【七夕の奇跡】
どうも、SS担当タイヤキです。
本日は七夕ネタとなります。
メインはいつも通り(?)「なのフェイ」となっております。
中学一年生とかって、人への依存がすごい強いイメージがあります(笑)
そして、おまけは「アリすず」です。
すずかさんマジ小悪魔(ぉ
というわけで、以下からどうぞ(※百合注意)
本日は七夕ネタとなります。
メインはいつも通り(?)「なのフェイ」となっております。
中学一年生とかって、人への依存がすごい強いイメージがあります(笑)
そして、おまけは「アリすず」です。
すずかさんマジ小悪魔(ぉ
というわけで、以下からどうぞ(※百合注意)
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【七夕の奇跡】
――七月七日。
今日は、年に一度だけ彦星様と織姫様が会う事を許されている日。
◇
「はぁ…」
今朝は長く続いていた雨もやみ、久しぶりに青空が顔を覗かせていた。しかし、空の清々しい青さもなのはの心を晴れやかなものにはしてくれなかった。
「はぁ…」
なのはは何度目かのため息をついた。
目を閉じると風になびく金糸の髪や綺麗な紅い瞳、そしてはにかんだような可愛い笑顔が鮮明に蘇る。今はもう自分の隣に居ないその娘の事を思い出す度に、なのはの心は引き裂かれそうになった。
――会いたいよ、フェイトちゃん。
フェイトが居なくなってから三ヶ月の月日が流れていた。
なのはは誰かと待ち合わせていたわけでもなく、決まってフェイトと待ち合わせに使っていた公園に来てから学校へ行くようになっていた。
◇
「おはよう、なのはちゃん」
学校へ着くと、なのはは関西特有の訛りがまじった挨拶で迎えられた。何かいい事でもあったのか、はやては少し嬉しそうな表情をしている。
「…おはよう、はやてちゃん」
しかし、なのはの元気のない様子に、はやてもつられて少しだけ気分が暗くなった。それでも何とかなのはを元気づけようと教室までの間家であった面白い出来事を話す。なのはの元気がなくなって三ヶ月、一向に良くならないなのはに、流石のはやても少し疲れが見え始めていた。
「おはよう、なのは。…何、あんたまだそんな顔してんの? いい加減にしなさいよ!」
教室に着くと、開口一番にアリサの怒り声が教室に響き渡った。なのはとはやてはその声に肩を縮める。
「…なのはちゃん…」
アリサの隣では、すずかが心配そうな顔でこちらを窺っている。なのはは、そんな二人と目を合わせられないまま挨拶を交わした。無意識の内に、末尾に謝罪の言葉が入ってしまう。
「おはよう、アリサちゃん、すずかちゃん。……ごめんね」
「ごめんね、じゃないわよ! いつまでも居ない人間の事を考えても仕方ないでしょ!! それとも何? そんなに私達と居るのつまらない!?」
「だめだよ、アリサちゃん。そんな事言っちゃ……」
アリサの発言にすずかが慌てて止めに入る。昔から、すずかに注意されるとアリサはそれ以上何も言わなくなるのだが、今回もその例に漏れなかったようだ。ふぅとため息をつくとすっかり怒りのボルテージが下がっていた。
なのはは、自分の身を案じてくれている親友達の気持ちを、どうしても受け取ることが出来ずにいた。
「ごめんね……」
そんな自身に罪悪感を覚えつつ、二人に対して再び謝る。一体何に対して謝っているのだろう…そんな考えが一瞬だけなのはの頭をよぎった。
「…ふん!」
アリサはぷいっと顔を背けるとそのまま自分の席に着く。すずかが慌ててその後を追いかけていった。きっと私のフォローをしてくれているのだろう、なのははそんな友人の優しさに感謝を覚えながら自分も席についた。
◇
三時間目は体育だった。
今日の体育ではバスケットボールをすることになっていて、なのははすずか、アリサと同じチームだった。すずかは昔から運動が得意で、今日も一人で何本もシュートを決めていた。
なのはは、易々と相手チームの選手を抜いて行くすずかを眺めながら数ヶ月前の事を思い出していた。
その日も今日と同じバスケットボールだったが、今日と違ってすずかとアリサは相手チームにいた。
(それでも負ける気がしなかったのはフェイトちゃんが一緒のチームだったから…)
フェイトとすずかの攻防は凄まじく、そこだけ切り離された空間のように別次元の戦いを見せていて、傍から見ていたなのはが二人ともプロになれるんじゃないかと思うほどだった。
(…プロの試合、見たこと無いけど。)
そう言えばあの試合は結局どちらが勝ったのか、フェイトの足を引っ張らまいと懸命にボールを追いかけていたせいか、試合の結果まで覚えていなかった。思い出すのは、綺麗な金色の髪をなびかせながら、本当に楽しそうに目をキラキラさせてボールを追っていた少女の姿ばかり。その姿はとても子供っぽくて、同時に凄く格好良かった。
「あ! なのは、危ない!!」
――ボカッ!
いつの間にか物思いに耽ってしまっていたようで、なのははボールが向かってきていることに気づかず、顔面にきつい一発をお見舞いされてしまった。
あまりの衝撃に視界が暗転していくのを感じながら、なのははドサッと前のめりに倒れてしまった。
「なのは、…ちょっと、しっかりして、なのは?」
遠くからアリサの声が聞こえた――。
◇
目を覚ますと、そこには見知らぬ天井があった。
「あ、起きたのね」
なのはは突然聞こえた声の方へ視線を動かすと、保険の先生がそこに立っていた。そこでようやく今いる場所が保健室だと気づく。
「随分よく寝ていたわね、最近眠れてなかったんじゃない?」
確かに、日に日に眠れなくなってきていて、ここ最近はほとんど眠れなかった。――あの娘の夢を見てしまうから。
「…今、何時ですか?」
「もうすぐ十二時よ」
――十二時!?
先生の言葉に驚いて、時計を確認しようと慌てて起き上がる。しかし、まだ先ほどのダメージが残っているのか軽い眩暈を覚え、なのはは再びベッドに倒れ込んだ。
「…もう少し休んだら、教室に戻ってもいいわよ」
「…はい」
今更急いで教室に戻っても授業には間に合わないだろう、となのはは先生の言葉に素直に従う事にした。
昼休みの開始を知らせるチャイムが鳴る頃には、すっかり眩暈も収まっていた。
なのはが教室に戻ると、三人が慌てて駆け寄ってきた。
ケロッとしているなのはの様子を見て、三人同時に安堵のため息をつく。
「……思ったより元気そうね、ほら、なのはお昼食べるわよ」
なのはは促されるがままに席に着く。カバンから弁当箱を取り出すと周りに倣って蓋を開け、皆の弁当と並べた。
「あれ? なのはちゃん、今日も桃子さんに作ってもらったん?」
「う、うん……」
はやての質問になのはは返事だけ返す。
だって自分で作る意味ないもん、となのはは心の中で愚痴った。以前は毎日のように弁当を作っていたのだが、食べてくれる人が居なくなってからはずっと母親にお願いしている。
なのはは、ふっとあの娘の顔を思い出した。いつも美味しそうに食べてくれるその娘の表情は、眺めているだけで本当に幸せな気分になれた。
(もう一度、あの顔見たいなぁ…)
目を閉じれば思い出せる、けれど今はもう見る事のできない光景に、なのはは胸をギュッと締め付けられた。
◇
あの後一体何の話をしたのか全く覚えていない。
気づけば授業も終わり放課後になっていた。はやて、アリサ、すずかはなのはの席を囲って何やら楽しげに会話しているが、なのはには三人の姿が窓から見える夕焼け空と同化したように、ひどく色あせて見えていた。
そんな風に三人を眺めていると、視界の端に何かが映った――それは、ずっと恋焦がれていた色に似ていて、なのはは慌てて窓の方へ駆けだした。
サッシに手をかけ身を乗り出して、その色があった方を凝視すると、なのはの表情は驚いたものに変わり、180°ターンしてそのまま教室から飛び出していった。
その様子を見ていた三人もつられるように窓の外を見ると、何かを確認して安堵の表情に変わった。
「フェイトちゃん!!」
――ガバッ
なのはは全速力で校門に向かうと、大好きな少女の胸に思いっきり飛び込んだ。その少女は声をかけようと口を開いていたが、慌ててなのはを抱きかかえる。
「なのは」
優しい声が耳元で響き渡る。ずっと待っていたその音に、なのはは一気に体温が上がるのを感じた。
「おかえりなさい、…フェイトちゃん」
「ただいま、なのは♪」
そう言って微笑む彼女の顔を見て、なのはは嬉しさの余り泣きそうになった。
しかし三ヶ月ぶりに感じるフェイトの温もりがもしかしたらまた夢かもしれないという考えると急に怖くなった。その不安な気持ちが、無意識に言葉となって表れる。
「フェイトちゃん、いつ帰ってきたの? これ夢じゃないよね…? どうして今ここに居るの…?」
不安そうな表情で質問を浴びせてくるなのはに、フェイトはきょとんとしていたが、何かに納得したように少し口元を緩めると、腕に少しだけ力をいれて愛しの彼女との距離を更に縮める。
フェイトとの距離が更に近くなって、なのはは恥ずかしさと緊張のあまりフェイトの顔を見れなくなって俯いてしまう。心臓が張り裂けそうなくらいドキドキしていて、とても眠ってなんていられない程鼓動の音は大きかった。――夢じゃない。
「ついさっき地球に戻ってきたんだ、…なのはに会いたくて、授業が終わっているのは知ってたけど飛んできたんだ」
俯いてモジモジしていると、フェイトがささやくような声で質問の答えを返してくれる。とても甘いその声は、なのはの全身を痺れさせ、声さえも出せなくなる。
(今、きっと夕日でも誤魔化せないくらい顔が真っ赤な気がする…)
なのはは俯いたまま、頭の片隅でそんな事を考えていた。それはとても幸せな悩みで、七夕に起こった奇跡になのはは心から感謝していた。
◇
「はぁ…、やっとフェイト帰ってきたわね。これでようやく平和な日々を送れるわね」
アリサはため息交じりに言った。その表情には安堵の色がかなり強く出ている。
「そうやねぇ。今回、初の長期任務だったとはいえ、流石にちょっと堪えたなぁ」
と、困り顔のはやて。こちらも安堵の表情が窺える。
「ホントよ、これがもう少し長かったらと思うとゾッとするわ…」
「でも、今後こういうケースは増えていくやろしなぁ…何か対策考えんといかんね…」
「対策かぁ…、あのなのはをどうにかできる自信ないんだけど…」
「なのはちゃんは日に日にフェイトちゃん依存が強くなってるもんね…」
流石のすずかですら少し困った顔をしている。
今後の事を考えると三人とも不安が大きいようで、どんよりとした空気がその場を支配し始める。
「うーん、どうしたらええんやろ…」
しばらく三人とも口を開けず、しばらくの間沈黙の時間がその場を支配する。
不意に何かに思い当たったような表情をすずかが見せた。
「あ、そっか…」
「何、すずか? 何か良い案思いついたの?」
すずかの表情にアリサとはやては食いつくように身を乗り出した。
「あのね、なのはちゃんがダメならフェイトちゃんを教育したらどうかなって。フェイトちゃんってお仕事中は全く連絡取らないって言ってたから。心配させたくないってことなんだろうけど、そうじゃないんだよって教えてあげれば、少しは良くなるんじゃ…」
すずかの発言に、はやてとアリサは神の声を聞いたようにぱぁっと表情を明るくした。
「「それだ!!!」」
窓の外では、変わらずなのはとフェイトがイチャイチャとしていた。
◇おまけ
「あの~、すずかさん?」
「何かな、アリサちゃん♪」
帰宅中、はやて達と別れて二人っきりになった途端、すずかが私の腕に抱きついてきた。しばらくたったが、離してくれる気配はない。
「これは一体どういう事でしょう…?」
現状を飲み込めない私は、どういうつもりなのかすずかに聞いてみる。
「ん~?」
しかし、すずかはニコニコした表情のまま何も答えてくれない。代わりにギューッと腕に巻きつく力を強めてきた。
私は腕のある一点から伝わる感触に、頭がどうかしてしまいそうな程くらくらしてしまう。
「…あの、すずかさん…その、む、胸が当たってるんですけど…」
なんとか声を振り絞ってそれだけを口にすると、すずかはニンマリとした。
「…当ててるんだよ、アリサちゃん♪」
すずかの発言に、私は一気に顔が熱くなった。余りの衝撃に思わず足が止まる。
私の反応に満足したのか、すずかはパッと手を離してタタッと数歩前に進む。振り返って見せた表情がとても幸せそうに見えたが、もしかすると私の願望だったのかもしれない。――恋人を幸せにしてあげたいという願望。
「ねぇ、アリサちゃん。今日、お泊りしてもいい?」
不意にそんな事を聞いてきた。もちろん断る理由なんて私にはない。
「もちろんいいわよ! すずかなら大歓迎よ」
私の答えを聞いて、すずかは笑顔を見せた。その笑顔はとてもすずからしい慎ましく、見る者を安心させる笑顔だった。ずっと笑顔でいて欲しい、と私は素直に想っていた。
空は次第に暗くなり始め、いくつかの星が輝き始めていた。
(おわり)
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【七夕の奇跡】
――七月七日。
今日は、年に一度だけ彦星様と織姫様が会う事を許されている日。
◇
「はぁ…」
今朝は長く続いていた雨もやみ、久しぶりに青空が顔を覗かせていた。しかし、空の清々しい青さもなのはの心を晴れやかなものにはしてくれなかった。
「はぁ…」
なのはは何度目かのため息をついた。
目を閉じると風になびく金糸の髪や綺麗な紅い瞳、そしてはにかんだような可愛い笑顔が鮮明に蘇る。今はもう自分の隣に居ないその娘の事を思い出す度に、なのはの心は引き裂かれそうになった。
――会いたいよ、フェイトちゃん。
フェイトが居なくなってから三ヶ月の月日が流れていた。
なのはは誰かと待ち合わせていたわけでもなく、決まってフェイトと待ち合わせに使っていた公園に来てから学校へ行くようになっていた。
◇
「おはよう、なのはちゃん」
学校へ着くと、なのはは関西特有の訛りがまじった挨拶で迎えられた。何かいい事でもあったのか、はやては少し嬉しそうな表情をしている。
「…おはよう、はやてちゃん」
しかし、なのはの元気のない様子に、はやてもつられて少しだけ気分が暗くなった。それでも何とかなのはを元気づけようと教室までの間家であった面白い出来事を話す。なのはの元気がなくなって三ヶ月、一向に良くならないなのはに、流石のはやても少し疲れが見え始めていた。
「おはよう、なのは。…何、あんたまだそんな顔してんの? いい加減にしなさいよ!」
教室に着くと、開口一番にアリサの怒り声が教室に響き渡った。なのはとはやてはその声に肩を縮める。
「…なのはちゃん…」
アリサの隣では、すずかが心配そうな顔でこちらを窺っている。なのはは、そんな二人と目を合わせられないまま挨拶を交わした。無意識の内に、末尾に謝罪の言葉が入ってしまう。
「おはよう、アリサちゃん、すずかちゃん。……ごめんね」
「ごめんね、じゃないわよ! いつまでも居ない人間の事を考えても仕方ないでしょ!! それとも何? そんなに私達と居るのつまらない!?」
「だめだよ、アリサちゃん。そんな事言っちゃ……」
アリサの発言にすずかが慌てて止めに入る。昔から、すずかに注意されるとアリサはそれ以上何も言わなくなるのだが、今回もその例に漏れなかったようだ。ふぅとため息をつくとすっかり怒りのボルテージが下がっていた。
なのはは、自分の身を案じてくれている親友達の気持ちを、どうしても受け取ることが出来ずにいた。
「ごめんね……」
そんな自身に罪悪感を覚えつつ、二人に対して再び謝る。一体何に対して謝っているのだろう…そんな考えが一瞬だけなのはの頭をよぎった。
「…ふん!」
アリサはぷいっと顔を背けるとそのまま自分の席に着く。すずかが慌ててその後を追いかけていった。きっと私のフォローをしてくれているのだろう、なのははそんな友人の優しさに感謝を覚えながら自分も席についた。
◇
三時間目は体育だった。
今日の体育ではバスケットボールをすることになっていて、なのははすずか、アリサと同じチームだった。すずかは昔から運動が得意で、今日も一人で何本もシュートを決めていた。
なのはは、易々と相手チームの選手を抜いて行くすずかを眺めながら数ヶ月前の事を思い出していた。
その日も今日と同じバスケットボールだったが、今日と違ってすずかとアリサは相手チームにいた。
(それでも負ける気がしなかったのはフェイトちゃんが一緒のチームだったから…)
フェイトとすずかの攻防は凄まじく、そこだけ切り離された空間のように別次元の戦いを見せていて、傍から見ていたなのはが二人ともプロになれるんじゃないかと思うほどだった。
(…プロの試合、見たこと無いけど。)
そう言えばあの試合は結局どちらが勝ったのか、フェイトの足を引っ張らまいと懸命にボールを追いかけていたせいか、試合の結果まで覚えていなかった。思い出すのは、綺麗な金色の髪をなびかせながら、本当に楽しそうに目をキラキラさせてボールを追っていた少女の姿ばかり。その姿はとても子供っぽくて、同時に凄く格好良かった。
「あ! なのは、危ない!!」
――ボカッ!
いつの間にか物思いに耽ってしまっていたようで、なのははボールが向かってきていることに気づかず、顔面にきつい一発をお見舞いされてしまった。
あまりの衝撃に視界が暗転していくのを感じながら、なのははドサッと前のめりに倒れてしまった。
「なのは、…ちょっと、しっかりして、なのは?」
遠くからアリサの声が聞こえた――。
◇
目を覚ますと、そこには見知らぬ天井があった。
「あ、起きたのね」
なのはは突然聞こえた声の方へ視線を動かすと、保険の先生がそこに立っていた。そこでようやく今いる場所が保健室だと気づく。
「随分よく寝ていたわね、最近眠れてなかったんじゃない?」
確かに、日に日に眠れなくなってきていて、ここ最近はほとんど眠れなかった。――あの娘の夢を見てしまうから。
「…今、何時ですか?」
「もうすぐ十二時よ」
――十二時!?
先生の言葉に驚いて、時計を確認しようと慌てて起き上がる。しかし、まだ先ほどのダメージが残っているのか軽い眩暈を覚え、なのはは再びベッドに倒れ込んだ。
「…もう少し休んだら、教室に戻ってもいいわよ」
「…はい」
今更急いで教室に戻っても授業には間に合わないだろう、となのはは先生の言葉に素直に従う事にした。
昼休みの開始を知らせるチャイムが鳴る頃には、すっかり眩暈も収まっていた。
なのはが教室に戻ると、三人が慌てて駆け寄ってきた。
ケロッとしているなのはの様子を見て、三人同時に安堵のため息をつく。
「……思ったより元気そうね、ほら、なのはお昼食べるわよ」
なのはは促されるがままに席に着く。カバンから弁当箱を取り出すと周りに倣って蓋を開け、皆の弁当と並べた。
「あれ? なのはちゃん、今日も桃子さんに作ってもらったん?」
「う、うん……」
はやての質問になのはは返事だけ返す。
だって自分で作る意味ないもん、となのはは心の中で愚痴った。以前は毎日のように弁当を作っていたのだが、食べてくれる人が居なくなってからはずっと母親にお願いしている。
なのはは、ふっとあの娘の顔を思い出した。いつも美味しそうに食べてくれるその娘の表情は、眺めているだけで本当に幸せな気分になれた。
(もう一度、あの顔見たいなぁ…)
目を閉じれば思い出せる、けれど今はもう見る事のできない光景に、なのはは胸をギュッと締め付けられた。
◇
あの後一体何の話をしたのか全く覚えていない。
気づけば授業も終わり放課後になっていた。はやて、アリサ、すずかはなのはの席を囲って何やら楽しげに会話しているが、なのはには三人の姿が窓から見える夕焼け空と同化したように、ひどく色あせて見えていた。
そんな風に三人を眺めていると、視界の端に何かが映った――それは、ずっと恋焦がれていた色に似ていて、なのはは慌てて窓の方へ駆けだした。
サッシに手をかけ身を乗り出して、その色があった方を凝視すると、なのはの表情は驚いたものに変わり、180°ターンしてそのまま教室から飛び出していった。
その様子を見ていた三人もつられるように窓の外を見ると、何かを確認して安堵の表情に変わった。
「フェイトちゃん!!」
――ガバッ
なのはは全速力で校門に向かうと、大好きな少女の胸に思いっきり飛び込んだ。その少女は声をかけようと口を開いていたが、慌ててなのはを抱きかかえる。
「なのは」
優しい声が耳元で響き渡る。ずっと待っていたその音に、なのはは一気に体温が上がるのを感じた。
「おかえりなさい、…フェイトちゃん」
「ただいま、なのは♪」
そう言って微笑む彼女の顔を見て、なのはは嬉しさの余り泣きそうになった。
しかし三ヶ月ぶりに感じるフェイトの温もりがもしかしたらまた夢かもしれないという考えると急に怖くなった。その不安な気持ちが、無意識に言葉となって表れる。
「フェイトちゃん、いつ帰ってきたの? これ夢じゃないよね…? どうして今ここに居るの…?」
不安そうな表情で質問を浴びせてくるなのはに、フェイトはきょとんとしていたが、何かに納得したように少し口元を緩めると、腕に少しだけ力をいれて愛しの彼女との距離を更に縮める。
フェイトとの距離が更に近くなって、なのはは恥ずかしさと緊張のあまりフェイトの顔を見れなくなって俯いてしまう。心臓が張り裂けそうなくらいドキドキしていて、とても眠ってなんていられない程鼓動の音は大きかった。――夢じゃない。
「ついさっき地球に戻ってきたんだ、…なのはに会いたくて、授業が終わっているのは知ってたけど飛んできたんだ」
俯いてモジモジしていると、フェイトがささやくような声で質問の答えを返してくれる。とても甘いその声は、なのはの全身を痺れさせ、声さえも出せなくなる。
(今、きっと夕日でも誤魔化せないくらい顔が真っ赤な気がする…)
なのはは俯いたまま、頭の片隅でそんな事を考えていた。それはとても幸せな悩みで、七夕に起こった奇跡になのはは心から感謝していた。
◇
「はぁ…、やっとフェイト帰ってきたわね。これでようやく平和な日々を送れるわね」
アリサはため息交じりに言った。その表情には安堵の色がかなり強く出ている。
「そうやねぇ。今回、初の長期任務だったとはいえ、流石にちょっと堪えたなぁ」
と、困り顔のはやて。こちらも安堵の表情が窺える。
「ホントよ、これがもう少し長かったらと思うとゾッとするわ…」
「でも、今後こういうケースは増えていくやろしなぁ…何か対策考えんといかんね…」
「対策かぁ…、あのなのはをどうにかできる自信ないんだけど…」
「なのはちゃんは日に日にフェイトちゃん依存が強くなってるもんね…」
流石のすずかですら少し困った顔をしている。
今後の事を考えると三人とも不安が大きいようで、どんよりとした空気がその場を支配し始める。
「うーん、どうしたらええんやろ…」
しばらく三人とも口を開けず、しばらくの間沈黙の時間がその場を支配する。
不意に何かに思い当たったような表情をすずかが見せた。
「あ、そっか…」
「何、すずか? 何か良い案思いついたの?」
すずかの表情にアリサとはやては食いつくように身を乗り出した。
「あのね、なのはちゃんがダメならフェイトちゃんを教育したらどうかなって。フェイトちゃんってお仕事中は全く連絡取らないって言ってたから。心配させたくないってことなんだろうけど、そうじゃないんだよって教えてあげれば、少しは良くなるんじゃ…」
すずかの発言に、はやてとアリサは神の声を聞いたようにぱぁっと表情を明るくした。
「「それだ!!!」」
窓の外では、変わらずなのはとフェイトがイチャイチャとしていた。
◇おまけ
「あの~、すずかさん?」
「何かな、アリサちゃん♪」
帰宅中、はやて達と別れて二人っきりになった途端、すずかが私の腕に抱きついてきた。しばらくたったが、離してくれる気配はない。
「これは一体どういう事でしょう…?」
現状を飲み込めない私は、どういうつもりなのかすずかに聞いてみる。
「ん~?」
しかし、すずかはニコニコした表情のまま何も答えてくれない。代わりにギューッと腕に巻きつく力を強めてきた。
私は腕のある一点から伝わる感触に、頭がどうかしてしまいそうな程くらくらしてしまう。
「…あの、すずかさん…その、む、胸が当たってるんですけど…」
なんとか声を振り絞ってそれだけを口にすると、すずかはニンマリとした。
「…当ててるんだよ、アリサちゃん♪」
すずかの発言に、私は一気に顔が熱くなった。余りの衝撃に思わず足が止まる。
私の反応に満足したのか、すずかはパッと手を離してタタッと数歩前に進む。振り返って見せた表情がとても幸せそうに見えたが、もしかすると私の願望だったのかもしれない。――恋人を幸せにしてあげたいという願望。
「ねぇ、アリサちゃん。今日、お泊りしてもいい?」
不意にそんな事を聞いてきた。もちろん断る理由なんて私にはない。
「もちろんいいわよ! すずかなら大歓迎よ」
私の答えを聞いて、すずかは笑顔を見せた。その笑顔はとてもすずからしい慎ましく、見る者を安心させる笑顔だった。ずっと笑顔でいて欲しい、と私は素直に想っていた。
空は次第に暗くなり始め、いくつかの星が輝き始めていた。
(おわり)
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テーマ : 魔法少女リリカルなのは
ジャンル : アニメ・コミック