある。そして、同時にそんなひめだから、とても可愛いとも思うのだ。
「それにしても、その恰好は、やっぱりとっても似合ってるね、流石お姫さま♪」
「まぁね! 何たって、本物のお姫様なんだから!」
「また、ひめはすぐに調子に乗るんですから……でも、今日は立派でしたわ、ひめ」
ひめの様子に釘を刺しつつも、褒める所はしっかりと褒めるリボン。その言葉を満面の笑みで受け止めるひめ。この二人を見ていると、まるで本物の親子のように感じる時がある。
そんな二人のやり取りをぼんやりと見ていると、視界の端にブルーを捉え、めぐみは慌てて駆け寄る。
「ブルー、大丈夫だった?」
するとブルーは一瞬、驚いた表情を浮かべていたが、すぐにいつもの柔らかい表情に戻ると、
「ああ、めぐみ達のおかげで助かったよ」
と答える。めぐみは「そっか」と呟いて、少し照れたような笑顔をブルーに向けた。
「ひめ……私は少し用事があるから今から大使館に戻るけど、ひめも日が暮れない内には帰って来なさい」
ブルーの声は、目の前にいるめぐみをスルーしてひめに投げかけられる。そして、ひめから「分かった」と返事を聞いたブルーは鏡の扉を出現させてその中に姿を消した。その様子は、誰の目から見ても、めぐみの笑顔から目を背けているようにしか見えなかった。
めぐみ自身も、そう感じていたようでブルーが姿を消した後、少し寂しそうな表情を見せていた。
「じゃ、これからどうする?」
そんな空気を壊すように、ひめは努めて明るい声で皆に声をかけた────。
◇
その後、ゆうこの提案で“大盛りご飯”でコロッケを食べることになった。その提案は育ち盛りの上に、三幹部との激しい戦いを繰り広げたばかりの乙女達にはとても魅力的だった。
しかし、コロッケを皆で食べている間、めぐみの笑顔にいつもの元気がない気がして、ひめは少し気になった。それだけでなく、その後家に帰る時も、彼女の後ろ姿が少し寂しそうに見えた。
その日の夜、めぐみの寂しそうな顔が頭から離れないひめは、震える膝を抑えつけてめぐみの家の玄関に立っていた。人見知りであるひめにとって、友達の家族とは言え、知らない人と会うだけでも怖かった。まして友達の家に行くなどという事は、鬼ヶ島に行く桃太郎のような境地であった。
それでも、親友のあの表情が脳裏に焼き付いているひめは、その胸に眠る勇気を振り絞って、玄関の呼び鈴を鳴らしていた────。
◇◆◇
呼び鈴を鳴らしたひめは、めぐみの母親が出てきた時のために用意したセリフを頭の中で再度復習する。
「はい、は~い。どちら様ですか?」
しかし、インターホン越しに聞こえてきた声は、聴きなれためぐみの声だった。それなのに、テンパっていたひめは、めぐみの声に気付かずに、
「あ、あの、いつもお世話になってます。私、めぐみさんの友達の……」
「……ひめ? どうしたの?」
「あれ? ……めぐみじゃん?」
声の主がめぐみであることにようやく気付いたひめは、驚きと恥ずかしさで声のボリュームが上がる。
「ちょっと待ってて、今開けるから」
めぐみの慌てたような声と共に、ドタバタという足音が聞こえてくる。そのすぐ後に、ガチャリと音を立てて玄関の扉が開いた。
「いらっしゃい、ひめ!」
家の中から顔を出しためぐみの表情は、いつもと変わりなく明るくて、ひめは、自分の心配がただの杞憂だったかもしれないと思った。
(でも、勘違いだったら、そっちの方がいい……よね)
いつもめぐみに助けてもらっているひめとしては、めぐみの助けになれるかもしれないと、少しだけ期待していた面もあったが、すぐにそんな考えは頭の中から追いやる。
そのままひめは、めぐみに促されるままに家の中に入る。
「そういえば、ひめはもう晩御飯食べた?」
めぐみの質問に、ひめはフルフルと首を横に振る。
「ホント? じゃあ、一緒に食べない?」
「いいの?」
「うん、今日、作りすぎちゃって、困ってたんだぁ」
「じ、じゃあ、貰おう……かな」
ひめがそう答えると、めぐみは「良かったぁ」と安心した声を上げた。
リビングに通されると、そこには色鮮やかな食事がテーブルに並んでいて、入ってすぐにひめは感嘆の声を漏らす。
「これ、めぐみが全部作ったの?」
あまりの驚きにひめは素っ頓狂な声でめぐみに質問をすると、めぐみは苦笑い気味に
「違うよぉ、私はお母さんを手伝っただけだから」
と答える。母親の手伝い止まりの自分自身が少し許せないのだろう、その表情からは自分の力不足を気に病んでいるように見える。
「フフ、でも半分はめぐみが作ってくれたじゃない。お母さんとっても助かっちゃた♪」
すかさず、めぐみの母親からフォローが入る。
病気がちの母だ、とめぐみから聞かされていたせいか、色白の肌が少し不健康そうに見えるものの、優しい笑顔はめぐみそっくりだとひめは思った。
「さ、ご飯が冷める前に早く食べましょう」
「さんせ~い?」
めぐみの母の提案をひめは大手を振って歓迎した。
◇
「はぁ~、食べた、食べたぁ」
ちゃっかりとめぐみの家で夕食を戴いたひめは、めぐみの部屋で満足気な表情を浮かべている。
「でも、急にひめが訪ねてきたから、私びっくりしたよ~!」
一方のめぐみは、自分の学習机の椅子に座ると、驚きの表情と共にひめを見る。
確かに、普通に考えると事前の連絡もせずに、突然家を訪れて、挙句の果てに夕食までご馳走になるなど、まるでタチの悪い詐欺師のようだ、と思い直し、ひめは自分の行いが恥ずかしくなって口をつぐんでしまう。
「それにしても、突然どうしたの? ひめ」
めぐみの問いに、ひめはこの場に来た理由を思い出してはっと顔を上げる。
「あ、あのね……その、今日めぐみ、あんまり元気が無かった気がしたから、気になっちゃって……」
「ひめ……」
「でも、気のせいだったかも……今のめぐみはいつも通りだし」
ひめは、夕食時のめぐみの姿を思い出す。いつもと変わらない明快な声で家族と会話するめぐみは、昼間とは全く別人のようだった。
「ありがとう、ひめ……でも、私はいつも通りだよ」
しかし、そう答えるめぐみの姿は、先ほどまでとは打って変わって、昼間のめぐみそのままで、ひめは再び不安に駆られた。
「めぐみ……?」
その不安をそのまま声に乗せると、めぐみは困ったように眉を八の字に曲げた。つられてひめの眉も曲がる。
「めぐみ、やっぱり何か元気ない気がするよ……」
「そんな事ないよ! ほら!」
めぐみは両腕を高く上げながら椅子から立ち上がってポーズをとる。
一度疑ってしまうと、その疑念はしこりとなって頭から離れなくなってしまって、ひめはヘンテコなポーズをとっているめぐみをじっと見つめ続ける。めぐみは、その視線に耐えられないとばかりに、次第に笑顔が歪んでいく。
「じぃ~~~」
「ははは…………」
鈍いめぐみにも分かるようにと、ひめは敢えて自分の行動を声にする。その意図が通じたのか、めぐみの笑顔は苦笑いへと切り替わる。
「ねぇ、めぐみ!」
「だ、だから、大丈夫だって!」
「全然大丈夫そうじゃないから、聞いてるんじゃん!」
「そんな事ないし!」
「そんな事あるよ!」
ない、ある、と主張を崩さない二人のやり取りは、次第にヒートアップしていく。
「も~、私が大丈夫だって言ってるんだから、大丈夫だって!」
「そんな顔で言われたって、全然説得力ないんだから!」
「む~……はぁ、本当にひめは頑固なんだから」
ため息交じりで呟かれた言葉は、ひめの心を益々逆撫でた。
「なっ! めぐみの方が頑固だし!」
ひめの言葉は思った以上の効果を持って、めぐみの心に刺さったようで、はっとした表情を浮かべ、すぐに俯いてしまった。
────しばらくの間、めぐみの部屋は沈黙に支配される。
「ひめに、私の気持ちなんて分かるわけないよ?」
沈黙を破ったその言葉は、ひめの心ではなく、発言者本人であるめぐみの心を大きく抉ったようだった。ひめは、驚いた表情を浮かべているだけだが、一方のめぐみは今にも泣き出しそうな程、その顔を大きく歪めていた。
「……確かに、私はめぐみじゃないから、めぐみの事が全部分かるわけじゃないけど、でも、私にだって、今のめぐみが何かにショックを受けて、傷付いている事ぐらいは分かるよ」
吸い込まれそうなひめの大きな瞳から、彼女の想いが伝わってくる。その想いは、同情や優越感から来るものではなく、本当に友達の事を心配しているからこそ生まれてくるものなのだと感じ、めぐみは心の奥がじんわりと暖かくなった。
同時に、ひめからはっきりと“傷付いている”と言われ、めぐみはようやく自分自身の気持ちに気付いた。その事実に、めぐみの視界は涙でぐにゃりと曲がり始めるが、決して瞳から零れないように必死に堪える。
「めぐみ……」
健気に涙を堪えるめぐみの姿に、ひめは胸の奥から怒りや悲しみ、愛おしさなど様々な感情が沸き上がる。それらは、ひめの中で交わりながら、一つの大きな感情のうねりとなって、血液のように体の隅々に流れていく。
気付けば、ひめは無意識の内に、めぐみを抱きしめていた。ひめの右手は、自分の肩口にめぐみの顔を引き寄せるように、彼女の後頭部をぎゅっと押さえつける。その恰好のまま、ひめはめぐみの耳元に囁く。
「めぐみ……泣きたい時は、泣いていいんだよ……頼りないかもしれないけど、ちゃんと私が受け止めるから……」
祈るような声で紡がれたひめの言葉は、めぐみの心の柔らかい所に、音もなくそっと着地した。
「ひめ……私、わたしね……う、うぅ……」
その後は言葉にならず、嗚咽交じりの彼女の声がひめの胸に響き続けていた────。
来週に迫りましたレイフレ11の新刊告知です!
今回は、ハピプリでひめぐみSS本です。
ひめちゃんがどんどん成長していって、めぐみを支えている姿は見ていてキュンキュンしますね!
そして、表紙は例のごとくまつうみ先生に描いて頂きました!! ぐへへ(ヨダレ)
本当に、毎度ありがとうございます!!!
というわけで、表紙とSSサンプルです。
SSは続きを読むからどうぞ(※百合注意)

「あなたと二人一緒なら」
◇◆◇
「ふぅ」
三幹部を無事撃退することに成功して、めぐみは変身を解くと小さく息を吐いた。甘く見ていたつもりはないが、フォーチュンのスターライトアセンションをまともに受けても平然としていた三幹部は、やはり一筋縄ではいかないと再認識する。
「お疲れ様、めぐみちゃん。いおなちゃんも、今日もすごかったねぇ~」
いつもののんびりとした口調でゆうこから声をかけられ、めぐみはふと我に返る。
「うん、ゆうゆうも……今日は大変だったね」
「それにしても、私の攻撃を受けても全然平気そうだったわね……流石、三幹部と言ったところね」
「そうだね、私達も、もっと強くならなきゃ! だね♪」
どうやら、三幹部の強さにショックを受けていたのは、めぐみだけではなかったようで、ゆうこといおなの表情にも険しいものがあった。
「ちょっと、ちょっとぉ~、ワタシも頑張ったんですけどぉ~!」
すると、そんな重苦しい雰囲気など微塵も感じさせない明るい声が境内に響き渡る。
「あ! ごめんね、ひめ……そうだよね、ひめのおかげでアクシアの本当の力が解放できて、三幹部も追い払うこともできたんだもんね!」
「ひめちゃんも、お疲れ様♪ 特製ハニーキャンディいる?」
「いる! ……ホントだよ~、チョー疲れたんだから!」
ゆうこから受け取った飴をすぐに頬張ると、ひめは口の中をモゴモゴと言わせながら、疲労度についてアピールをする。こういう時に、包み隠さずに自分の思いを素直に口にできるひめを、めぐみは少し羨ましく思う時がある。そして、同時にそんなひめだから、とても可愛いとも思うのだ。
「それにしても、その恰好は、やっぱりとっても似合ってるね、流石お姫さま♪」
「まぁね! 何たって、本物のお姫様なんだから!」
「また、ひめはすぐに調子に乗るんですから……でも、今日は立派でしたわ、ひめ」
ひめの様子に釘を刺しつつも、褒める所はしっかりと褒めるリボン。その言葉を満面の笑みで受け止めるひめ。この二人を見ていると、まるで本物の親子のように感じる時がある。
そんな二人のやり取りをぼんやりと見ていると、視界の端にブルーを捉え、めぐみは慌てて駆け寄る。
「ブルー、大丈夫だった?」
するとブルーは一瞬、驚いた表情を浮かべていたが、すぐにいつもの柔らかい表情に戻ると、
「ああ、めぐみ達のおかげで助かったよ」
と答える。めぐみは「そっか」と呟いて、少し照れたような笑顔をブルーに向けた。
「ひめ……私は少し用事があるから今から大使館に戻るけど、ひめも日が暮れない内には帰って来なさい」
ブルーの声は、目の前にいるめぐみをスルーしてひめに投げかけられる。そして、ひめから「分かった」と返事を聞いたブルーは鏡の扉を出現させてその中に姿を消した。その様子は、誰の目から見ても、めぐみの笑顔から目を背けているようにしか見えなかった。
めぐみ自身も、そう感じていたようでブルーが姿を消した後、少し寂しそうな表情を見せていた。
「じゃ、これからどうする?」
そんな空気を壊すように、ひめは努めて明るい声で皆に声をかけた────。
◇
その後、ゆうこの提案で“大盛りご飯”でコロッケを食べることになった。その提案は育ち盛りの上に、三幹部との激しい戦いを繰り広げたばかりの乙女達にはとても魅力的だった。
しかし、コロッケを皆で食べている間、めぐみの笑顔にいつもの元気がない気がして、ひめは少し気になった。それだけでなく、その後家に帰る時も、彼女の後ろ姿が少し寂しそうに見えた。
その日の夜、めぐみの寂しそうな顔が頭から離れないひめは、震える膝を抑えつけてめぐみの家の玄関に立っていた。人見知りであるひめにとって、友達の家族とは言え、知らない人と会うだけでも怖かった。まして友達の家に行くなどという事は、鬼ヶ島に行く桃太郎のような境地であった。
それでも、親友のあの表情が脳裏に焼き付いているひめは、その胸に眠る勇気を振り絞って、玄関の呼び鈴を鳴らしていた────。
◇◆◇
呼び鈴を鳴らしたひめは、めぐみの母親が出てきた時のために用意したセリフを頭の中で再度復習する。
「はい、は~い。どちら様ですか?」
しかし、インターホン越しに聞こえてきた声は、聴きなれためぐみの声だった。それなのに、テンパっていたひめは、めぐみの声に気付かずに、
「あ、あの、いつもお世話になってます。私、めぐみさんの友達の……」
「……ひめ? どうしたの?」
「あれ? ……めぐみじゃん?」
声の主がめぐみであることにようやく気付いたひめは、驚きと恥ずかしさで声のボリュームが上がる。
「ちょっと待ってて、今開けるから」
めぐみの慌てたような声と共に、ドタバタという足音が聞こえてくる。そのすぐ後に、ガチャリと音を立てて玄関の扉が開いた。
「いらっしゃい、ひめ!」
家の中から顔を出しためぐみの表情は、いつもと変わりなく明るくて、ひめは、自分の心配がただの杞憂だったかもしれないと思った。
(でも、勘違いだったら、そっちの方がいい……よね)
いつもめぐみに助けてもらっているひめとしては、めぐみの助けになれるかもしれないと、少しだけ期待していた面もあったが、すぐにそんな考えは頭の中から追いやる。
そのままひめは、めぐみに促されるままに家の中に入る。
「そういえば、ひめはもう晩御飯食べた?」
めぐみの質問に、ひめはフルフルと首を横に振る。
「ホント? じゃあ、一緒に食べない?」
「いいの?」
「うん、今日、作りすぎちゃって、困ってたんだぁ」
「じ、じゃあ、貰おう……かな」
ひめがそう答えると、めぐみは「良かったぁ」と安心した声を上げた。
リビングに通されると、そこには色鮮やかな食事がテーブルに並んでいて、入ってすぐにひめは感嘆の声を漏らす。
「これ、めぐみが全部作ったの?」
あまりの驚きにひめは素っ頓狂な声でめぐみに質問をすると、めぐみは苦笑い気味に
「違うよぉ、私はお母さんを手伝っただけだから」
と答える。母親の手伝い止まりの自分自身が少し許せないのだろう、その表情からは自分の力不足を気に病んでいるように見える。
「フフ、でも半分はめぐみが作ってくれたじゃない。お母さんとっても助かっちゃた♪」
すかさず、めぐみの母親からフォローが入る。
病気がちの母だ、とめぐみから聞かされていたせいか、色白の肌が少し不健康そうに見えるものの、優しい笑顔はめぐみそっくりだとひめは思った。
「さ、ご飯が冷める前に早く食べましょう」
「さんせ~い?」
めぐみの母の提案をひめは大手を振って歓迎した。
◇
「はぁ~、食べた、食べたぁ」
ちゃっかりとめぐみの家で夕食を戴いたひめは、めぐみの部屋で満足気な表情を浮かべている。
「でも、急にひめが訪ねてきたから、私びっくりしたよ~!」
一方のめぐみは、自分の学習机の椅子に座ると、驚きの表情と共にひめを見る。
確かに、普通に考えると事前の連絡もせずに、突然家を訪れて、挙句の果てに夕食までご馳走になるなど、まるでタチの悪い詐欺師のようだ、と思い直し、ひめは自分の行いが恥ずかしくなって口をつぐんでしまう。
「それにしても、突然どうしたの? ひめ」
めぐみの問いに、ひめはこの場に来た理由を思い出してはっと顔を上げる。
「あ、あのね……その、今日めぐみ、あんまり元気が無かった気がしたから、気になっちゃって……」
「ひめ……」
「でも、気のせいだったかも……今のめぐみはいつも通りだし」
ひめは、夕食時のめぐみの姿を思い出す。いつもと変わらない明快な声で家族と会話するめぐみは、昼間とは全く別人のようだった。
「ありがとう、ひめ……でも、私はいつも通りだよ」
しかし、そう答えるめぐみの姿は、先ほどまでとは打って変わって、昼間のめぐみそのままで、ひめは再び不安に駆られた。
「めぐみ……?」
その不安をそのまま声に乗せると、めぐみは困ったように眉を八の字に曲げた。つられてひめの眉も曲がる。
「めぐみ、やっぱり何か元気ない気がするよ……」
「そんな事ないよ! ほら!」
めぐみは両腕を高く上げながら椅子から立ち上がってポーズをとる。
一度疑ってしまうと、その疑念はしこりとなって頭から離れなくなってしまって、ひめはヘンテコなポーズをとっているめぐみをじっと見つめ続ける。めぐみは、その視線に耐えられないとばかりに、次第に笑顔が歪んでいく。
「じぃ~~~」
「ははは…………」
鈍いめぐみにも分かるようにと、ひめは敢えて自分の行動を声にする。その意図が通じたのか、めぐみの笑顔は苦笑いへと切り替わる。
「ねぇ、めぐみ!」
「だ、だから、大丈夫だって!」
「全然大丈夫そうじゃないから、聞いてるんじゃん!」
「そんな事ないし!」
「そんな事あるよ!」
ない、ある、と主張を崩さない二人のやり取りは、次第にヒートアップしていく。
「も~、私が大丈夫だって言ってるんだから、大丈夫だって!」
「そんな顔で言われたって、全然説得力ないんだから!」
「む~……はぁ、本当にひめは頑固なんだから」
ため息交じりで呟かれた言葉は、ひめの心を益々逆撫でた。
「なっ! めぐみの方が頑固だし!」
ひめの言葉は思った以上の効果を持って、めぐみの心に刺さったようで、はっとした表情を浮かべ、すぐに俯いてしまった。
────しばらくの間、めぐみの部屋は沈黙に支配される。
「ひめに、私の気持ちなんて分かるわけないよ?」
沈黙を破ったその言葉は、ひめの心ではなく、発言者本人であるめぐみの心を大きく抉ったようだった。ひめは、驚いた表情を浮かべているだけだが、一方のめぐみは今にも泣き出しそうな程、その顔を大きく歪めていた。
「……確かに、私はめぐみじゃないから、めぐみの事が全部分かるわけじゃないけど、でも、私にだって、今のめぐみが何かにショックを受けて、傷付いている事ぐらいは分かるよ」
吸い込まれそうなひめの大きな瞳から、彼女の想いが伝わってくる。その想いは、同情や優越感から来るものではなく、本当に友達の事を心配しているからこそ生まれてくるものなのだと感じ、めぐみは心の奥がじんわりと暖かくなった。
同時に、ひめからはっきりと“傷付いている”と言われ、めぐみはようやく自分自身の気持ちに気付いた。その事実に、めぐみの視界は涙でぐにゃりと曲がり始めるが、決して瞳から零れないように必死に堪える。
「めぐみ……」
健気に涙を堪えるめぐみの姿に、ひめは胸の奥から怒りや悲しみ、愛おしさなど様々な感情が沸き上がる。それらは、ひめの中で交わりながら、一つの大きな感情のうねりとなって、血液のように体の隅々に流れていく。
気付けば、ひめは無意識の内に、めぐみを抱きしめていた。ひめの右手は、自分の肩口にめぐみの顔を引き寄せるように、彼女の後頭部をぎゅっと押さえつける。その恰好のまま、ひめはめぐみの耳元に囁く。
「めぐみ……泣きたい時は、泣いていいんだよ……頼りないかもしれないけど、ちゃんと私が受け止めるから……」
祈るような声で紡がれたひめの言葉は、めぐみの心の柔らかい所に、音もなくそっと着地した。
「ひめ……私、わたしね……う、うぅ……」
その後は言葉にならず、嗚咽交じりの彼女の声がひめの胸に響き続けていた────。
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