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【フェイト騎士譚】

皆さま、ごきげんよう。
大変お久しぶりです、SS担当タイヤキです。

しばらく仕事が修羅場っていましたが、3月中旬ぐらいから落ち着き始めてたので、
リハビリがてらという感じで書いていたのですが、……随分と遅くなりました(汗)

ちなみに、年齢設定はフェイト29歳、なのは19歳というギャップを設けています。
本編ではその話は触れていませんが、年齢差がある前提で読んでいただけると幸いです。

というわけで、以下からどうぞ。
(※百合注意)
-------------------------------------------------
【フェイト騎士譚】
 
     ◇◆◇

「あの! 大丈夫ですか!?」
 声が聞こえ、薄く目を開けると栗色の髪をした少女がこちらを覗き込んでいた。
「……み、みず」
 声をかけられた騎士は、うっすら目を開くと擦れた声でそう言い再び目を閉じた。
「あの、しっかりしてください! もしもし! もしもし…………」
 薄れゆく意識の中で、少女の声が次第に小さくなっていった。



     ◇◆◇

「おい、すまんが高田さん所言って、野菜を買ってきてくれ」
 店主にかごを渡されたなのはは、「分かりました」といってエプロン姿のまま外に飛び出した。
 サイドに束ねた栗色の髪をなびかせて、パタパタと慌てて走る様子は優雅とは程遠い。
「すみませ~ん、いつものくださ~い!」
 八百屋の前でそう言って、かごを店主に差し出す。店主は、「はいはい」とゆったりとした声で応えると、いつもの笑顔で野菜を詰めていく。
「なのはちゃんも、すっかり大きくなったねぇ~」
「へ? そうですか?」
「ああ、ついこの間までこんなに小っちゃかったのにと思ってねぇ」
「何言ってんだい、おとっさん。なのはちゃんはもうすっかり大人だよ……全く、ウチの主人が失礼なこと言ってすまないねぇ」
「いえ」
 のんびりした夫婦のやり取りに、なのはは僅かに頬が緩む。
「そういえば、なのはちゃんはそろそろ良い人いないのかい? 美人さんだし一人や二人……」
「ばっかやろう、そういうのはまだ早いんだよ! なぁ、なのはちゃん?」
「にゃはは……そ、そうですね」
 しかし、次いできた言葉に今度は頬が引きつった。
 この村で齢十九ともなれば、大半の女性は結婚しているのだが、なのはにはその相手すら居ない。
「何だい、残念だねぇ……おばさんが、見つけてきてあげようか?」
「い、いえ。大丈夫です。それに、今は仕事だけで精一杯なので」
「そうかい……まぁでもいつでも相談においでね!」
 そう言って、奥さんが野菜をたっぷり詰めたかごを返してくれた。なのはは作り笑顔で「その時はお願いします」と社交辞令だけ言うと、再び仕事先の方へと足を向ける。
 なのはの職場は人口数百人程度の小さな村で唯一の飲食店。料理長も兼任している店長が都会から来た人ということもあり、この村にはない上品な味がウケ、それなりに繁盛している。なのはは去年から働いていてようやく仕事にも慣れてきた所だが、おっちょこちょいな性格が災いして失敗が絶えないことが悩みの種だ。

 ――助けてっ……!

 急いで店に戻っている途中、なのはは突然キンッという耳鳴りと頭痛に襲われた。

 ――もし、この声が聞こえる人がいれば…………

 なのはが耳を押さえていると、もう一度耳鳴りが起きた。同時にぼそぼそと人の声のようなものが聞こえた気がして、なのはは慌てて周囲を見渡す。
「あの! さっき、何か聞こえませんでした?」
 近くを歩く村の人にそう訊ねてみたが、「さあ?」という素っ気ない返事だけ。気のせいなのかと、思いはじめたところで三度目の耳鳴りに、今度ははっきりと人の声が聞こえた。

 ――お願い…………
 
 理由は分からないが、他の人には聞こえていないようだ。そういう場合は大抵幽霊のしわざと相場が決まっていそうなものだが、不思議と恐怖感はなかった。それよりも、となのはは周囲を再び見渡し始めた。助けを呼ぶ声に応えようと、必死になって何かを探すが、周囲にはいつも通りの平和な光景が広がっているだけで何も見当たらない。
 ふと、ある方角が気になり、そちらへ足を向けた。
 ただの直感だが、その先に探しているモノがあるような気して急かされるように足を動かす。しばらく行くと人影を見つけ、慌てて駆け寄った。
「あの……!」
 そこには立派な白銀の甲冑を着た騎士が倒れていた。
 なのはが声を掛けても木に背中を預けたままピクリとも動かない。
「騎士様! しっかりしてください!!」
 ぞくりと嫌なものが背中を流れ、なのはは騎士の肩を掴んで大きく揺さぶる。
「……う……」
 まだ息があることが確認できると、なのははさらに大きく肩を揺さぶった。
「騎士様!」
「…………み、水を…………」
 しかし、騎士はその一言を言うと再び意識を失ってしまった。焦るなのはの声だけが林の中で響き渡っていた。
 
      ◇

「いくよ、バルディッシュ!」
 フェイトはいつものように愛機に向かって叫ぶが、何の返事もない。
「……バルディッシュ?」
 不思議に思ったフェイトが愛機に目を向けると、じっとこちらを伺うように佇む愛機の姿があった。
 フェイトは手を伸ばすが、手を伸ばした分だけバルディッシュが離れたせいでお互いの距離は縮まらず、フェイトの手は空を切る。
「どうしたの、バルディッシュ?」
 どんな時も一緒だった愛機の行動にフェイトは戸惑った。こんなことは今まで一度もなかったのだ、フェイトは嫌な予感に胸騒ぎを覚える。一方のバルディッシュは無言を貫いている。話をする気はない、ということだろうか。
 しばらくそのまま様子を窺っていると、バルディッシュがすーっと暗闇にその姿を隠し始め、フェイトはぎょっとして彼の方へと駆け出す。
 しかし、先ほどと同じく一向に距離は縮まらない。それでもフェイトは懸命に足を動かした。
 生まれてから一度たりとも離れたことのない愛機との別れ。それは、フェイトにとって恐怖でしかなかった。
「バルディッシュ! バルディッシュ!! 待って!!!!」
 しかし、そんなフェイトの叫びも虚しく、バルディッシュはその姿を完全に暗闇に消してしまった。
「そんな、どうして……バルディッシュ――――――!!!!!」
 完全な真っ暗闇の中で、フェイトはただただ叫び続けていた。

     ◇
 
 はっと目を覚ますと、そこには初めて見る天井があった。はぁはぁと息が切れていることに気づき、先ほどの出来事は夢だったのだと理解した。
「あ、良かった。目、覚まされたんですね」
 きょろきょろと周囲を伺っていると、おもむろに女の子が部屋に入ってきた。
「お体は大丈夫ですか? あんな所に倒れられていたので、驚きました」
「助けていただいたようでありがとうございます……あの、ここは?」
「ここは、私の家です。狭い所ですが、ゆっくりしていってください。」
「そんな、ありがとうございます」
 フェイトはベッドの上から深々と頭を下げる。
「それより、お体のほうは本当に大丈夫ですか……?」
 なのはは心配そうにおずおずと尋ねる。赤の他人だというのに随分と親切な人だとフェイトは顔を上げその澄んだ瞳を見つめた。
「大丈夫です……ただの空腹ですから」
 そう言って爽やかな笑顔を浮かべると、ぐぅという大きな音が聞こえ、フェイトは赤面しそうな顔を必死に笑顔で上書きする羽目になった。よほど大きな音だったのだろう、なのはは目を丸くした後、くすくすと笑い出す。
「ちょっとだけ待っててください、騎士様。今、夕飯の準備してますので」
「いやいや、助けてもらってご飯までというわけには……」
 フェイトはそう言って立ち上がろうとするが、空腹のあまり眩暈を覚えふらりとよろけてしまう。それを見ていたなのはが慌てて駆け寄り、フェイトを受け止めた。
「無理しないでください。そんな状態で歩き回ったらまた倒れてしまいますよ」
 なのはに正論を説かれ、フェイトは渋々といった様子でベッドに座る。
「……? 顔が赤いみたいだけど、大丈夫?」
 顔を上げるとなのはの顔が真っ赤に染まっていることに気づき、フェイトは「やっぱり出ていったほうが……」と再度申し出るが、一方のなのはは顔をぶんぶんと横に振り「だ、大丈夫ですから!」と叫ぶと急いで部屋を出て行ってしまった。
 何が起こったのか分からないフェイトはポカンとしていると、「すぐお料理持ってきますね」とドア越しになのはの声が聞こえ、パタパタという足音が遠ざかっていった。
 仕方なしにフェイトはぼんやりと部屋を見渡す。屋根や壁は木造で、簡素な窓にはベージュのカーテンが掛かっている。明かりはテーブルに立てられているろうそくだけで少し暗い。ベッドはいつも彼女が使っているものなのだろうか、可愛らしいピンクの布団がかけられていて、枕元には随分と使い古された人形があった。これは、フェレットだろうか。
「お待たせしました」
 ガチャリとドアが開いて、なのはが部屋に入ってきた。ほとんど料理は作り終えていたのだろう、フェイトが予想していたよりもなのはは早く戻ってきたなのはの手には一人前の料理が盆に載せられていた。
「ありがとう……でも、せっかくだから、一緒に食べない?」
 フェイトは「一人じゃ寂しいしさ」と付け加えて提案する。
 なのはは、見間違いだろうか、再び顔を真っ赤にして、「いえ、そんな、申し訳ないです」と言って顔をぶんぶんと横に振る。そんななのはの言動にフェイトはつい笑みが零れた。
「申し訳ないって……ここは貴女の家なのだから、むしろ申し訳ないのは私の方なんだけど」
 すると、なのははますます顔を赤くして、今度は俯いて黙り込んでしまった。
「ねぇ、私は貴女ともう少し話したいのだけど……嫌かな?」
「………………い、嫌じゃないです」
「じゃあ、一緒に食べよう?」
「……分かりました、今料理を持ってきます」
「うん、じゃあ待ってる♪」
 フェイトがご機嫌に返事をすると、なのははなぜか俯いたまま部屋を出て行ってしまった。

      ◇

「へぇ、なのははこの村の生まれなんだ」
 食事が終わった後、自己紹介をしていないことに気づいて慌てて互いの名前を言ったところで、雑談タイムに突入していた。
「はい。ウチの母がここの生まれで」
「そうなんだ、お父さんは?」
「父はここから東にある都の出身です」
「珍しいね、都の人がこっちに来るなんて」
「ええ、どうも父が母にひとめぼれしたようで、たまたま旅で寄るだけのつもりがここの住人になってしまったって、よくそう言って嬉しそうに笑っていました」
「いい両親だねぇ、今もこの家に住んでるの?」
「……いえ、両親は2年前に亡くなりました」
「え?」
「久しぶりに夫婦で旅行でも行って来たらって送り出したんですけど、その帰り道で賊に襲われて……」
「そうだったんだ……」
「その後、賊は捕まったみたいなんですけど、あの時あんなことを言わなければって……もう今更なんですけどね、それでもやっぱり考えちゃいます」
 そう言って笑うなのはの顔ががあまりにも辛そうで、フェイトは思わずぽんと頭に手をのせ、「ごめん、嫌なことを思い出させたね」と言って申し訳なさそうに眉を下げた。
「いえ、こちらこそすみません」
「じゃあ、今は一人で住んでるの?」
「はい、兄と姉もいるのですが、二人とも結婚して今は都の方にいて、今、この家に居るのは私だけなんです」
「それは、ちょっと寂しいね」
 フェイトは穏やかな口調でそう言うと、なのはの頭を撫でた。
「それはそうと、騎士様はどうしてあんな所で倒れていらっしゃったのですか?」
 ぐいっと顔を寄せて訊ねてくるなのはの言葉に、フェイトの手が止まる。恥ずかしそうにあははと笑いながら「ちょっと大切な相棒に逃げられてしまって、帰れなくなっちゃって」と続けた。
「相棒? 馬ですか?」
「まぁ、そんな所かな」
「そうだったんですね、ようやく謎が解けました!」
「謎?」
「ええ、騎士様の体には全然傷がなかったのに、どうして倒れてたんだろうって、ずっと不思議だったんです……あ、ごめんなさい、勝手に甲冑を脱がせてしまいました」
 なのははその時のことを思い出したのか恥ずかしそうに顔を赤らめて「騎士様って女性だったんですね」とぼそりと加えてきた。フェイトは頬を赤らめるなのはの様子が可愛くてくすりと笑う。
「気にしなくていいよ、よく言われる、女性だと思わなかったって。まぁ、あんなごっつい甲冑着ていたら男か女かなんてわからないよね。でも、傷がなくても空腹で倒れてるんだけら、騎士としては情けない話だよね」
 ははは、とフェイトが頬を掻きながら自虐的に笑うと、真剣な表情のなのはがもう一度ぐっと顔を近づけてきた。
「そんなことないです! この国の騎士様たちははいつも私たちを守ってくださっていることはちゃんと分かってますから!」
 その純粋な瞳に、フェイトはまぶしさを覚え目を細める。同時に、ちょっとした悪戯を思いつく。
「フェイトね」
「へ?」
「騎士様じゃなくて、フェイトって呼んで。」
 さっき名前教えたでしょ、と言外に含みを持たせ、なのはの瞳をまっすぐに見つめる。
「で、でも……そんな私たちみたいな平民が騎士様のことを名前で呼ぶなんて……」
「フェイト。騎士様なんて他人みたいで寂しいじゃない……ね、お願い」
「うぅ……」
「ね、なのは。私だってなのはの事名前で呼んでるんだから。おあいこだよ」
「ううぅ……」
「な~のは♪ お願い♪」
 フェイトは困っているなのはに追い打ちをかけるようにパンと両手を合わせてお願いする。
「うううぅ……フェ、フェイト、様」
「……様はつけるんだ、まぁいっか」
 フェイトは少し残念そうにぼやいたが、すぐに嬉しそうに笑って、「ありがとう、なのは」と応えた。
 その日、フェイトはそのままなのはの家にお邪魔になることにした。これほど心が穏やかになる会話をしたのはいつぶりだろう。なのはとの談笑中、フェイトはぼんやりとそんなことを考えていた。

      ◇

「バルディッシュ、応援の到着まであとどのくらい?」
『About 30 minutes.』
 フェイトとバルディッシュは、はるか上空から敵部隊の様子を伺っている。その数は数百といったところだ。地上ではフェイトの部隊が応戦しているが、状況はかなり悪い。
 何か手を打たないと部隊の壊滅は免れない。
「30分か……仕方ない、ここは私一人で敵陣中央に突入する」
『Please wait,my master! This plan is very dengerous. I suggest another plan...』
「別のプラン?」
『Yes. We would like to wait until the reinforcements come.』
「そんなことをしている時間はない!」
『It is possibility that we keep this battle line』
「その確率は?」
『…………About 50%. But, I have――』
「もういい!!」
 フェイトの叫びにバルディッシュは押し黙る。地上では大砲の音まで響き始め、戦場が炎に包まれ始める。
「とにかく、敵の数を少しでも減らさないと、バルディッシュ!」
『――Sorry,my master』
 しかしフェイトの掛け声に応じたのは謝罪の言葉だった。バルディッシュは、呟くような小さな声でそう言うと、フェイトの手から離れた。
「な!? バルディッシュ!?」
『I can't follow you』
 漆黒の斧は、そうつぶやくと夜空へと消えていく。
 斧を失くしたフェイトはショックのあまりそのまま地上へと落下していった。
「バルディッシュ――――!!」
 そう、愛機の名を叫びながら……。

      ◇

「――――――はっ!?」
 フェイトはベッドから起き上がると、先ほど見た夢を思い出す。つい先日、とうとう愛機に愛想をつかされ、逃げられてしまった時のことを。
「……大丈夫ですか、フェイト様? 随分とうなされていましたけど」
「うん……ん? な、なのは!?」
 フェイトはなのはと普通に会話していたことに違和感を覚え隣を見る。するとなのはが隣で寝ていて、驚きのあまりベッドから跳ね起きた。一方のなのはは、「はい、おはようございます」と呑気に応えてくる。何が楽しいのか、ニコニコと満面の笑顔を浮かべている。
「ど、どうしてなのはが隣で寝てるの?」
「え? フェイト様が誘ってくださったんじゃないですか、寂しいだろうからって」
(全く覚えていない……)
 フェイトは昨夜の記憶を遡ってみるが、覚えている事といえば、なのはとの他愛もない会話と美味しかった夕食ぐらいだ。まさかとは思うが、手を出していたりしないだろうか、そう考えるとフェイトの背中に冷や汗が流れ始める。
「昨日、あんなに熱い夜を過ごしたのに、忘れてしまったんですね」
 フェイトの不安が的中したとばかりになのはが言葉を重ねてくる。
「ご、ごご、ごめん! そんなつもりは、いやその……」
 フェイトはしどろもどろになりながら、必死に何かを話そうとするが、全く言葉にならなかった。
 そんなフェイトの様子に、なのはは我慢できないといった感じで吹き出した。
「あはは、冗談ですよ、フェイト様♪」
「へ? 冗談?」
「はい。昨日、一緒に寝てくださいと私の方からお願いしたのです。随分とぼんやりされていたので、もしかしたらと思っていましたが、やっぱり覚えてなかったんですね。あの後、すぐ眠られてたので、何もしてませんよ」
「そ、そうなんだ」
 思わず安堵のため息をついているフェイトを見て、いたずらが上手くいったとなのははにんまりした。それで次の一言を言う決心がついたのかもしれない。
「……もう今日出られるんですよね?」
「そうだね、ここに長居する理由もないし、王都へ急いで戻らないといけないからね」
 フェイトはそう言って申し訳なさそうに肩をすくめた。
「朝ごはんぐらいは、食べて行ってください、一人じゃ寂しいですし……」
 なのはの寂しそうな笑みにフェイトは気づいているのか、いないのか「ありがとう」の一言だけ返すと、いそいそと準備を始めた。なのははその後ろ姿を呆然と眺めることしかできなかった。

      ◇

 フェイトは馬に跨り荒野を駆ける。
 なのはとの朝食も楽しいものだったな、と先ほどのことを思い返すと、もう少しあの村にお邪魔になっても良かったなと思ってしまう。もちろん、フェイトには次の任務が待っておりそんなことは許されないのだが、それでもあの村を出る前に見た少女の瞳を思い出すたび、心の端が引っ張られるような気分になった。
 フェイトはぶんぶんと未練を振り払うように頭を振る。交易があるわけでもないあの村に行くことはおそらく二度とないだろう。だからそれでよかったのだ、そう自分に言い聞かせる。
 バルディッシュなら何か言っただろうか、フェイトはまたバルディッシュと喧嘩別れしてしまった任務のことを思い出す。結局あの後程なくして援軍が到着し、最後は相手を押し切って勝利をした。バルディッシュの忠告を最初から聞いておけば何の問題もなかったのだ。それなのにむやみに慌て、意地をはった結果がこれだ、とフェイトは自分が跨っている馬を見る。バルディッシュはあの日以来行方知れずで、いまだどこに居るのかもわかっていなかった。
 あの寡黙な相棒があれほど口を挟んだことなど、あれが初めてだった。そう思う度フェイトは後悔の波に潰されそうになった。
 しばらく進むと、はるか遠方に馬に乗った一団がうっすらと見え、馬を一度止める。数は二十から三十ぐらいだろうか、フェイトが来た方角へと向かっているようだった。一瞬気になったが、その一団が掲げる旗は王国のものだったので、騎士団か何かだろうと深くは考えず、再び馬を走らせた。
 しかし、王都へ向かう途中で気になる言葉を耳にした。「最近、この辺に盗賊どもが群れを作って、村々を襲っている」と。また、次に狙われるのはあの村ではないか、この村ではないか、と通りかかる人々が不安そうに言う中に、フェイトが訪れた村もあった。
 それを聞いたフェイトは急いで村へ引き返す。
 先ほど見かけたあの群団はもしかしたら騎士団ではなく盗賊なのではないか、そんな不安が胸によぎった。

      ◇

 村に戻ると、広場に人だかりができていた。その中に栗毛のポニーテール姿の少女を見つけ、フェイトはひとまずの安堵を覚える。
 しかし、彼女の様子がおかしいことに気づくと、フェイトの心臓が早鐘を鳴らした。
「なのは!」
 急いで駆け寄ると、その少女の名を大声で呼ぶ。ここに居ないはずの人間に突然名前を呼ばれたせいか、彼女はびくっと肩を大きく震わせた。両手で覆っていた顔を上げ、フェイトを見上げる。
「フェイト様!? ど、どうしてお戻りに?」
「ちょっと町で嫌な噂を聞いて、急いで戻ってきたんだ……けど、遅かったようだ」
 フェイトは馬を降りて駆け足に言うと、周りを見渡し落胆した。家や村に大きな損害はなさそうだが、どの家も戸が破壊され、一通り荒らされた形跡があった。
「フェイト様! お願いです、私の親友を助けてください!!」
 なのははフェイトの腕をつかむと、必死に懇願してきた。その瞳には大粒の涙が流れていて、腕を掴む手は小さく震えていた。
「……なのは、落ち着いて。まず、何があったのかゆっくり話して」
 フェイトはなのはの手を取ると、目をしっかり見て落ち着いた声で話す。それだけで少し落ち着いたのか、なのははぽつりぽつりと先ほどまでの出来事を話し始めた。
 どうやら一時間ほど前に盗賊の群勢が押し寄せてきたらしい。突然の出来事に、村人のみんなもただただ慌てふためいて村の奥へと逃げていったという。
 けれど、この村一の剣士が駆けつけ盗賊どもと交戦、そのおかげで被害は村の入り口に近い家々だけだったようだ。しかし、その時の戦闘で村長の娘であるアリサという者が攫われてしまったらしく、それをその剣士が追いかけて行ってしまったとのことだった。
「あんな大勢の敵に突っ込んでいったら、たとえすずかちゃんでも……」
 なのははその先を想像したのか、なのははそこまで言うと真っ青な顔をして俯く。すずかというのが剣士の名前だろう。
「お願いします、フェイト様! 私の親友のアリサちゃんとすずかちゃんを助けてください!!」
 なのはの後で村人たちもフェイトに懇願の眼差しを向ける。村長の娘と村一番の剣士。どちらも抜けては村の存続も危ぶまれるのは明らかだ。よく見ると村人たちの手には鍬や鎌があり、これから二人を追いかける所だったのだろうことにフェイトは遅れて気づく。
 しかし、村人たちの格好はあまりにも脆弱で、もし戦闘になればかなりの被害が予想された。それでも尚立ち向かうとはよほどその二人は人望が厚いのだろう。
「分かった、なのは」
 フェイトはそう力強く応えると、村人たちにはまた盗賊が襲ってくるかもしれないから村の防御を固めてほしいとお願いをする。大人数で盗賊のアジトに向かったところでただ敵を煽るだけで大きな効果はないだろう。むしろフェイトとしては村人を守りながら戦うことになるので、二人の救出が難しくなるだけだった。
 村長らしき人は、そんなフェイトの考えを汲んだのか、村人たちに村に残って準備を進めるように指示をしていた。自分の娘だから一番に向かいたいのだろうが、そんな気持ちをぐっと我慢しているようにも見える。
 ふと村長と目が合うと、村長はフェイトに向かって無言で深々と頭を下げる。その姿だけで、彼の胸中を察するには十分だった。
 フェイトは強く頷くと馬に跨った。
「なのは、盗賊とすずかはどっちの方角に向かったか、わかる?」
「はい! 私も付いて道案内します!」
「いや、危ないから、なのはは方角だけ教えて家で待ってて」
「嫌です!」
「へ? ……いやいや、女の子が行くような所じゃないから」
「大丈夫です! 私だって、自分の身ぐらい守れますから!」
「大丈夫って……」
 フェイトは困り顔で村長の顔を見る。
「その娘を連れて行ってやってください。二人とは大の親友で……それに、護身術程度なら身に着けておりますので」
 うら若き乙女がこんな平和な村でなぜ護身術を身に着けているのか少し気になったが、村長にまでお願いされてしまった以上、フェイトは仕方なく「分かりました」と了承すると、気合十分といった表情のなのはへ後に乗るように言う。
「すずかちゃんはここから南東の方向へ向かっていきました」
 なのはは馬に跨るとまっすぐ先を見据えて行き先を伝える。
「分かった、しっかり掴まってて!」
 そう言うと、フェイトは馬を走らせていく。腰に掴まるなのはの手が少し震えていることに気づいたが、気づかないふりをしてまっすぐ南西の荒野へ駆けて行った。

      ◇

「アリサちゃん!」
「すずか! きちゃだめ、今すぐ戻りなさい!! むぐっ……」
「アリサちゃん!!」
 すずかは賊に口を塞がれた親友の名を叫びながら手に持つ剣を握りしめる。
「へっへっへ、随分とウチの仲間をヤってくれたなぁ、嬢ちゃん……だが、それもここまでだ」
 すずかの周りを数十人の賊が取り囲んでいる。足元には先ほどすずかに切り伏せられた賊数人が倒れていた。勢いよく賊のアジトに乗り込んだすずかだったが、すぐにアリサを人質として突き立てられ、身動きがとれなくなってしまった。少し考えれば分かりそうなものなのに、思った以上に頭に血が上っていたのだと、今更になって気づかされる。
 人質のアリサは体をロープで縛られ、首筋に剣を突き立てられている。その瞳がアンタははやく逃げろと告げてきていて、すずかは益々腹立たしくなる。今一番身を案じなければならないのはアリサだというのに……。すずかは自分の愚かな行動を呪うように柄を握りしめる。
「くっくっく、二人とも、よく見りゃあ、なかなかの上玉じゃねぇか……こりゃあ、たっぷり愉しませてもらわないとなぁ」
 下衆な言葉と共に舐めまわすような目でこちらを見る賊どもに、すずかは腸が煮えくり返りそうになる。
「……やれやれ、全く下品な」
「ぐあぁぁぁ!!」
 すると突然、ピュウという風切り音が聞こえたと思った瞬間、アリサの口を塞いでいた賊が雷に打たれ倒れた。すずかが背後から聞こえた声の方へと振り向くと、そこには金髪の長い髪をなびかせる騎士が立っていた。
「誰だ、てめえは!?」
「通りすがりの騎士だよ」
 その騎士がそう答えると、賊は一斉に剣を抜き警戒態勢を取った。
「へっ、この数相手に何ができる!」
「……ファイヤ!」
 その騎士はにじり寄る賊どもをぐるりと見渡すとおもむろにその手に持つ剣を前に突き出す。すると、騎士の周囲に浮かんでいた光球が鎖から解き放たれた獣のような速さで飛んで賊に当たる。その光球が当たった賊は皆雷に打たれたように叫びばたばたと倒れていった。一瞬あっけにとられたが、すずかはその隙を見逃さずアリサを両手で掬い上げその場から離れる。
「貴様っ!!」
 賊のリーダーらしき人物が喚く。しかし、フェイトはお構いなしに剣を手に、次々と敵を切り伏せていく。
「あなたはその娘を」
 すずかの前を通り過ぎるときにそれだけ伝えると、すずかは頷き返しアリサを安全な場所に抱えて行ってしまった。すずかが広間を出ていくのを横目で確認して、フェイトは呪文を唱え始める。すでに賊のリーダーを寸での所まで追いつめている。
「フォトンランサー、セット! ――ファイヤ!」
 トドメとばかりに放った魔法は、しかしギリギリ躱されてしまった。素早さだけはあるようだ。
 フェイトは再び剣を握る手に力を籠めると、一気に距離を縮めて剣を振り下ろすが、今度は味方を盾にすることで防がれてしまった。その卑劣な手段に、フェイトは舌打ちをしたくなる気持ちをぐっと堪える。
「そこまでだぁー!!」
 再度敵のリーダーに詰め寄ろうとしていたところで横やりが入った。声の方を向いたフェイトは、なのはが敵に捕らえられている姿を見て目を剥く。
 なのはは敵に口を塞がれていながらも、「むー! むー!」とこちらに何かを伝えようともがいていた。
 突然の出来事に押し黙ってしまうフェイト、対照的に賊のリーダーが高笑いをする。
「はーっはっは! これで一気に形成逆転だな、おっと、動くなよ。その口が少しでも動いたら、この女の命はねえぞ!! 魔法が使えなければ、こっちのもんだ……だが、念には念をというしな、おい!」
 リーダーは広間の奥で弓を構えている賊に目くばせをすると、にやにやとした表情を浮かべた。すっかり勝利を確信しているのだろう。それもそのはずだ、五人もの人間が弓矢に手をかけ、その矢じりをフェイトに向けて弓を構えているのだ。一斉に放てば、一介の騎士程度ではひとたまりもあるまい。
 フェイトは頬を流れる冷や汗を感じつつも、身動きを取ることもできず、ただ状況を見続けることしかできなかった。
「死ねええぇぇぇ!!」
 リーダーの発声で、弓矢が一斉に放たれる。
 びゅっという風切り音と共に迫りくる矢、逃げ場はない。

 ――終わったと思った直後、フェイトの視界に高速で移動する影が見えた。
 
 カン、カカンという金属音とともにその影は矢を全て床に叩きつけていた。
 その影は斧の形をしており、その身は柄も刃もすべて真っ黒で、そして宙に浮いていた。
「バルディッシュ!」
 周りがあっけにとられている中、フェイトただ一人だけがそのものの名を呼ぶ。ずっと一緒にいて、一度も離れたことがなかった愛機が今、目の前にいる。フェイトは無言で佇む愛機の姿に瞳を潤ませた。
 バルディッシュはス―っとフェイトに近づくとぴたりと止まった。その柄を掴むことを許すと言わんばかりにフェイトの目の前で止まる愛機に、フェイトは躊躇いながらもその柄を掴む。慣れ親しんだ感触に、言葉にならない安心感に、泣きそうになった。
「そ、そんな斧きれ一つで何ができる!! ……お前たち、もっと矢だ!!!」
 本能的に何か感じているのかもしれないなと、敵のリーダーが震える声で必死に部下に命令している様子を見てフェイトは直観的にそう思う。部下を鼓舞しながらも、自分は少しずつ後退している所を見ると、その直感もあながち間違いではあるまい。
 フェイトはバルディッシュを掲げ、ブンと振り下ろす。
 ただのそれだけで、何もない空間から電気の球が生成されて賊めがけて飛んでいき、無残な悲鳴が響き渡った。
「……無詠唱魔法……だと……」
 ガチャリという無機質な音を立てて、フェイトは再度バルディッシュを構えなおすと、驚きのあまり口を閉じるのを忘れている敵のリーダーを睨みつけた。
「――はっ! そういえば聞いたことがある……王国最強の騎士の話を……詠唱せずに魔法を使え、斧の一撃は岩をも軽く砕いてしまうという、金髪の騎士の話を……まさか」
「フェイト様!」
 フェイトの魔法により敵の束縛を逃れたなのはが、その名を叫びながらフェイトの元へと駆け寄ってくる。フェイトは腕で守るようになのはを自分の背中のほうへと回した。
「――フェイト、だと!? じゃあお前がフェイト・テスタロッサだっていうのかよ!!?」
 驚愕する敵のリーダーにフェイトは向き直り、ガンとバルディッシュを地面に突き立てる。
「私は、聖火騎士団団長、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン。……お前たちが言う、王国最強の騎士だ!」
 フェイトが自分の名を名乗ると同時にバルディッシュを握り直し、目に見えない速さで敵リーダーの正面にまで距離を縮めると、最後は斧の一撃で敵を沈めた。
 これをもって、この騒動は終結した。
「――ありがとう、バルディッシュ」
『Yes,sir』
 心からの感謝の言葉。しかし、愛機からの返事は喧嘩別れする前と変わらないそっけないもので、思わず目を丸くする。
 ああ、でも、だからこそ心地いい。フェイトは愛機を握りしめ、そう思うのだった。

      ◇

「色々とありがとうございました」
 アリサはフェイトに対し深々と頭を下げる。その横にはすずか、そしてそ後ろには村人たちが一様に頭を下げていた。
「皆さん、頭を上げて下さい。私はただ騎士として当然のことをしたまでです」
 フェイトは馬上からそう促すと、みな頭を上げる。村人たちの中になのはの姿を見つけると、向こうもそれに気づいたようで必然的に目が合う。
「また何か困ったことがあったら王国にお知らせください、駆けつけてきますので」
 フェイトはアリサに向き直ると、それだけを伝える。
「ええ、ありがとうございます」
 アリサがそう答えると、隣にいるすずかが少し不機嫌そうな表情に変わったことに気づいて、フェイトは「まぁ、そちらの剣士がいれば、大抵のことは解決できるのでしょうが」と一言加えた。
 フェイトが「それでは」と言って立ち去ろうとすると、
「あの!」
 と、後ろのほうから声が聞こえて、フェイトは馬を止めた。
 声の主は、もう顔を見なくても分かるようになってしまった。
「フェイト様、色々とありがとうございました」
「うん、なのはも無事でよかった……これからはあんな無茶しちゃだめだよ」
「はい……フェイト様も無理をなさらず、お元気で」
「うん、なのはもね」
 なのはは祈るように手を合わせ涙ぐむ瞳でフェイトを見つめる。泣くまいと必死で堪えている姿は本当に健気なものだった。
 フェイトは名残り惜しそうに笑うと、くるりと反転して手綱を握る。
「あ! そういえば」
 すると、今度はアリサが何かを思いついたように声をあげた。フェイトとなのはは目を丸くしてアリサを見る。
「ちょうど、王都で用事があるんだけど、私はこの村でやることがあって行けないのよね~……誰か言ってくれないかなぁ~」
 わざとらしい声で、ちらりとなのはを見る。その様子にすずかが横でクスクスと笑っている。
 なのはもアリサの意図がわかったのか、頬をわずかに赤らめると「私が行こうか?」とおずおずと手を挙げた。
「騎士様、早速お願いなのですが」
「あ、うん……」
 流石のフェイトも続く言葉が何か、想像はつくが一応返事をする。
「この娘を王都まで一緒に連れて行ってやってくれませんか? おっちょこちょいな性格なので一人だと心配で……」
「アリサちゃん!?」
 アリサの言い草に意義を唱えるようになのはが叫ぶが、アリサが本当のことでしょ? と言わんばかりになのはを流し見すると、なのはも思い当たる節があるのか何も言い返せずに小さくなってしまった。その様子がおかしくて、可愛くて、フェイトは思わずくすりと笑う。
「ええ、分かりました。きちんと王都までお届けします」
 フェイトは力強く応えると「はい、なのは」と言ってなのはへ手を伸ばす。なのはがぽーっとした表情のままその手を掴めば、フェイトはぐいっと引っ張って、なのはを後へと乗せ上げた。
「あ、なのは! 王都へ着いたらこの手紙を執政のエイミィ様へ渡して」
 アリサは胸元から一通の手紙を取り出すとそれをなのはに手渡す。
「大事な書類だから、頼んだわよ!」
 ぼーっとするなのはにそう声をかけて、叱咤するようにその背をばんと叩けば、流石のなのはも背筋を伸ばして「はい」と返事をした。
「では騎士様、お願いします」
 アリサがそう言って再度頭を軽く下げると、フェイトは「ええ、では」と手短に返事をして馬を走らせた。
 地平線の果てまで荒野が広がっているだけのすっかり見飽きた景色。けれど、王都までの道のりにこれほどワクワクしたことがあっただろうか、フェイトはそんなことを思いながら、後ろでフェイトの胴にしがみついているなのはを見た。栗毛のポニーテールが日に照らされてつややかに泳いでいる。ふと目が合うと、思わずにやけてしまいそうになる自分に、しっかりしろと言い聞かせ、前を向きなおして王都への道のりを急ぐのだった。
 
 
(おわり)
 
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