【リリマジ新刊サンプル】迷い星と茜色の空―後編―
皆さまごきげんよう、タイヤキです!
大変お久しぶりな気がします(汗
何気に、リリマジに向けての原稿でずっと苦しんでいました。。。
夏コミ後、ほとんどやる気をなくしていて、モチベーションが上がるまでにかなり時間がかかりました←
ですが、なんとか夏コミで出した本の後編を書き上げることができました~\(^0^)/
これでしばらく原稿とはおさらばです!!やったぁ~~~♪
というわけで、サンプルをアップします。
以下からどうぞ(※百合注意
大変お久しぶりな気がします(汗
何気に、リリマジに向けての原稿でずっと苦しんでいました。。。
夏コミ後、ほとんどやる気をなくしていて、モチベーションが上がるまでにかなり時間がかかりました←
ですが、なんとか夏コミで出した本の後編を書き上げることができました~\(^0^)/
これでしばらく原稿とはおさらばです!!やったぁ~~~♪
というわけで、サンプルをアップします。
以下からどうぞ(※百合注意
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【迷い星と茜色の空―後編―】
◆◇◆
「う……んっ……ここは?」
目を覚ますと見慣れた天井が視界に入り、ここが自分の部屋だという事に、すぐに気付いた。
何だか妙に頭がクラクラする。
いつの間に寝ていたのか、全く記憶がない。確か、村長の家に行ったところまでは覚えているが、その後どうやって家まで戻って来のか……。
穗村はのそりと起き上がり、まだフラつく足取りでカーテンを開けると、朝の柔らかい日差しが、寝起きの体にちょうどいい刺激を与えてくれた。
「そういえば、あの二人はどうしたのかな?」
また、村長の家にでも泊まっているのだろうか。未だに帰る手がかりが無くて困っているだろう、穗村としてもここまで協力したのだから、できれば最後まで手助けをしたい、という思いがあった。
二人の様子を知りたくて、穗村は手早く着替えると、朝食もほどほどにすぐに村長の家に向かった。
◇
「村長、昨日の二人は――――村長?」
穗村が村長の家を訪ねると、明りもつけずにじっと座っている村長の姿がそこにあった。
「ど、どうしたんですか、村長?」
「ん? ……ああ、穗村か……いや、何でもない」
明らかに顔色が優れない村長に、穗村はかける言葉を探す。
「あまり、何でもない、という感じの顔色ではないみたいですけど……本当に大丈夫ですか?」
そう言って、村長の顔を覗き込めば、村長ははっと顔を上げたが、またすぐに下を向いてしまった。顔を上げた一瞬、穗村は村長が縋る様な目をしていたような気がして、ますます不安になる。
「……ああ、大丈夫だ。それよりも、何か用かね?」
依然、顔色が悪いままだが、これ以上追及しても意味がないと思い、穗村は二人のことを尋ねることにした。
「はい、あの異世界から来たという二人は、昨日ここに泊まったのでしょうか?」
「ああ、あの二人なら帰ったよ、元の世界にな……」
「え? じゃあ、帰り方が分かったのですか?」
「それは…………わ、儂には良く分からんが、帰ったということは、そういうことなのだろう」
「…………」
そうなのだろうか、穗村は村長の言葉に強い違和感を覚えた。あれだけ王都で帰る手段を探して、何も見つからなかったというのに、昨日の今日で、解決したとは考えられなかった。それに、これは自惚れなのかもしれないが、あの二人が自分に挨拶もなしに帰るとは、穗村にはどうしても思えなかった。
「……本当に、帰ったのですか?」
疑問が拭えない穗村は、じっと村長の顔を見つめる。
どうも今日の村長は様子がおかしい。もしかしたら、この件が関係しているのではないか、そんな考えまで浮かんでくる。
「…………ああ、そうだ、と何度も言っているだろう」
突き放すような村長の返事に、穗村はずんと頭を押さえつけられたような気分になった。そうか、あの二人にとって自分はその程度だったのだと、そう考えると、少しだけ惨めな気分になった。旅の道中に行っていた戦闘訓練の合間に、見せてくれた優しさや、王都での聞き込みや観光していた時に見せてくれた温かい笑顔は、全部建前だったのだろうか、そんな風に考えてしまう自分に、穗村は増々悲しくなった。
穗村は、「分かりました」と一言だけ言うと、そのまま回れ右をして玄関のほうに歩き出す。
「――あらあら、村長さん、それは少しツレナイんじゃないですか?」
すると、玄関の方からこの数日間ですっかり聞き馴染んだ声が聞こえ、穗村はハッと顔を上げた。
「なっ!! どうして、ここに!?」
「フェイトさん! なのはさん!!」
「にゃはは、やっほー、穗村ちゃん♪」
穗村の背後で村長の驚く声が聞こえたが、そんなことはお構いなしに、穗村は二人の元に駆け寄る。
「良かったぁ~、まだ帰ってなかったんですね♪」
そう伝えると、二人は不思議そうな顔をして、「まだ帰る手段が分かってないからね」と苦笑いをする。
「え? でもさっき村長が、帰る手段が分かって、二人とも元の世界に戻ったって…………」
穗村自身も言っていて気づいたのだろう、信じられないという表情で村長の方を振り返る。
村長は諦めたように椅子に座り、テーブルに肘をついて苦悶の表情を浮かべていた。
「……仕方なかったんだ…………こうする以外に、村を守る手段はなかったのだ…………すまない」
懺悔する村長の声は、喉から絞り出すような声だった。
「ええ、事情は分かってます。気にしないでください」
そんな村長に対し、フェイトの言葉は実にあっさりしたものだった。その発言に、顔を上げた村長の表情は驚きのあまり、目を限界まで見開いている。
「大方、私達を差し出せば、村を助けると、大量のゴーストの群れに迫られたのでしょう。上手く痕跡を消しているつもりでしょうが、村の至る所にゴーストが暴れた形跡がありました」
「……そこまで気づいていましたか」
村長の肩がガクリと落ちる。
「……あなた方がここに居るという事は、私との契約は無効になったということなのでしょうね」
「……残念ながら、どの道この村は襲われていたと思います」
「なっ!?」
「ゴースト達は私達に対しても同じような条件を突き付けてきてましたが、おそらく彼らは私達がこの地を去った後、この世界の人々を葬るつもりだったのでしょう」
「な、なぜ!?」
村長は顔を真っ赤に染めて叫び、怒りを露わにする。その様子は普段の温和な村長と同一人物とは思えない程、取り乱していた。
フェイトは、少し悲しそうな顔をすると、
「今まで、ゴーストの出現する頻度や数は、一人の少女の力で抑えられる程度だったはずです。それが突然、今までの何倍ものゴーストが現れた。それが意味するのはただ一つ。彼らが、とうとう本気でこの地を征服しようとしている、ということに他なりません」
きっぱりと言い放たれた言葉に、一同は完全に言葉を失った。
フェイトは先程の海王星の軍人との会話を思い出す。村長たちには伏せたが、彼らは軍人なのだ。それが巨額な費用を投じ、大規模な隊列を組んで進軍してきた以上、敗北以外で撤退するとは考えにくい。
「…………では、私達はもう、ただ黙って蹂躙されるしかないのか…………」
しわがれた声で、村長が誰ともなしに呟く。
「村長、大丈夫よ。今までのように、この村は私が守るから!」
肩を震わせる村長に、穗村は力強く応える。しかし、村長はゆるゆると首を横に振ると、
「無理だ……お前は、あのゴーストの大群を見ていないからそんなことが言えるんだ……あの
数はとても一人でどうにかできるものじゃない…………」
と、弱々しい声を上げた。その時の事を思い出しているのだろうか、村長の瞳は小さく揺れている。
「大丈夫、私達もいます。あの程度の敵、三人でなら数百体ぐらい余裕で倒せますよ♪」
明るく、人懐っこい声で、なのはも村長を元気づける。
「数百? ……相手は、おそらくもっと多い……なにせ東の草原がゴーストの大群で覆い尽くされていたくらいですから……」
「え……?」
「そ、そんな」
「……作戦を立てる必要が、ありそうだね」
村長の言葉に、フェイトの瞳は揺らぐことなく依然強い光を灯していた。
「そ、村長! 大変だ、ゴーストが……!!」
「な、なんだと!?」
バンと大きな音を立てて扉が開かれると、村の人が入ってきて叫ぶ。その瞳は焦燥で血走っていた。
「作戦を、立てる時間もくれなさそうだね……」
フェイトはそう呟くと、まっすぐに前を見据えて、「私達がゴーストを食い止めます! その間に避難して!」そう言って、駈け出して行った。
◇◆◇
東の草原が、まるで黒い海にでもなったようだ。蠢く黒い影の一つ一つがゴーストだとしたら、その数は優に数千を超えるだろう。
フェイト達は村の外塀を登り、上からその光景を見つめていた。
「どうする、フェイトちゃん?」
隣で、少し不安気な声でなのはが聞いてくる。
「とにかく、少しずつ相手の戦力を削っていくしかない。私と穗村が前衛に立つから、なのはは後衛で援護をお願い」
「……わかった」
「あと、ここでは、大気中の魔力はすぐに無くなるから、スターライトブレーカーは使わないようにね」
「うん」
チラリと視線を送るフェイトに、なのはは大きく頷き返す。
「穗村、危険な役目だけど、危なくなったらすぐ退避して、くれぐれも無理しないように……」
「はい、分かってます」
穗村は返事をしながら、胸の前でぎゅっと大幣を握りしめる。そんな穗村の緊張をほぐすようにフェイトはふっと軽く微笑む。
「じゃあ、行くよ!」
フェイトの力強い掛け声に、二人は「はい!」と気合の入った声を返したのだった。
◇
「ハーケン、セイバ――――!!」
フェイトの放った金色のリングが、ゴースト達を真っ二つに切り裂いていく。
「はっ! やっ! やぁ!!」
その横で、穗村が持ち前の反射神経で、敵の攻撃を掻い潜りながら、大幣を振り回してゴースト達を蹴散らしていた。反射神経に頼りすぎる事無く、常に一対一の戦況になるように立ち回っていて、この数日間になのはが教えたことも実践できているようだ。
フェイトは穗村の背後で隙を窺っていたゴーストにフォトンランサーをお見舞いすると、すぐに次の敵と対峙する。
「アクセル……シュ――――ト!!」
フェイトと穗村の攻撃が途切れる瞬間を狙っていたゴースト達になのはの魔法が炸裂。流石はエース・オブ・エース、これ以上ないタイミングのサポートだった。
「はぁ――、はぁ――…………」
しかし、それでもこの数には辟易(へきえき)してしまう。フェイトは自身を囲むようにフォトンランサーを生成すると、四方八方へと撃ち出すが、それで倒せる敵はせいぜい十体程度だ。
戦闘を開始して一時間。顔を上げれば、目に入るのはゴースト、ゴースト、ゴーストばかり。本当に数を減らせているのか、と疑問が沸いてくるほどだ。
「――――バルディッシュ!」
「Yes,sir.」
フェイトの声に応じる様に、バルディッシュはその形をハーケンフォームへと変える。
「はぁぁぁぁ!」
フェイトは、ゴーストの懐に入り込むと一閃、バルディッシュを横に薙ぐ。そのまま、振り向く要領で、背後の敵を刈り上げる。そこからさらにバルディッシュを振り回して、次々とゴースト達を切り裂いていく。その姿は、まるで三国志に出てくる武将のように猛々しい。
(なのは、穗村。このまま村の近くで戦うのは危険だから、南側へ戦場を移動させよう)
それでも、フェイトは冷静さを保ち続けていた。ジリ貧の現状を踏まえ、万が一のことを考慮して、戦場を移すように念話で二人に指示を出す。二人が了解の旨を伝えると、フェイト達は南へ移動を始めた。最前線で戦っていたゴースト達をすり抜けると、次第に中盤の部隊が見えてくる。
「……な……あれは?」
部隊のしんがりだろうか、まるで壁のように高い黒球があることに気付く。
あれも、ゴーストなのか?
フェイトが驚いた表情を浮かべその球体を見ていると、ぎょろりと巨大な目玉らしきものがこちらを見てきた。
しかし、向こうから仕掛けてくる様子はなく、この不審物との戦闘はもう少し先になりそうだ、とフェイトは一旦問題を棚上げして移動を再開した。果たして、あの巨大なゴーストまで辿り着くことができるのだろうか……体力的な面も含めて、フェイトとしては不安しかない。
しかし、今は目の前の敵を倒していくことに集中するしかないのだ。フェイトは、さらに南へ移動しながら、バルディッシュを振り回し続ける。
「はぁっ、はぁっ……!!」
フェイトも穗村も次第に息が上がり始めている。流石のフェイトでも、これほど連続して戦闘をすることは滅多にない。戦闘開始から、そろそろ二時間が経とうとしていた。
これは戦争なのだ、フェイトは自分に何度もそう言い聞かせては、自分の体に鞭を打っていたのだった。
◇
「ハァッ! ……ハァッ、ハァッ…………穗村、交代!」
フェイトは、そう言うと荒い呼吸を押さえ前に出る。
「ゼェ、ゼェ……は、い」
穗村は何とか返事をすると、倒れ込むように後退した。同時に、ギインという金属音が響き渡る。穗村を狙った敵の剣戟をバルディッシュで受け止め、さらに体重を乗せて押し返すと、バルディッシュを大きく振り下ろす。
ズバッ切り裂く音と共にゴーストは消失した。
「大丈夫、穗村ちゃん?」
「……な、……なんとか」
穗村は肩で息をしながら、なのはが用意した結界の中に座り込む。
「シュート!」
なのはのアクセルシューターがフェイトの目の前にいる敵に炸裂していく。
今、フェイト達は三人で固まって隊列を組んでいる。正確には、体力の消耗が激しい前線二人は交互に入れ替わりながら戦い、一人は後列のなのはの結界の中で、体力を回復させている。
結果的には、なのはが最前線にいることになるのだが、こうでもしないと、とてもではないが敵の前線を抑えることが出来なくなっていた。
――――戦闘開始から三時間。
しんがりにいる巨大な球体ゴーストにようやく近づいてきて、敵も“素手”から“剣持ち”に変わり、手強くなっていた。
戦場でギィン、ガィンという金属音が響きわたる。
フェイトは次から次へと繰り出されるゴースト達の攻撃を、受け、払い、躱しながら、同時にバルディッシュを薙ぎ、振り下ろし、刈り上げて、敵を殲滅していく。
体力的にはすでに限界が近く、ずっと肩で息をしているが、それでも動き続ける……足を止めてしまうと、一瞬でゴースト達に取り囲まれてしまう。そうなれば、いくら近接戦闘に強いフェイトといえども、不覚を取る可能性さえあるのだ。
「フェイトさん、交代です!」
「ハァッ、ハァッ……ありがとう、お願い」
それでも、若さゆえか比較的体力の回復が早い穗村のおかげで、ここまでは何とかなっている。フェイトはバックステップで後退すると、なのはの結界内で膝をついて休む。
「はぁ……はぁ……フェイトちゃん、大丈夫?」
「……うん、まだまだ……ハァッ、ハァッ、…………全然大丈夫だよ」
ただの強がりにしか聞こえないが、それでもフェイトはなのはに笑顔を向ける。フェイトとしては、自分よりもなのはの息が上がり始めていることに、危機感を覚えていた。この隊列の要は、後衛のなのはだ。前衛のサポートに加え、もう一人が休憩できるように、常に結界を張り続けてもらわなければならない。前衛はどちらか一方が休めるが、なのはは休むことができないのだ、必ずどこかで限界が来てしまう。
しかし、今はこの方法をとるしかないのだ。できれば、なのはの体力が尽きる前に、決着をつけたいというのが、フェイトの正直な思いだった。
フェイトは、眼前に広がるゴーストの戦列を睨みつけながら、何か打開策はないかと考える。
隊列のどこかに綻びはないか? 妙な動きをしている奴はいないか? 指示を出しているリーダー的存在はいないか? とにかく観察するしかない。フェイトは突破口を見つけようと、懸命に周囲を探り続けた。
しかし、これといったものは見つけられないまま、穗村と交代して前線へと飛び出しては、ゴースト達を屠り、穗村の体力が回復すれば交代する、を繰り返すばかりだった。それでもフェイトは前線で戦闘しながら懸命に相手側の綻びを探し続けるしかなかった。
(サンプルはここまで)
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【迷い星と茜色の空―後編―】
◆◇◆
「う……んっ……ここは?」
目を覚ますと見慣れた天井が視界に入り、ここが自分の部屋だという事に、すぐに気付いた。
何だか妙に頭がクラクラする。
いつの間に寝ていたのか、全く記憶がない。確か、村長の家に行ったところまでは覚えているが、その後どうやって家まで戻って来のか……。
穗村はのそりと起き上がり、まだフラつく足取りでカーテンを開けると、朝の柔らかい日差しが、寝起きの体にちょうどいい刺激を与えてくれた。
「そういえば、あの二人はどうしたのかな?」
また、村長の家にでも泊まっているのだろうか。未だに帰る手がかりが無くて困っているだろう、穗村としてもここまで協力したのだから、できれば最後まで手助けをしたい、という思いがあった。
二人の様子を知りたくて、穗村は手早く着替えると、朝食もほどほどにすぐに村長の家に向かった。
◇
「村長、昨日の二人は――――村長?」
穗村が村長の家を訪ねると、明りもつけずにじっと座っている村長の姿がそこにあった。
「ど、どうしたんですか、村長?」
「ん? ……ああ、穗村か……いや、何でもない」
明らかに顔色が優れない村長に、穗村はかける言葉を探す。
「あまり、何でもない、という感じの顔色ではないみたいですけど……本当に大丈夫ですか?」
そう言って、村長の顔を覗き込めば、村長ははっと顔を上げたが、またすぐに下を向いてしまった。顔を上げた一瞬、穗村は村長が縋る様な目をしていたような気がして、ますます不安になる。
「……ああ、大丈夫だ。それよりも、何か用かね?」
依然、顔色が悪いままだが、これ以上追及しても意味がないと思い、穗村は二人のことを尋ねることにした。
「はい、あの異世界から来たという二人は、昨日ここに泊まったのでしょうか?」
「ああ、あの二人なら帰ったよ、元の世界にな……」
「え? じゃあ、帰り方が分かったのですか?」
「それは…………わ、儂には良く分からんが、帰ったということは、そういうことなのだろう」
「…………」
そうなのだろうか、穗村は村長の言葉に強い違和感を覚えた。あれだけ王都で帰る手段を探して、何も見つからなかったというのに、昨日の今日で、解決したとは考えられなかった。それに、これは自惚れなのかもしれないが、あの二人が自分に挨拶もなしに帰るとは、穗村にはどうしても思えなかった。
「……本当に、帰ったのですか?」
疑問が拭えない穗村は、じっと村長の顔を見つめる。
どうも今日の村長は様子がおかしい。もしかしたら、この件が関係しているのではないか、そんな考えまで浮かんでくる。
「…………ああ、そうだ、と何度も言っているだろう」
突き放すような村長の返事に、穗村はずんと頭を押さえつけられたような気分になった。そうか、あの二人にとって自分はその程度だったのだと、そう考えると、少しだけ惨めな気分になった。旅の道中に行っていた戦闘訓練の合間に、見せてくれた優しさや、王都での聞き込みや観光していた時に見せてくれた温かい笑顔は、全部建前だったのだろうか、そんな風に考えてしまう自分に、穗村は増々悲しくなった。
穗村は、「分かりました」と一言だけ言うと、そのまま回れ右をして玄関のほうに歩き出す。
「――あらあら、村長さん、それは少しツレナイんじゃないですか?」
すると、玄関の方からこの数日間ですっかり聞き馴染んだ声が聞こえ、穗村はハッと顔を上げた。
「なっ!! どうして、ここに!?」
「フェイトさん! なのはさん!!」
「にゃはは、やっほー、穗村ちゃん♪」
穗村の背後で村長の驚く声が聞こえたが、そんなことはお構いなしに、穗村は二人の元に駆け寄る。
「良かったぁ~、まだ帰ってなかったんですね♪」
そう伝えると、二人は不思議そうな顔をして、「まだ帰る手段が分かってないからね」と苦笑いをする。
「え? でもさっき村長が、帰る手段が分かって、二人とも元の世界に戻ったって…………」
穗村自身も言っていて気づいたのだろう、信じられないという表情で村長の方を振り返る。
村長は諦めたように椅子に座り、テーブルに肘をついて苦悶の表情を浮かべていた。
「……仕方なかったんだ…………こうする以外に、村を守る手段はなかったのだ…………すまない」
懺悔する村長の声は、喉から絞り出すような声だった。
「ええ、事情は分かってます。気にしないでください」
そんな村長に対し、フェイトの言葉は実にあっさりしたものだった。その発言に、顔を上げた村長の表情は驚きのあまり、目を限界まで見開いている。
「大方、私達を差し出せば、村を助けると、大量のゴーストの群れに迫られたのでしょう。上手く痕跡を消しているつもりでしょうが、村の至る所にゴーストが暴れた形跡がありました」
「……そこまで気づいていましたか」
村長の肩がガクリと落ちる。
「……あなた方がここに居るという事は、私との契約は無効になったということなのでしょうね」
「……残念ながら、どの道この村は襲われていたと思います」
「なっ!?」
「ゴースト達は私達に対しても同じような条件を突き付けてきてましたが、おそらく彼らは私達がこの地を去った後、この世界の人々を葬るつもりだったのでしょう」
「な、なぜ!?」
村長は顔を真っ赤に染めて叫び、怒りを露わにする。その様子は普段の温和な村長と同一人物とは思えない程、取り乱していた。
フェイトは、少し悲しそうな顔をすると、
「今まで、ゴーストの出現する頻度や数は、一人の少女の力で抑えられる程度だったはずです。それが突然、今までの何倍ものゴーストが現れた。それが意味するのはただ一つ。彼らが、とうとう本気でこの地を征服しようとしている、ということに他なりません」
きっぱりと言い放たれた言葉に、一同は完全に言葉を失った。
フェイトは先程の海王星の軍人との会話を思い出す。村長たちには伏せたが、彼らは軍人なのだ。それが巨額な費用を投じ、大規模な隊列を組んで進軍してきた以上、敗北以外で撤退するとは考えにくい。
「…………では、私達はもう、ただ黙って蹂躙されるしかないのか…………」
しわがれた声で、村長が誰ともなしに呟く。
「村長、大丈夫よ。今までのように、この村は私が守るから!」
肩を震わせる村長に、穗村は力強く応える。しかし、村長はゆるゆると首を横に振ると、
「無理だ……お前は、あのゴーストの大群を見ていないからそんなことが言えるんだ……あの
数はとても一人でどうにかできるものじゃない…………」
と、弱々しい声を上げた。その時の事を思い出しているのだろうか、村長の瞳は小さく揺れている。
「大丈夫、私達もいます。あの程度の敵、三人でなら数百体ぐらい余裕で倒せますよ♪」
明るく、人懐っこい声で、なのはも村長を元気づける。
「数百? ……相手は、おそらくもっと多い……なにせ東の草原がゴーストの大群で覆い尽くされていたくらいですから……」
「え……?」
「そ、そんな」
「……作戦を立てる必要が、ありそうだね」
村長の言葉に、フェイトの瞳は揺らぐことなく依然強い光を灯していた。
「そ、村長! 大変だ、ゴーストが……!!」
「な、なんだと!?」
バンと大きな音を立てて扉が開かれると、村の人が入ってきて叫ぶ。その瞳は焦燥で血走っていた。
「作戦を、立てる時間もくれなさそうだね……」
フェイトはそう呟くと、まっすぐに前を見据えて、「私達がゴーストを食い止めます! その間に避難して!」そう言って、駈け出して行った。
◇◆◇
東の草原が、まるで黒い海にでもなったようだ。蠢く黒い影の一つ一つがゴーストだとしたら、その数は優に数千を超えるだろう。
フェイト達は村の外塀を登り、上からその光景を見つめていた。
「どうする、フェイトちゃん?」
隣で、少し不安気な声でなのはが聞いてくる。
「とにかく、少しずつ相手の戦力を削っていくしかない。私と穗村が前衛に立つから、なのはは後衛で援護をお願い」
「……わかった」
「あと、ここでは、大気中の魔力はすぐに無くなるから、スターライトブレーカーは使わないようにね」
「うん」
チラリと視線を送るフェイトに、なのはは大きく頷き返す。
「穗村、危険な役目だけど、危なくなったらすぐ退避して、くれぐれも無理しないように……」
「はい、分かってます」
穗村は返事をしながら、胸の前でぎゅっと大幣を握りしめる。そんな穗村の緊張をほぐすようにフェイトはふっと軽く微笑む。
「じゃあ、行くよ!」
フェイトの力強い掛け声に、二人は「はい!」と気合の入った声を返したのだった。
◇
「ハーケン、セイバ――――!!」
フェイトの放った金色のリングが、ゴースト達を真っ二つに切り裂いていく。
「はっ! やっ! やぁ!!」
その横で、穗村が持ち前の反射神経で、敵の攻撃を掻い潜りながら、大幣を振り回してゴースト達を蹴散らしていた。反射神経に頼りすぎる事無く、常に一対一の戦況になるように立ち回っていて、この数日間になのはが教えたことも実践できているようだ。
フェイトは穗村の背後で隙を窺っていたゴーストにフォトンランサーをお見舞いすると、すぐに次の敵と対峙する。
「アクセル……シュ――――ト!!」
フェイトと穗村の攻撃が途切れる瞬間を狙っていたゴースト達になのはの魔法が炸裂。流石はエース・オブ・エース、これ以上ないタイミングのサポートだった。
「はぁ――、はぁ――…………」
しかし、それでもこの数には辟易(へきえき)してしまう。フェイトは自身を囲むようにフォトンランサーを生成すると、四方八方へと撃ち出すが、それで倒せる敵はせいぜい十体程度だ。
戦闘を開始して一時間。顔を上げれば、目に入るのはゴースト、ゴースト、ゴーストばかり。本当に数を減らせているのか、と疑問が沸いてくるほどだ。
「――――バルディッシュ!」
「Yes,sir.」
フェイトの声に応じる様に、バルディッシュはその形をハーケンフォームへと変える。
「はぁぁぁぁ!」
フェイトは、ゴーストの懐に入り込むと一閃、バルディッシュを横に薙ぐ。そのまま、振り向く要領で、背後の敵を刈り上げる。そこからさらにバルディッシュを振り回して、次々とゴースト達を切り裂いていく。その姿は、まるで三国志に出てくる武将のように猛々しい。
(なのは、穗村。このまま村の近くで戦うのは危険だから、南側へ戦場を移動させよう)
それでも、フェイトは冷静さを保ち続けていた。ジリ貧の現状を踏まえ、万が一のことを考慮して、戦場を移すように念話で二人に指示を出す。二人が了解の旨を伝えると、フェイト達は南へ移動を始めた。最前線で戦っていたゴースト達をすり抜けると、次第に中盤の部隊が見えてくる。
「……な……あれは?」
部隊のしんがりだろうか、まるで壁のように高い黒球があることに気付く。
あれも、ゴーストなのか?
フェイトが驚いた表情を浮かべその球体を見ていると、ぎょろりと巨大な目玉らしきものがこちらを見てきた。
しかし、向こうから仕掛けてくる様子はなく、この不審物との戦闘はもう少し先になりそうだ、とフェイトは一旦問題を棚上げして移動を再開した。果たして、あの巨大なゴーストまで辿り着くことができるのだろうか……体力的な面も含めて、フェイトとしては不安しかない。
しかし、今は目の前の敵を倒していくことに集中するしかないのだ。フェイトは、さらに南へ移動しながら、バルディッシュを振り回し続ける。
「はぁっ、はぁっ……!!」
フェイトも穗村も次第に息が上がり始めている。流石のフェイトでも、これほど連続して戦闘をすることは滅多にない。戦闘開始から、そろそろ二時間が経とうとしていた。
これは戦争なのだ、フェイトは自分に何度もそう言い聞かせては、自分の体に鞭を打っていたのだった。
◇
「ハァッ! ……ハァッ、ハァッ…………穗村、交代!」
フェイトは、そう言うと荒い呼吸を押さえ前に出る。
「ゼェ、ゼェ……は、い」
穗村は何とか返事をすると、倒れ込むように後退した。同時に、ギインという金属音が響き渡る。穗村を狙った敵の剣戟をバルディッシュで受け止め、さらに体重を乗せて押し返すと、バルディッシュを大きく振り下ろす。
ズバッ切り裂く音と共にゴーストは消失した。
「大丈夫、穗村ちゃん?」
「……な、……なんとか」
穗村は肩で息をしながら、なのはが用意した結界の中に座り込む。
「シュート!」
なのはのアクセルシューターがフェイトの目の前にいる敵に炸裂していく。
今、フェイト達は三人で固まって隊列を組んでいる。正確には、体力の消耗が激しい前線二人は交互に入れ替わりながら戦い、一人は後列のなのはの結界の中で、体力を回復させている。
結果的には、なのはが最前線にいることになるのだが、こうでもしないと、とてもではないが敵の前線を抑えることが出来なくなっていた。
――――戦闘開始から三時間。
しんがりにいる巨大な球体ゴーストにようやく近づいてきて、敵も“素手”から“剣持ち”に変わり、手強くなっていた。
戦場でギィン、ガィンという金属音が響きわたる。
フェイトは次から次へと繰り出されるゴースト達の攻撃を、受け、払い、躱しながら、同時にバルディッシュを薙ぎ、振り下ろし、刈り上げて、敵を殲滅していく。
体力的にはすでに限界が近く、ずっと肩で息をしているが、それでも動き続ける……足を止めてしまうと、一瞬でゴースト達に取り囲まれてしまう。そうなれば、いくら近接戦闘に強いフェイトといえども、不覚を取る可能性さえあるのだ。
「フェイトさん、交代です!」
「ハァッ、ハァッ……ありがとう、お願い」
それでも、若さゆえか比較的体力の回復が早い穗村のおかげで、ここまでは何とかなっている。フェイトはバックステップで後退すると、なのはの結界内で膝をついて休む。
「はぁ……はぁ……フェイトちゃん、大丈夫?」
「……うん、まだまだ……ハァッ、ハァッ、…………全然大丈夫だよ」
ただの強がりにしか聞こえないが、それでもフェイトはなのはに笑顔を向ける。フェイトとしては、自分よりもなのはの息が上がり始めていることに、危機感を覚えていた。この隊列の要は、後衛のなのはだ。前衛のサポートに加え、もう一人が休憩できるように、常に結界を張り続けてもらわなければならない。前衛はどちらか一方が休めるが、なのはは休むことができないのだ、必ずどこかで限界が来てしまう。
しかし、今はこの方法をとるしかないのだ。できれば、なのはの体力が尽きる前に、決着をつけたいというのが、フェイトの正直な思いだった。
フェイトは、眼前に広がるゴーストの戦列を睨みつけながら、何か打開策はないかと考える。
隊列のどこかに綻びはないか? 妙な動きをしている奴はいないか? 指示を出しているリーダー的存在はいないか? とにかく観察するしかない。フェイトは突破口を見つけようと、懸命に周囲を探り続けた。
しかし、これといったものは見つけられないまま、穗村と交代して前線へと飛び出しては、ゴースト達を屠り、穗村の体力が回復すれば交代する、を繰り返すばかりだった。それでもフェイトは前線で戦闘しながら懸命に相手側の綻びを探し続けるしかなかった。
(サンプルはここまで)
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テーマ : 魔法少女リリカルなのは
ジャンル : アニメ・コミック