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【強さについて思ふこと。】

みなさま、お久しぶりです。タイヤキです。

なかなか時間が作れず、久しぶりに小説を書き始めたのが12月初め。
そこからコツコツと書いて、ようやく形になりました。その間約3ヶ月、非常に長い(笑)。
これからも、スローペースな感じでちょこちょこと書けていいなぁ~、と思ってます。

ただ、記憶力が年々低下しているせいか、各作中で出てくるセリフなんかが思い出せなくなってきていてちょっと大変です(汗)
今回も何か記憶違いしている箇所があるかもしれません。。。あったらすみません。

まぁ何はともあれ、以下からどうぞ。
(※微百合程度ですが一応百合注意)
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【強さについて思ふこと。】
 
     ◇◆◇

「────Balwisyall nescell gungnir tron」
 響はヘリコプターから飛び降りて聖遺物の欠片であるペンダントを握りしめる。眼下には大量のノイズが蠢いているが、いつものことだと群衆のど真ん中めがけて落下する。ドンという衝撃音の後、少し遅れてコンクリートでできた道路がひび割れ盛り上がり、響の着地と同時に体当たりをしてきたノイズ達は突然できたコンクリートの壁に行く手を阻まれてしまう。
「ガングニール奏者、ノイズ発現場所に到着しました」
「うむ。……今日出動できるのは響君だけだ。くれぐれも相手に寝首をかかれないよう気をつけろ!」
 ヘッドホン越しに聞こえた師匠である風鳴弦十郎の声に響はぐっと気を引き締める。
「はい、師匠!」
 響はそう応えると、眼前のノイズに向かって駆け出した――――。
 
      ◇
 
 世界がユグドラシルの脅威に晒された事件から二年。
 あの時、確かに世界は一つになったけれど、それは一時的なもので未だノイズの脅威は消えることはなく、常に私たち人類の影に潜み続けている。けれど、それでも少しずつ世界は良くなっている、そう立花響は信じている。
 この数年の間でS.O.N.G.も大きく変わった。
 シンフォギアチーム最年長でみんなの姉的存在であるマリアは風鳴翼のボディーガード兼アーティストとして全世界を股に掛けて活躍していて、つい先日放送されたニュースでは、翼と一緒にライブをしている映像が流れ、昔と変わらないそのハツラツとした表情に響は少し目を細めてテレビを見ていた。
 みんなの先輩だった翼は、父の想いを胸に今も歌い続けている。その歌唱力はますます磨きがかかり、世界で五本の指に入る歌姫だと、歌番組などで言われることが多くなり、世間の一般的な認識になりつつあるようだ。
 その人気は凄まじく、どの国の、どの地域であってもチケットは即完売。昔は友人枠的なものでチケットを入手できていた響でさえ、今では入手できないことが増え、ここ数回日本でのライブに行けていない。しかし、今度はライブビューイングも行うと公式発表があり、響は密かに未来と一緒に観に行こうと考えていたりする。
 そしてクリスは高校卒業後、両親の夢を追いかけるように世界に飛び出していった。両親との想い出の歌を胸に、世界中の人々を平和にするんだと飛び出していった彼女は、今南米で奮闘している。あえて両親を失った場所に立ち向かう姿は彼女らしいなと思うけれど、危険と隣り合わせな事に変わりなく、心配したみんな(特に師匠)の計らいで翼の護衛役であった小川が彼女に付いていくことになった。時々送られてくるメッセージには、現地の子供たちと手を繋いで楽しそうに笑っているクリスの姿があって、響はその写真を見る度に胸が詰まりそうになるのだ。
 チームの妹分である調と切歌は今年高校を卒業予定だ。今は大学進学に向けて猛勉強中のため、出動は極力抑えられることになっている。実際の所は彼女たちの進学を第一に考える大人たちばかりなので、この一年、あの二人が現場に呼ばれることはおそらくないだろう。
 ちなみに、二人の当面の目標は未来らしい。そこは兄貴分の私であるべきでは、と響としては複雑な思いだが、相手が未来では仕方がない。未来は大学進学と同時にプロのピアニストになってしまった。元々ピアノの腕は人並み外れた才能があったと薄々気づいていたけれど、聞く人が聞けば、すぐに分かるらしい。進学後すぐに学校の先生に見染られて、あっという間にプロに転向してしまった。しかも最近テレビで取り上げられ、素晴らしいピアノの腕前と大和撫子のような立ち振る舞いに、若い女性の間で密かに人気になっているらしい。
 本日はクラシックコンサートの開催日で、今ごろリハーサルをしているはずだ。響としてはノイズを軽く蹴散らして、そのままコンサート会場へ直行するんだと内心意気込んでいる。
 そんなこんなで、S.O.N.G.内ですぐに現場に向かうことができるメンバーは、今や響一人だけという少し寂しい状況に変わってきていた。それでも、向かう方向は違えどみんな夢や目標に向かって歩いているのだと思うと、不思議と皆に背中を押されているような気分になる。
 ――――今日も頑張ろう。
 
      ◇
 
 響が最後の一体を屠り、ぐるりと周囲を見渡すともう立っているノイズは居なかった。
『ノイズの反応、完全に消失!』
 イヤホン越しに聞こえる藤尭の声に、響はふぅっと一つ息を吐いた。先ほどまであった肌にヒリつくような緊張感はすっかり失せている。響は纏っていたギアを解除すると、改めて周囲を見渡す。調査員の人達が来るまでの間に、少しでも被害状況を調べて役に立とうと歩き出す。けれど、所詮素人の響には少々荷が重かったようで、一体何から調べていけばいいのか見当もつかなかった。せめて恰好だけでもとキョロキョロとただ顔を振って歩き続けた。
 それでもしばらくウロウロしながら周囲を見渡すと、人が倒れていることに気づき、響は慌てて駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
「どうした、響君!」
「師匠、人です! 男の人が一人倒れています!」
「なんだと!? 分かった、医療班をすぐ向かわせる」
「お願いします! ……もしもし、大丈夫ですか? 分かりますか?」
 響はうつ伏せで倒れている男の人の肩をつかんで揺さぶる。見たところ外傷はない。ぐいっと肩から体を回させて仰向けの態勢に変えると、呼吸を確認するために響は顔を近づけた。
「――――――ええ、大丈夫ですよ」
 すると囁くような低い声が聞こえ、響ははっと顔を上げる。次の瞬間、顔面に岩でもぶつけられたような衝撃を受け、響は大きく横に吹き飛ばされた。
「ぐはぁっ!!」
 響は落下の衝撃で呻き声を上げる。先ほどの衝撃で口を切ったらしく、口の中がヌルヌルとして血の味がしている。何が起きたのか分からず、響は痛む体を起こして、先ほどまで男が倒れていた場所を見て驚愕した。
 倒れていたはずの男は俯き加減に立っていてだらりと垂らした手にはギラリと光る刀がある。
「くくく、ずっとこの日を待っていた――――神をも倒した最強を倒す日を!!」
 男は突然そう叫ぶと、血走った眼で響を睨んだまま駆けてくる。その速さは100メートル走のオリンピック選手をも凌ぐ速さで、飛翔ノイズが体当たりをしてきた時と同じか、それよりも更に速い。
 一気に間合いを詰められ、横なぎに振られた刀を響はバク転で躱す。刀を振る動作に躊躇いなど微塵も感じさせない男に、響は焦った。
「なぜ、突然襲ってくるの?」
 そう声を上げても男は聞く耳持たない様子で、もう一度詰め寄ってきて二度、三度と刀を振るってきた。響は距離をとるように大きく後ろへ下がってその攻撃を躱す。
「うわ!? っと、一体何なんですか!?」
「何、だと? ……クックック、笑わせる」
 響の質問に男はそれだけ答えると昏く笑い刀を握りなおす。チャッという鍔鳴り音が響くと同時に大きくジャンプしてきて、響はぎょっと目を剥く。
 人相手にギアを纏うわけにはいかない……それが師匠のように超人的な力を持っていても。そう咄嗟に判断した響は相手に距離を詰められないように大きく飛び退く。しかし、どれほど相手の攻撃を躱し、距離をとっても全くあきらめてくれる様子はなく、鋭い眼光でこちらを睨み続ける相手に、これほどの恨みを買った覚えはないはずだけど、と響は戸惑った。
 けれど、これだけ執着されるには何か理由があるはずで、私はそれを知りたい、と響はもう一度問いかける。
「一体、どうして私を狙うの? もしも私と貴方がどこかで会ったことがあって、私が何かをしたというのなら、覚えていないことも含めて謝るよ、だからその刀を収めて、話を聞かせて!」
 響は胸の想いを精いっぱいに言葉にする。相手に通じてほしい、その一心で。
「――っは! 驚くほど温い奴だな。こんな奴が神に勝ったとは、ちょっと信じられねぇな」
 しかし、返ってきたのは辛辣な言葉だった。その声色には明らかに侮蔑の色が混じっていて、かつてパヴァリア光明結社のトップに君臨し完全なる者だと自称していたアダムが人間たちについて話していた様子がふと響の脳裏をよぎる。自分以外を認めず、他人をどこまでも見下しているような瞳に、響の瞳は揺れる。
「神に、勝った……?」
「何を驚いている。幾多の神を屠り、最強に最も近かった神シェム・ハ、その最強をお前は倒したのだろう? ならその力を見せてみろ!!」
 男は叫ぶと再び駆け出す。日頃から鍛錬を行う響の目でさえその姿を追うことが難しいほどの高速移動で詰め寄ってくる。
「違う!」
 しかし、日々の鍛錬の賜物なのだろう。それでも響は地面を蹴って完璧なタイミングで振り下ろされる刀を避ける。まるで予行練習でもしていたかのような淀みのない動きで振り上げられた二撃目も躱す。
「……私はシェム・ハを倒したんじゃない、ただ未来を……大切な人を助けただけだ。私のギアは過去と未来を繋いで束ねるためのものなんだ! 決して誰かを倒すためのものじゃない!」
「面白い冗談だ! そんな狂気じみた力、人を、モノを壊すため以外に何に使えるというのか!」
 男は、響の言葉を真っ向から否定して歪んだ笑みを浮かべる。こんな小娘が英雄として奉られていたなんて、と男は愉快な気分になってくる。待ち望んでいた最強の二文字がすぐ目の前に転がっている、そう確信するに足る状況が広がっているのだ、笑うなという方が無理な話なのだ。
 男は刀をさらに強く握り、勝利を確信した瞳で響を睨みつけ続けていた。
 
      ◇
 
 俺に名前はない。一応、仕事ではジンと名乗っている……コードネームみたいなものだ。刃を武器にしているからという理由だけで何のひねりもない。
 親に捨てられたらしい俺は、物心ついた頃には盗みを働いて生きていた。盗みだけでは生活に限界が生じ、殺しもやるようになったのは十五ぐらいの頃だろうか……正確な年齢は分からない。
 殺しをやるようになってから、要人の暗殺ややくざの親分の護衛、紛争地での戦闘など一気に仕事の幅が増えた。世界各地を目まぐるしく巡るようになり、食うことの心配は無くなったが、いつ何処で誰に狙われるとも分からなくなり、心の安寧も無くなってしまった。
 そんな生活が嫌になってきた頃、ぼんやりテレビを見ていた俺は、ある少女がインタビューを受けている映像に目を奪われた。世界を救った英雄、全世界が乗っ取られかけたあの事件を両の拳で切り開いたのだと、インタビューアが話している。その隣で照れ臭そうに笑っている高校生ぐらいの少女を見て、俺は閃いたのだ。――――こいつを殺れば、俺に降りかかる火の粉も多少減るに違いない、と。
 執拗に命を狙われるのは、こいつ程度なら殺れると相手に思われているからに他ならない。そんな奴らなら、”最強”の称号を持つ者には手を出さなくなるはずだ。
 そう考えた俺は、さっそく英雄を殺す方法を模索し始めたのだった。
 
      ◇
 
「いい加減に死ね――最強!」
 ジンが渾身の力を込めて振り下ろした刀が虚しく空を切る。逃げ回る相手に何度も距離を詰めて切り掛かるものの、中々捉えられないままでいたジンは苛立ち始めていた。相手もこちらを攻撃してくる様子はなく、どこか惚けたことをのたまうだけで、こんなものが最強だったとはと愕然とした思いを抱く。こんなもの俺からしたらただの二十歳そこそこの女子大生と何ら変わらないではないか、とジンは今まで潜り抜けてきた数々の死闘と比較し難易度が低い相手なのかを誰かに説いて回りたい気分になった。
 こんな奴が最強を名乗り、のうのうと生きてきたのだと思うと胸糞悪い気分になる。
「どうして、そんなに最強にこだわるの?」
「――どうして、だと?」
 ついには世迷言まで言い出してくる相手。
「世界最強、月をも砕いてみせた英雄、それに神をも殺した拳。それだけの称号があれば、今まで随分と美味しい思いをしてきたんだろう?」
 振り下ろした刀をゆらりと肩に乗せニヒルな笑みを浮かべたジンは相手の応答を待つでもなく続ける。
「今までの発言で貴様がどれほど温い生き方をしてきたのかよぉ~く分かった……だが、もう十分堪能しただろう? その称号は貴様にはあまりにも勿体ないからな、俺が頂いてやろう……ありがたく思え!!」
 ジンはさらにスピードを上げて響に襲い掛かる。それはずっと隠していた特殊な走法で、片方の足で地面を強く踏みしめ、生じる大地の力を収束させもう片方の足で集めた力を開放することで通常の3倍の速度で移動が可能なのだ。
 この走法は昔八極拳の使い手達と戦った際、奴らがやたらと大地の力を使っているのだと地面を踏みしめて自慢していたのを見て、閃いたものだ。奴らはそんな発想があったとは、と言いながら死んでいったが。
 その後改良を加え、静止状態から超加速するに至ったこの走法は、どんなに強敵であっても姿を見失ってしまうものらしい。呆然と立ち尽くす敵を何度となく、この刃で切り伏せてきた。
 今回もそうなると確信を抱いていたジンは、予想どおり呆けている響の首元へと刀を振り切る。しかし、その刃は空を切った。
 ――避けられた!?
 響を見ると、しゃがんだ体制のまま右の拳をぐっと握り、今にも打ち出そうとしている。ジンはまずいと思い、慌てて柄を顔の前に持ってくると、同時にガツンという鉄球が当たったような衝撃を受け後方へと吹き飛ばされた。
「……私の拳は戦うためのものじゃない」
 ぽつりと呟かれた言葉に、ジンはしつこいといった感じでため息をつく。
「何を世迷言を、今まさに貴様の振るった拳で、俺は吹き飛ばされたではないか。こんなもの、一般人に当たれば怪我では済まないだろう。貴様の拳は、俺の刀同様に十分凶器だ!」
 いらただし気に吐き捨てる。この期に及んで自分が聖人だとでも言うつもりなのだろうか、とジンは響を睨みつけた。
「……この拳は相手を傷つけるものではなく、相手と手を繋ぐために、相手を護るためにある……私は、そう言ってくれた大切な人たちの言葉を信じる!」
「だとしても! その手で月を砕き、神を殴ってきたのだろう! 先ほどの俺のように!!」
「確かに、私の拳は何かを誰かを傷つけてこなかったわけじゃない。それでも、人と人は繋がれるのだと信じ手を伸ばす! 何度でも!!」
 響はゆっくり息を吐くと、目を閉じて胸の歌を衝動のままに口にした。
「────Balwisyall nescell gungnir tron」
 メロディが流れている、私の胸の歌だ。その歌が諦めるな、立ち止まるなと自分に語りかけてくる。目を閉じると見える未来の柔らかい笑顔が、サンジェルマンの強い意志を秘めた瞳が、大丈夫だと背中を押してくれる。だから、きっと、上手くいく!
『立花響、ガングニールを装着……まさか、フォニックゲインなおも増大中』
 友里あおいはオペレータ席で響のバイタルが表示されたモニターを見ながら、驚愕の声を上げる。フォニックゲインの数値がすでに一人で出せる値を優に超えている。
『……信じられません、このフォニックゲインの量ならエクスドライブの起動も可能ですよ!』
 藤堯までもその異様な事態に声を荒げた。
 弦十郎は二人の言葉を聞き頷くが、ただ眼前の大型モニタを静かに見ているだけだ。その瞳は不測の事態にも揺らぐことなく、弟子でもある響のことを信用し、託しているようにも見える。
「見せてあげる、あなたの言う力を――――私が託された力を!」
 そう言うと、響はゆっくりとジンに向かって歩いてきた。
 その光景にジンはカッと頭に血が上る。人を舐め過ぎたことを後悔させてやるとばかりに、近づいてきたところを容赦なく切り伏せた。しかし、ガキンという金属音が響いただけで、傷一つ付けることができていない。慌てて、二撃、三撃と刀を振るうも、鎧に弾かれ刃が通らない。
「ちっ、硬い……だが、それなら!」
 ジンは後ろに大きく飛んで響から距離をとると、ぐっと腰を落として刀を肩に背負うような恰好をとった。そして一度大きく息を吐きだすと、カッと目を見開き素早く刀を振る。
 刀は虚しく空を切ったように見えたが、ガキンと離れた所から金属音がした。響の纏うギアに何かが当たったようだ。ジンはその音を聞くとニヤリと口端を上げ、二回、三回と何度も刀を振り始める。まるでムチのようなしなやかさを感じる剣筋で、刀が虚空を通るたびにギアから衝撃音が鳴り、響の体にも小さな衝撃が伝わってくる。おそらく、刀を振ってかまいたちのようなものを発生させているのだろう。
 それでも響は意に介した様子もなく、ゆっくりとジンに向かって近づいてきた。そんな彼女の様子にジンは青筋を浮かべ、剣を振るスピードを上げていく。金属音も断続的なものから豪雨の雨音のような連続的なものに変わり始める。
 それでも響は動じない。
 次第に金属音が乾いたものから軋むような音に変わってきた。
『ギアの一部が破損し始めてきています』
 友里の言葉の通り、響のギアには細かいヒビが入り始めている。加えて頬や腕など少し切っている箇所もあるようで、モニターが示すバイタル情報にも少しずつ変化が見られ始めた。
 それでもなお響は動じる様子なく、悠然とした歩幅で男に向かって歩き続けている。
「この化け物が……!」
 どうやらこの攻撃をしている間は動き回れないようで、ジンは苛ただし気にセリフを吐き捨てたが、その場に踏みとどまり刀を振るい続けている。うおおおという咆哮と共にその剣撃の威力をさらに増していく。
 響はジンまであと二メートルほどの所まで近づくと、ぐっと腰を屈めた。そこまでくると響のギアは欠損箇所だらで、全身に至ってはすでに血だらけになっている。それでも彼女の瞳は曇らない。
「うおおおぉぉぉぉ!!」
「はあああぁぁぁぁ!!」
 響とジンの咆哮が重なる。
 ジンの剣戟がさらに加速していく中、響はまっすぐジンを見つめて大きく一歩大地を踏みしめた。
 ――――ドン。響の一歩は周囲数メートルにわたってコンクリートを割り、地面を大きく窪ませ、地震のような衝撃が走る。その衝撃でジンは僅かに空中に浮かされてしまう。
「はああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 続けて響の拳が大きく振り上げられた。2メートルも離れていて絶対に拳が当たることはないと分かっていても、その瞬間にジンは死を強く意識した。彼女の拳はとても巨大に見え、まるで北欧神話で神トールが手にしていたというトールハンマーを彷彿とさせた。それは人では太刀打ちできない力であり、逃げようのない死を意味しているようだった。
 そして、響の拳が振り落とされた瞬間、ジンの意識はプツリと切れてしまった。
 
      ◇
 
 響は男に向けた拳を寸前で止め、相手が気を失ったことを確認するとガクリと膝をついた。
 無線を通じて師匠が何かを言っているがよく聞き取れない。視界が狭く頭がぼんやりとしていて、どうやら血を流し過ぎたようだった。必死に立ち上がろうとするが、そうすればするほど全身から力が抜けていくのが分かる。
 ――――ああ、眠い。
 そう思った瞬間、響の意識は自分の手からするりと抜けて行ってしまった。
 ……遠くではずっと皆の声が響いていた。
 
      ◇
 
「――響!」
 小日向未来は慌てた様子で病室のドアを開けて響の名を呼んだ。
「あれ、未来? どうしたの、今日はコンサートじゃ……」
 未来の慌てぶりとは正反対に、響は病室のベッドに座って呑気に雑誌を読んでいたようだ。突然の来訪に少し驚いた後、バツが悪そうに視線が空を漂っている。
 未来は恨めしそうにじとっと響を睨むと、コンサートを早めに切り上げてきたのだと伝えて手近な椅子に腰かけた。
「そっか、ごめんね未来」
 それを聞いた響が申し訳なさそうに謝る。
「でも無事で良かった」
 未来は安堵の表情でそう伝えると、そんな大した傷ではなくすぐにでも家に帰れるのに、心配性の師匠のせいで大事になっているだけだと、響が言い訳を並べ始めた。きっと今回の戦闘のことをちゃんと説明せずに誤魔化そうとしているに違いない。少し気を許すとすぐに調子に乗る所は昔から変わらなんだから、と未来はきっと目を吊り上げた。
「……ひぃびぃきぃ~?」
 そして怒ったようにそう言えば、響はびくっと肩を震わせて子犬のようにうな垂れてしまった。
「……はい、ごめんなさい…………完全に、自業自得です」
「もう、どうしてすぐ誤魔化そうとするの!」
「ごめんなさい。未来に変な心配をかけたくなくて……」
「……そう思うなら、あんな戦い方しないで欲しいな」
 そう言って、未来はそっと響の手を両手で包む。手の甲を撫でるといつ出来たのかも分からない小さな傷がいくつもあって、響が今までどれだけ頑張って人助けをしてきたのかが分かる。その傷一つ一つを愛おしそうに未来は撫でる。
「そっか、もう知ってるんだ」
「ええ、弦十郎さんにお願いして、録画していた映像を見せてもらったの」
 未来は先ほど見た映像を思い出して、辛そうに目を伏せる。
「………………許せなかったんだ、どうしても」
「え?」
「私の知っている強さって、決して誰かを倒して得られるようなものじゃなくって、いつも夢に向かって奮闘したり、誰かの幸せを願い必死に手を差し伸べたり、自身の弱さを認めた上で強くなろうと自己研鑽をしているような、そういう本当に強い人たちを知っているから、だから人を傷つけて強さを得ようとしていたあの人が許せなかった」
「響……でもまぁ仕方ないんじゃない」
「未来?」
 同意してもらえると思っていた響は不安そうな瞳になり、未来はくすっと笑う。
「……だって、月を壊したり、世界を支配しようとした人達を倒したりしたことは本当じゃない。それだけ聞けば、弦十郎さんみたいな人だと思っちゃうもの」
「師匠は見た目はあれだけど、でもいっつも私たちのことを考えてくれる優しい人だよ」
「知ってる」
 未来はいたずらっぽい笑顔を浮かべる。
「私が言いたいのは、人を見かけや評判だけで判断する人は居るんだから、ある程度は仕方ないんじゃないかなってこと。きっと弦十郎さんはああいう見た目だから今日の響のような経験をいっぱいしてるんじゃないかな。それでも弦十郎さんは弦十郎さんのままじゃない。響も弟子ならもっと見習わないとね」
 未来は渾身の笑顔を浮かべる。
「ありがとう、未来。そうだね、もっともっと師匠の元で頑張るよ!」
「どうやら吹っ切れたようだな……途中、ちょっと気になる発言はあったがな」
「師匠!」
「弦十郎さん!」
 突然、背後から弦十郎の声が聞こえ、二人はびくっと飛び跳ねる。二人して慌てて何やら言い訳のような言葉を口にするが、支離滅裂でよく分からない内容になっている。
「別に構わんさ、見た目が厳ついのは本当のことだからな」
 弦十郎はそう言って豪快に笑う。その様子に二人も安心したように笑顔を浮かべた。
「響君は元気になったようなので、明日には退院だな」
「え? 私、今退院しても大丈夫ですけど?」
 響はきょとんとしている。よく見るとすぐ帰れるように手荷物は纏め済みだ。
「それは出来ん。今日の件をしっかり反省してもらうためにも、今日家に帰すわけにはいかんからな!」
 弦十郎は厳格さを出すように、両腕を胸の前で組んできっぱりと言う。その瞳からは絶対に譲らないという頑固さが伺えた。響もそれを察したのか、しおしおと萎れる。
「そんなぁ~……みくぅ~……」
「よしよし」
「ううう、私のひだまりぃ~……」
 未来は抱き着かれた響の頭を優しく撫でて宥める。ぎゅっと腰に両腕を回して離すまいと抱きつく響に、未来は困ったように眉根を寄せる。本当はここに居てあげたいけど、きっとそれも弦十郎さんが許さないんだろうな、未来はそう思いつつもチラリと弦十郎のほうを見上げる。未来の視線に気づいた弦十郎は、ゆっくりと首を横に振る。やはりダメなようだ。
「今回は仕方ないよ……明日、響が帰ってくるのを楽しみに待ってるから」
 早く帰ってきてね、と耳元で囁くと、響はぐわぁっと顔を上げ、目を輝かせながらまっすぐに、最速で、一直線に帰るから、と声を弾ますのだった。
 
 (おわり)
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テーマ : 戦姫絶唱シンフォギア
ジャンル : アニメ・コミック

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タイヤキ

Author:タイヤキ
サークル「前に詰めて下さい」のページです。
『魔法少女リリカルなのは』と『プリキュア』ネタが多いです。

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こじょ :表紙・挿絵担当
てんぷら:ドット絵、その他

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