【やさしい教師のいじめかた5】
どうも、SS担当タイヤキです。
なかなか更新スピードが上がらない、なのは先生シリーズです。
今回は更新遅れだけでなく、量も少ないです。。。イ、イベントが立て込んでるだけなんです。
決してSHIROBAKOの演出さんみたく逃げ回ってるわけじゃ、うわやめ(ry
そ、そんなこんなで、なのは先生シリーズ第五話です!
今回はフェイトちゃんの家族の話が中心です、徐々にここの世界観が見えてくる……はず
では、続きからどうぞ(※百合?注意)
なかなか更新スピードが上がらない、なのは先生シリーズです。
今回は更新遅れだけでなく、量も少ないです。。。イ、イベントが立て込んでるだけなんです。
決してSHIROBAKOの演出さんみたく逃げ回ってるわけじゃ、うわやめ(ry
そ、そんなこんなで、なのは先生シリーズ第五話です!
今回はフェイトちゃんの家族の話が中心です、徐々にここの世界観が見えてくる……はず
では、続きからどうぞ(※百合?注意)
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【やさしい教師のいじめかた5】
◇◆◇
須狩が起こしたはやて誘拐事件から一夜明け。
まるで昨日の出来事は夢だったのかと錯覚してしまうほど、学校ではいつもと変わらない日常が繰り広げられていた……ただ一つ、フェイトの存在を除いては。
信じていた先生が、実は自分の護衛役だったという事実は、フェイトの心を大きく抉ったようで、彼女は事件の翌日から再び学校へ来なくなった。
はやては誰も座っていないフェイトの机を眺めながら、フェイトの家の前で、リンディに追い返された今朝の事を思い出す。
「おはようございます、フェイトちゃん居ますか?」
「あら? おはよう、はやてちゃん。久しぶりねぇ~……せっかく迎えに来てもらったのに、ごめんなさいね、フェイトは今日も体調が優れないみたいなの」
「…………そうですか」
このやり取りも今日で三日目だった。
フェイトが再び学校へ来なくなった翌日から、はやては通学ルートを迂回して、家までフェイトを迎えに行っていた。今回の件は、いつもの”さぼり”とは明らかに違う、どこかフェイトの存在が消えてしまうような、そんな不安をはやては感じていた。
「…………また、来ます」
はやては丁寧にお辞儀をして、学校へと足を向けた。フェイトに見られている気がして、一度振り返ったりもしたが、そこには誰もいなかった……。
はやては再びフェイトの机へ視線を落とす。
誰も座っていない机は、窓から差し込む陽の光を静かに浴びているだけで、いくら睨んでも金髪の女性の後ろ姿が現れることはない。まるでそこだけ別世界として切り離されてしまったようで、はやては寂しくなった。
────諦めない、これでお終いやなんて、絶対嫌や
はやては始業のチャイムを聞きながら、祈るように自分を鼓舞し続けた。
◇◆◇
「フェイト、ちょっといいかしら?」
ドア越しに聞こえた母親の声に、フェイトは少し驚いた。今まで、いくら学校をサボろうと、特に何も言ってこなかっただけに、妙に身構えてしまう。
「……何?」
「ちょっと、降りてきなさい」
警戒した声で問うたフェイトに、返すリンディの声は穏やかだった。
「……学校で何かあったのね?」
リビングに降りてくると、開口一番に問われたリンディの言葉はどこか確信めいていた。
「…………別に」
むすっとした表情で答えながら座るフェイト。リンディの質問の仕方が気にいらなかったらしい。しかし、リンディはそんなフェイトの様子など気にもかけず、会話を続ける。
「あれほど学校へ行かなかったフェイトが、突然、毎日のように学校へ通うようになったかと思えば、今度はニートのように家に引きこもって……ホント、アナタは忙しいわねぇ」
リンディの口調は、いつも夕食時に世間話をしている時と同じで、軽いトーンだった。
「ま、私も、昔はやんちゃだったから、血なのかしらね」
「……どういうこと?」
沈黙を決め込むつもりだったが、母親の以外な発言にフェイトは思わず質問をする。
「フフフ、私も中学生ぐらいの頃は、よく学校サボってたってことよ♪」
「え!?」
「中学の頃は、日本で言うヤンキー? だったのよ、私も。結構喧嘩とかも強かったんだから。フフフ、フェイト、あなた凄い顔してるわよ♪」
「いや、だって……」
「そんなに意外かしら? じゃなきゃ、学校へ行かない貴女を普通は放任したりしないわよ」
フェイトは妙に納得してしまった。今まで散々学校をサボってきたけれど、母親にガミガミと言われたことは無く、その理由は自分に興味がなくなったのだと思っていた。しかし、今考えると興味がなくなった娘のために、料理を作ったり、楽しそうに世間話をしたりするはずがないのだ。その事に今更気づいて、フェイトは恥ずかしくなってリンディから目を逸らす。
一方のリンディはふと何かを思い出したように、「そうだわ」と小さく呟くとちょっと待っててと言って、リビングを飛び出して行った。
しばらくして戻ってきた母親の手には、分厚いカバーで装飾された分厚い本が握られていた。
「ほら、これ当時の写真」
そう言って差し出されたのは、アルバムの中にある一枚の写真。かなり古いものらしく、全体的に茶色く色あせてしまっている。フェイトはその写真を覗き込むと、碧い髪を後ろで束ねてポニーテールにした少女が写っていた。その恰好はミニのホットパンツとタンクトップという、今の清楚な感じとは正反対な服装で、さらに化粧は今よりもずっと派手なものだった。その写真からは、確かにヤンチャそうな雰囲気が漂っていた。
「この頃は結構喧嘩も強くって、地元じゃかなり有名人だったのよ」
「私が聞くのも変だけど、どうして喧嘩なんか?」
「どうしてかしらね、……その頃は家でゴタゴタがあって、自分の人生どうでも良くなっちゃったって言うのが一番かしらね……そう言う貴女はどうなの?」
「え!? ……わ、私は…………」
思わぬ反撃に、フェイトは口ごもってしまう。ここで本心を言えるほどの勇気は、今のフェイトは持ち合わせていなかった。それを察してか、リンディは「ま、家族だからこそ言えないこともある……か」と少し寂しそうに呟いた。
「でね、そんな時にクライド君────あなたの父さんに出会ったの。今も昔も、無口なのは変わらないけれど、当時はカッコよくても人気あったのよ♪ でも、私はあんまり好きじゃなかった……ミーハーみたいだって、毛嫌いしてたの」
「へぇ~、そうだったんだ……今はすっかりミーハーな気がするけど」
フェイトは、今母親が熱中しているアイドルの事を思い出した。そのアイドルは日本ではかなり有名で、連日テレビのバラエティ番組に出演している。母親はよく彼らが出演する番組を見ては、届きもしない黄色い声援を送っている。
「そ~なのよ、昔の反動かしらねぇ~」
フェイトの避難にリンディはまるで他人事のように、白々しい返答をした。その後に、「それとも、パパのおかげかしらね♪」と妙な惚気まで挟んできた。
「ねぇ、フェイト。あの人、私に初めて会った時、なんて言ったと思う? 『自分を痛めつけるようなことはするな、せっかくの美人が台無しだ』よ。しかも、そういうの言い慣れてなかったんでしょうね、あの人、少し照れちゃってて、それがとっても可愛かったわ……一発ぶん殴ってやろうと思ってたのに、すっかり毒気を抜かれちゃった」
ただの惚気話、かと思っていたが最後にとんでもない発言をしたリンディに、フェイトは目を丸くする。
「なんで父さんをぶん殴ろうと思ったの?」
「そりゃ~、私の住んでいた地区で一番強いって言われてたからよ~。パパを倒して私が一番になってやろう! ってね」
「へぇ~……確かに、父さんは剣道とか強いけど……」
「フフ、そういえばクロノはこの辺じゃ一番強いんでしょ? ほんと、兄弟そろって血は争えないわね♪」
兄であるクロノは、この地区でNo.1と言われているが、決してフェイトや須狩のような不良ではないのだが、良く不良に目をつけられてしまうらしく、その度に相手を叩きのめしていたら、いつの間にか誰もが畏れる存在になっていた。
「な!? 母さん、どうしてそんな事知ってるの?」
「フフフ、主婦の情報網を侮っちゃ駄目よ、金色の悪魔さん♪」
そう言ってリンディはフェイトにウインクした。不良であることはずっと以前から知られていたが、二つ名まで知られていた事を知り、フェイトは恥ずかしさの余り、耳の先まで真っ赤になった。
「ま、そういう訳だから、私はフェイトに毎日学校に行きなさいとは言わないわ……でも、自分の中で大事にしたいと思う物が見つかったら、それだけは大切にしなさい…………私に言えるのは、それだけよ」
「……母さん」
「さ、そろそろ夕飯の準備をしましょうかね、フェイトは何食べたい?」
最初から最後までリンディの口調は普段の穏やかなままだった。無理に叱ったり、励ましたりしない様子は、フェイトを子ども扱いせず一人の大人として見てくれているようで、フェイトは嬉しくなった。同時に甘える事も許してくれているリンディの姿に、フェイトは母親の強さと優しさを見たようだった。
しかし、その優しさはフェイトの心を大きく、大きく抉っていた。
◇◆◇
次の日も、フェイトは学校へ行かなかった。
いつものように朝、フェイトの家の前に立つはやて。しかし、その隣にはなのは先生の姿があった。これには流石のフェイトも驚いたが、リンディは全く動じる様子もなく、いつものように二人を追い返していた。その様子をカーテンの隙間から窺っていたフェイトは、昨日の母の話を思い出し、改めて母親の強さを見た。
しかし不自然でもあった。リンディはフェイトが引きこもっている理由を知らないはずだ。父は厳格な人だから、仕事の話は家に持って帰ったことはなく、なのはがフェイトの護衛役であることさえも、おそらくは知らない。だから、フェイトがその事に傷ついている事を知る由もない……にも関わらず、不登校を許容してくれているのは、母親としての直感なのだろうか。フェイトは不思議な気分で二人が去って誰もいなくなった玄関を眺めていた。
そんなフェイトの引きこもり生活に変化が訪れたのは、その日の夜だった。研修生とはいえ、先生が家を訪問した事もあり、とうとう父親に気付かれてしまったのだ。
「……随分長い間学校を休んでいるらしいな?」
夕食の席で、おもむろに口を開いた父クライドの言葉は堅かった。加えて向けられた鋭い視線に、フェイトは怯む気持ちを必死に抑え、視線が泳がないように父親を睨みつける。
そもそも父は、フェイトが学校をサボってフラフラしていた事さえも知らない。母や兄がフェイトが不良であることを上手く隠してくれていた。
しかし今回はおそらく学校側から父へ何らかの報告があったのだろう。もしかしたら、なのは先生からかもしれない。そう思うと、また気分が沈んでくる。
フェイトは、質問には答えたくないと言わんばかりに、ギュッと唇をきつく閉じた。
「……全く、誰に似たのやら……とにかく! 明日は学校へ行きなさい」
「──────────嫌だ」
ため息交じりの言葉を、フェイトはきっぱりと拒絶した。
「なっ!?」
「……それは、どうして?」
フェイトの返答に驚いて口をパクパクさせているだけのクライドに変わり、リンディが訊ねる。
「別にいいでしょ! 母さんだって昔はよく学校サボってたって言ってたんだし、なら私だって好きにしてもいいじゃない!!」
フェイトはそう言って立ち上がると、自分の部屋へと駈け出した。
「あ、おい! フェイト!」
クライドが慌てた様子でその後を追いかけてくる。フェイトは一足先に自室に戻ると内側から鍵をかけて、そのままずり落ちるようにドアを背に座り込んだ。
「おい、フェイト!」
「今更、父親面しないで!!!」
ドア越しの父親に向かって叫んだ言葉は、扉で跳ね返って、自分の胸に思いっきり突き刺さった。
◇◆◇
思い出されるのは中学一年の時のある出来事。
────リンディは生みの親ではない。
それは、フェイトの人生を一変させるには十分すぎる出来事だった。偶然見つけた一枚の書類、そこには自分の本当の母親の名前が記されていた──『プレシア・テスタロッサ』と。
それまでのフェイトは、持ち前の責任感の強さから学級委員を務めることも多く、また美少女なのに温和で優しい性格だったこともあり、女子だけでなくクラス全員に好かれるような、そんな女の子だった。
事実を知った次の日、フェイトは生まれて初めて学校をサボった。毎日通う通学路から見える景色はどれも、色が抜け落ちたようにセピア色で、一人だけこの社会から切り離されてしまったようだった。
今、フェイトは自分の部屋で両膝を抱えて蹲っている。先程、父親に叫んでしまった言葉が何度も何度も頭の中でこだまする。
父と馬が合わなくなってきたのは、自身の出生の秘密を知ってからだった。思春期に差し掛かっていたことも関係あったのかもしれない。しかしそれ以上にクライドに対してある疑念が浮かんだことが大きな要因だった。
『父親は同じだとしたら、私は隠し子ということになる』
見つけた書類に記載されていたのは、母親の情報だけで、父親に関する一切の記載がなかった。それに加え、たまたま見ていたテレビドラマでそんなシーンが放送されていたこともあり、フェイトの中でその疑念は日に日に大きく、強くなっていった。
それだけに、なのはが父に言われて護衛役として自分に近づいてきたという事実は、フェイトの心の傷ついていた部分をさらに切り裂いた。
フェイトは涙で滲む瞳を、隠すように両膝の上に押し付ける。そうやって涙を堪えたところで、肩は小さく震え続けている。
『とにかく! 明日は学校へ行きなさい』
ぐちゃぐちゃに混乱した頭は、今度は父親から飛んだ投げやりな言葉で一杯になっていく。父親にとっては居なくなって欲しい存在なのでは、という疑念さえもフェイトの脳裏をかすめる。護衛をつけるぐらいなのだからそんなハズはないのだが、今のフェイトは冷静な思考ができなくなっていた。────────その思考はどんどんと自分を追い詰めていく。
────私は本当に生きていていいの?
頭の中で呟いたその問いは、静寂な夜の闇に吸い込まれただけだった。答える者は誰もいない。出口の見えない迷路に迷い込んだフェイトは、一晩中、膝を抱えて涙を流し続けていた。
(つづく)
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【やさしい教師のいじめかた5】
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須狩が起こしたはやて誘拐事件から一夜明け。
まるで昨日の出来事は夢だったのかと錯覚してしまうほど、学校ではいつもと変わらない日常が繰り広げられていた……ただ一つ、フェイトの存在を除いては。
信じていた先生が、実は自分の護衛役だったという事実は、フェイトの心を大きく抉ったようで、彼女は事件の翌日から再び学校へ来なくなった。
はやては誰も座っていないフェイトの机を眺めながら、フェイトの家の前で、リンディに追い返された今朝の事を思い出す。
「おはようございます、フェイトちゃん居ますか?」
「あら? おはよう、はやてちゃん。久しぶりねぇ~……せっかく迎えに来てもらったのに、ごめんなさいね、フェイトは今日も体調が優れないみたいなの」
「…………そうですか」
このやり取りも今日で三日目だった。
フェイトが再び学校へ来なくなった翌日から、はやては通学ルートを迂回して、家までフェイトを迎えに行っていた。今回の件は、いつもの”さぼり”とは明らかに違う、どこかフェイトの存在が消えてしまうような、そんな不安をはやては感じていた。
「…………また、来ます」
はやては丁寧にお辞儀をして、学校へと足を向けた。フェイトに見られている気がして、一度振り返ったりもしたが、そこには誰もいなかった……。
はやては再びフェイトの机へ視線を落とす。
誰も座っていない机は、窓から差し込む陽の光を静かに浴びているだけで、いくら睨んでも金髪の女性の後ろ姿が現れることはない。まるでそこだけ別世界として切り離されてしまったようで、はやては寂しくなった。
────諦めない、これでお終いやなんて、絶対嫌や
はやては始業のチャイムを聞きながら、祈るように自分を鼓舞し続けた。
◇◆◇
「フェイト、ちょっといいかしら?」
ドア越しに聞こえた母親の声に、フェイトは少し驚いた。今まで、いくら学校をサボろうと、特に何も言ってこなかっただけに、妙に身構えてしまう。
「……何?」
「ちょっと、降りてきなさい」
警戒した声で問うたフェイトに、返すリンディの声は穏やかだった。
「……学校で何かあったのね?」
リビングに降りてくると、開口一番に問われたリンディの言葉はどこか確信めいていた。
「…………別に」
むすっとした表情で答えながら座るフェイト。リンディの質問の仕方が気にいらなかったらしい。しかし、リンディはそんなフェイトの様子など気にもかけず、会話を続ける。
「あれほど学校へ行かなかったフェイトが、突然、毎日のように学校へ通うようになったかと思えば、今度はニートのように家に引きこもって……ホント、アナタは忙しいわねぇ」
リンディの口調は、いつも夕食時に世間話をしている時と同じで、軽いトーンだった。
「ま、私も、昔はやんちゃだったから、血なのかしらね」
「……どういうこと?」
沈黙を決め込むつもりだったが、母親の以外な発言にフェイトは思わず質問をする。
「フフフ、私も中学生ぐらいの頃は、よく学校サボってたってことよ♪」
「え!?」
「中学の頃は、日本で言うヤンキー? だったのよ、私も。結構喧嘩とかも強かったんだから。フフフ、フェイト、あなた凄い顔してるわよ♪」
「いや、だって……」
「そんなに意外かしら? じゃなきゃ、学校へ行かない貴女を普通は放任したりしないわよ」
フェイトは妙に納得してしまった。今まで散々学校をサボってきたけれど、母親にガミガミと言われたことは無く、その理由は自分に興味がなくなったのだと思っていた。しかし、今考えると興味がなくなった娘のために、料理を作ったり、楽しそうに世間話をしたりするはずがないのだ。その事に今更気づいて、フェイトは恥ずかしくなってリンディから目を逸らす。
一方のリンディはふと何かを思い出したように、「そうだわ」と小さく呟くとちょっと待っててと言って、リビングを飛び出して行った。
しばらくして戻ってきた母親の手には、分厚いカバーで装飾された分厚い本が握られていた。
「ほら、これ当時の写真」
そう言って差し出されたのは、アルバムの中にある一枚の写真。かなり古いものらしく、全体的に茶色く色あせてしまっている。フェイトはその写真を覗き込むと、碧い髪を後ろで束ねてポニーテールにした少女が写っていた。その恰好はミニのホットパンツとタンクトップという、今の清楚な感じとは正反対な服装で、さらに化粧は今よりもずっと派手なものだった。その写真からは、確かにヤンチャそうな雰囲気が漂っていた。
「この頃は結構喧嘩も強くって、地元じゃかなり有名人だったのよ」
「私が聞くのも変だけど、どうして喧嘩なんか?」
「どうしてかしらね、……その頃は家でゴタゴタがあって、自分の人生どうでも良くなっちゃったって言うのが一番かしらね……そう言う貴女はどうなの?」
「え!? ……わ、私は…………」
思わぬ反撃に、フェイトは口ごもってしまう。ここで本心を言えるほどの勇気は、今のフェイトは持ち合わせていなかった。それを察してか、リンディは「ま、家族だからこそ言えないこともある……か」と少し寂しそうに呟いた。
「でね、そんな時にクライド君────あなたの父さんに出会ったの。今も昔も、無口なのは変わらないけれど、当時はカッコよくても人気あったのよ♪ でも、私はあんまり好きじゃなかった……ミーハーみたいだって、毛嫌いしてたの」
「へぇ~、そうだったんだ……今はすっかりミーハーな気がするけど」
フェイトは、今母親が熱中しているアイドルの事を思い出した。そのアイドルは日本ではかなり有名で、連日テレビのバラエティ番組に出演している。母親はよく彼らが出演する番組を見ては、届きもしない黄色い声援を送っている。
「そ~なのよ、昔の反動かしらねぇ~」
フェイトの避難にリンディはまるで他人事のように、白々しい返答をした。その後に、「それとも、パパのおかげかしらね♪」と妙な惚気まで挟んできた。
「ねぇ、フェイト。あの人、私に初めて会った時、なんて言ったと思う? 『自分を痛めつけるようなことはするな、せっかくの美人が台無しだ』よ。しかも、そういうの言い慣れてなかったんでしょうね、あの人、少し照れちゃってて、それがとっても可愛かったわ……一発ぶん殴ってやろうと思ってたのに、すっかり毒気を抜かれちゃった」
ただの惚気話、かと思っていたが最後にとんでもない発言をしたリンディに、フェイトは目を丸くする。
「なんで父さんをぶん殴ろうと思ったの?」
「そりゃ~、私の住んでいた地区で一番強いって言われてたからよ~。パパを倒して私が一番になってやろう! ってね」
「へぇ~……確かに、父さんは剣道とか強いけど……」
「フフ、そういえばクロノはこの辺じゃ一番強いんでしょ? ほんと、兄弟そろって血は争えないわね♪」
兄であるクロノは、この地区でNo.1と言われているが、決してフェイトや須狩のような不良ではないのだが、良く不良に目をつけられてしまうらしく、その度に相手を叩きのめしていたら、いつの間にか誰もが畏れる存在になっていた。
「な!? 母さん、どうしてそんな事知ってるの?」
「フフフ、主婦の情報網を侮っちゃ駄目よ、金色の悪魔さん♪」
そう言ってリンディはフェイトにウインクした。不良であることはずっと以前から知られていたが、二つ名まで知られていた事を知り、フェイトは恥ずかしさの余り、耳の先まで真っ赤になった。
「ま、そういう訳だから、私はフェイトに毎日学校に行きなさいとは言わないわ……でも、自分の中で大事にしたいと思う物が見つかったら、それだけは大切にしなさい…………私に言えるのは、それだけよ」
「……母さん」
「さ、そろそろ夕飯の準備をしましょうかね、フェイトは何食べたい?」
最初から最後までリンディの口調は普段の穏やかなままだった。無理に叱ったり、励ましたりしない様子は、フェイトを子ども扱いせず一人の大人として見てくれているようで、フェイトは嬉しくなった。同時に甘える事も許してくれているリンディの姿に、フェイトは母親の強さと優しさを見たようだった。
しかし、その優しさはフェイトの心を大きく、大きく抉っていた。
◇◆◇
次の日も、フェイトは学校へ行かなかった。
いつものように朝、フェイトの家の前に立つはやて。しかし、その隣にはなのは先生の姿があった。これには流石のフェイトも驚いたが、リンディは全く動じる様子もなく、いつものように二人を追い返していた。その様子をカーテンの隙間から窺っていたフェイトは、昨日の母の話を思い出し、改めて母親の強さを見た。
しかし不自然でもあった。リンディはフェイトが引きこもっている理由を知らないはずだ。父は厳格な人だから、仕事の話は家に持って帰ったことはなく、なのはがフェイトの護衛役であることさえも、おそらくは知らない。だから、フェイトがその事に傷ついている事を知る由もない……にも関わらず、不登校を許容してくれているのは、母親としての直感なのだろうか。フェイトは不思議な気分で二人が去って誰もいなくなった玄関を眺めていた。
そんなフェイトの引きこもり生活に変化が訪れたのは、その日の夜だった。研修生とはいえ、先生が家を訪問した事もあり、とうとう父親に気付かれてしまったのだ。
「……随分長い間学校を休んでいるらしいな?」
夕食の席で、おもむろに口を開いた父クライドの言葉は堅かった。加えて向けられた鋭い視線に、フェイトは怯む気持ちを必死に抑え、視線が泳がないように父親を睨みつける。
そもそも父は、フェイトが学校をサボってフラフラしていた事さえも知らない。母や兄がフェイトが不良であることを上手く隠してくれていた。
しかし今回はおそらく学校側から父へ何らかの報告があったのだろう。もしかしたら、なのは先生からかもしれない。そう思うと、また気分が沈んでくる。
フェイトは、質問には答えたくないと言わんばかりに、ギュッと唇をきつく閉じた。
「……全く、誰に似たのやら……とにかく! 明日は学校へ行きなさい」
「──────────嫌だ」
ため息交じりの言葉を、フェイトはきっぱりと拒絶した。
「なっ!?」
「……それは、どうして?」
フェイトの返答に驚いて口をパクパクさせているだけのクライドに変わり、リンディが訊ねる。
「別にいいでしょ! 母さんだって昔はよく学校サボってたって言ってたんだし、なら私だって好きにしてもいいじゃない!!」
フェイトはそう言って立ち上がると、自分の部屋へと駈け出した。
「あ、おい! フェイト!」
クライドが慌てた様子でその後を追いかけてくる。フェイトは一足先に自室に戻ると内側から鍵をかけて、そのままずり落ちるようにドアを背に座り込んだ。
「おい、フェイト!」
「今更、父親面しないで!!!」
ドア越しの父親に向かって叫んだ言葉は、扉で跳ね返って、自分の胸に思いっきり突き刺さった。
◇◆◇
思い出されるのは中学一年の時のある出来事。
────リンディは生みの親ではない。
それは、フェイトの人生を一変させるには十分すぎる出来事だった。偶然見つけた一枚の書類、そこには自分の本当の母親の名前が記されていた──『プレシア・テスタロッサ』と。
それまでのフェイトは、持ち前の責任感の強さから学級委員を務めることも多く、また美少女なのに温和で優しい性格だったこともあり、女子だけでなくクラス全員に好かれるような、そんな女の子だった。
事実を知った次の日、フェイトは生まれて初めて学校をサボった。毎日通う通学路から見える景色はどれも、色が抜け落ちたようにセピア色で、一人だけこの社会から切り離されてしまったようだった。
今、フェイトは自分の部屋で両膝を抱えて蹲っている。先程、父親に叫んでしまった言葉が何度も何度も頭の中でこだまする。
父と馬が合わなくなってきたのは、自身の出生の秘密を知ってからだった。思春期に差し掛かっていたことも関係あったのかもしれない。しかしそれ以上にクライドに対してある疑念が浮かんだことが大きな要因だった。
『父親は同じだとしたら、私は隠し子ということになる』
見つけた書類に記載されていたのは、母親の情報だけで、父親に関する一切の記載がなかった。それに加え、たまたま見ていたテレビドラマでそんなシーンが放送されていたこともあり、フェイトの中でその疑念は日に日に大きく、強くなっていった。
それだけに、なのはが父に言われて護衛役として自分に近づいてきたという事実は、フェイトの心の傷ついていた部分をさらに切り裂いた。
フェイトは涙で滲む瞳を、隠すように両膝の上に押し付ける。そうやって涙を堪えたところで、肩は小さく震え続けている。
『とにかく! 明日は学校へ行きなさい』
ぐちゃぐちゃに混乱した頭は、今度は父親から飛んだ投げやりな言葉で一杯になっていく。父親にとっては居なくなって欲しい存在なのでは、という疑念さえもフェイトの脳裏をかすめる。護衛をつけるぐらいなのだからそんなハズはないのだが、今のフェイトは冷静な思考ができなくなっていた。────────その思考はどんどんと自分を追い詰めていく。
────私は本当に生きていていいの?
頭の中で呟いたその問いは、静寂な夜の闇に吸い込まれただけだった。答える者は誰もいない。出口の見えない迷路に迷い込んだフェイトは、一晩中、膝を抱えて涙を流し続けていた。
(つづく)
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テーマ : 魔法少女リリカルなのは
ジャンル : アニメ・コミック