【倍返しですわ!】
どうも、SS担当のタイヤキです。
今週のドキプリは見事なマナりつ回でしたね!!
マナりつは忘れた頃にやってくる……て誰か言ってました(笑)
次はいつ見えるんだろう……(遠い目)
さてSSですが、タイトル詐欺のようなお話です。
絵師のお二方から「倍返しのアリスを」と言われ、
あえて少し変わった視点で「倍返し」の話を書いてみました。
あと、強いてカップリングを挙げるなら、「マナりつ」と「まこアリ」です。
もう少しアリスの可愛い部分を出していきたかったのですが……どうしてこうなった!?(吐血)
では以下からどうぞ(※百合注意)
今週のドキプリは見事なマナりつ回でしたね!!
マナりつは忘れた頃にやってくる……て誰か言ってました(笑)
次はいつ見えるんだろう……(遠い目)
さてSSですが、タイトル詐欺のようなお話です。
絵師のお二方から「倍返しのアリスを」と言われ、
あえて少し変わった視点で「倍返し」の話を書いてみました。
あと、強いてカップリングを挙げるなら、「マナりつ」と「まこアリ」です。
もう少しアリスの可愛い部分を出していきたかったのですが……どうしてこうなった!?(吐血)
では以下からどうぞ(※百合注意)
----------------------------------------------------
【倍返しですわ!】
『やられたら、やり返す……倍返しだ!!!』
「はぁー……」
アリスとランスはテレビの前で、ため息交じりにドラマを見ている。ドラマの主人公が憤怒の表情に変わる度に、一人と一匹はびっくりして目を丸くしている。
……
…………
………………
「はぁー! 面白かったですね、ランスちゃん♪」
「倍返しでランスー!」
「あらあら、ランスちゃんったら、ではこちらも倍返しですわ」
ドラマを見終わって、アリスとランスは満足した笑顔でドラマの真似事をしている。セバスチャンはその様子を微笑ましく眺めていた。
◇
――次の日。
アリスはマナ、六花、真琴と一緒に下校していた。いつもであれば、皆を車に乗せて帰るのだが、今日はセバスチャンにお願いして、歩いて帰っている。
「でさー、今日もマナが……」
六花はいつものように、今日の”マナ事”の話をしている。”マナ事”とは、マナに関する出来事の略語で、学校が違うアリスの為に六花や真琴がよく話してくれる。六花の場合、大抵は自分がサポートした出来事についての話で、最近では、真琴も現場を見ていることが多いらしく、六花の話に度々頷いている。
今日の話は、マナが部活の助っ人で奮闘している間、六花が生徒会の仕事を負担していたというよくある内容だったが、その中で一つだけ気になる事があった。
その話を聞いたアリスは、セバスチャンに目配せをすると、セバスチャンはそのサインの意味を理解して小さく頷く。
「申し訳ありません、皆様、私は急用ができてしまいましたので、ここで失礼します」
「え? そうなの……」
セバスチャンの言葉に、マナは不安そうな表情を浮かべてアリスの方を見る。
「大丈夫ですよ、マナちゃん。 セバスチャン、それではお願いしますね」
アリスは笑顔のままそう言うと、マナは安心したような表情に変わった。セバスチャンは畏まりました、と短く挨拶を済ませ、そのまま姿を消した。
(六花ちゃんのチアリーダー姿、お願いしますね、セバスチャン)
アリスは、空を仰ぎながら、心の中でセバスチャンに再度お願いをすると、すぐに会話を再開した。
「それにしても、六花ちゃんのチアリーダー姿見てみたかったですわ。さぞや可愛かったのでしょう……」
今日は『各部活動の応援』という何ともマナらしい内容の仕事があったのだが、マナは部活の助っ人で参加できない為、六花にお願いをしたのだ。その時、六花に頼んでチアリーダーの格好してもらったらしい。
「うん! もうねー、可愛くてキュンキュンだったよー!!」
「そうね、アイドル顔負けの可愛さだったわ!」
余程六花のチアリーダー姿が可愛かったのだろう。珍しく、マナと同じテンションで真琴が六花を褒めている。恥ずかしそうに応援している六花の姿を想像し、アリスは心の中で納得する。
「あ! そうだ!! 六花、今度あの格好で試合の応援に来てよ!!」
まさにベストアイデアと言わんばかりの表情で、マナは六花の両手を握ってお願いをする。六花は、実際のシーンを予想してみたのか、どんどんと顔を赤く変えていった。
「い、嫌よ! あの格好すっごく恥ずかしいんだから!!」
口では否定しつつも、マナのお願いに弱い六花は、握られた手を振りほどくまでの拒否はしない。そこに真琴の追い討ちまでかかる。
「私も、六花のチアリーダー姿、もう一度見たいな……それにそうすれば、アリスも六花のチアリーダー姿を見えるわ!」
「ええええ……、マコピーまで…………」
真琴にまでお願いをされて、万事休すといった感じの六花はアリスに助けを求めるような視線を送る。しかしアリスは、キラキラした笑顔を返すだけに留める。
「ううう……」
誰の助けも期待できないと分かった六花は、キョロキョロと視線を泳がしながら、”恥ずかしさ”と”お願い”を天秤にかけて考え込む。
「六花……?」
しかし余程恥ずかしかったのか、マナのお願いを承諾できず、かといって拒否もできない六花は、そんな感情が雫となってポロポロと瞳から流れていた。
「あわわわ、ご、ごめん六花!」
マナは慌てて六花をギュッと抱きしめると、耳元でごめんねと優しく囁く。一方の真琴は深く反省しているようで、叱られた子犬のようにうな垂れていた。
暫らくしてもマナの肩に顔を埋めて動こうとはしない六花の姿に、アリスは意を決してマナに話し掛ける。
「マナちゃん」
「は、はい!」
少しだけ怒気をはらんだアリスの呼びかけにマナは思わず背筋を正した。
「マナちゃんは、少し六花ちゃんに頼りすぎです!」
「……ご、ごめんなさい」
痛い所を突かれシュンとなるマナに、アリスは続ける。
「別に頼る事が悪いとは言いませんが、その分きちんとお返ししないといけないのではないですか?」
アリスの言葉にマナは大きく目を開く。まるで目からうろこが取れたようにその瞳を輝かせている。同時に六花の肩がぴくりと小さく跳ねたのをアリスは見逃さなかった。
「分かったよ、アリス!」
そう元気に返事をするマナに、アリスはもう一つアドバイスを付け加えた。
「分かって頂けて良かったです。では、最後にもう一つアドバイスを……やられたらやり返す、倍返し……ですわ♪」
六花はその言葉を聞いて何かを連想したようで、耳まで赤くなっている事が後ろ姿からでもわかった。一方のマナは爛々と目を輝かせている。
「そうと分かれば……」
「きゃっ、え? マナ?」
マナは六花の体をお姫様抱っこの要領で抱え上げると、そのまま走り出した。
「――ごめん、みんな! 今日は私と六花、用事があるから先に帰るね!!」
「ええ、また明日。ごきげんよう」
走りながら体を半分だけ回して話すマナをアリスはいつもと変わらない笑顔で見送る。一方の真琴はポカンと口を開けてその様子を眺めていた。
◇
――それからさらに数日後。
アリスは自宅の会議テーブルに座って、いつものように各企業の経営状況の報告を聞いていた。
「――――――以上が、今週の報告内容です」
「分かりました。では、この件は継続して進めてください」
各社の報告内容に対し、テキパキと指示を出すアリス。その様子はいつもと変わらないように見える。しかし、アリスには一つ気がかりがあった。
アリスはチラリと視線を僅かに横にずらし、空席になっている席を見る。そこは、アリスが幼少の頃からお世話になっている社長がいつも座る席だった。
彼はアリスにとって先生のような存在で、幼少の頃はよく分からない事を彼に質問していた。その彼がいつまで経っても現れない事態に、アリスは内心ひどく動揺していた。
結局、会議が終わっても彼が現れることは無かった。
一抹の不安を覚えたアリスは、受話器を手に取り、彼の会社へ電話をかける。セバスチャンにお願いをしないのは、”何事も自分で確認をする”という彼の教えに従っているためだ。
何度目かのコールの後、耳慣れた声が受話口から聞こえアリスは少しだけ安心した。
「おじ様、今日は会議にいらっしゃらなかったようですが、どうされたのですか?」
「あ……ああ……」
アリスの質問に、歯切れの悪い返事が返ってきた。このやり取りだけで、アリスは今向こう側で起こっている事が何となく想像できた。
しばらくの沈黙の後、社長は重いため息をつくと掠れた声で現状の事を話し始めた。
「すまない、アリス……もう私の会社は――――」
一通りの説明を聞いて、先生と言える彼の会社が思っていた以上の窮地に立たされているという事実にアリスは愕然とした。まるで悪い夢でも見ているような感覚に陥る。
しかし、アリスは気持ちを切り替えるように深呼吸をすると、もう一度事実を頭の中で整理する。今回の問題は、ある巨大システムの導入に失敗したことが原因で、その影響で巨額の損失が発生してしまった事にある。
「おじ様……その件、私に手伝わせて頂けないでしょうか?」
「え? いや、しかし今更もう……」
「いいえ、おじ様。 諦めるのはまだ早いですわ!」
完全に意気消沈の社長に対しアリスは強い口調で鼓舞する。その瞳には強い意志を感じさせるギラギラとした光を宿している。
「……そうだな、まだ諦めるには早いか……しかしアリス、我が社の問題を君にお願いする訳には……」
アリスの内にある熱が伝染したように、社長の声には少しずつ生気が戻ってきている。
「おじ様……おじ様には幼少の頃からずっとお世話になっています。私は、そんなおじ様に少しでも恩返しがしたいのです!」
「アリス……」
受話口の向こうから聞こえてくる彼の湿った声に、アリスの胸に熱いものが込み上げてくる。
「今までの恩は、倍にしてお返しさせて頂きますわ♪」
アリスは先日のテレビを真似るように、冗談っぽく社長に伝える。
「はっはっは、では私も今度倍にしてお礼しないとな」
いつの間にか、生気を取り戻した社長の活発そうな笑い声を聞いて、アリスは少し安心していた。
それから数日間、アリスは会社を立て直すために奔走した。ある時はアメリカ、またある時はドイツと、アリスは世界中を駈けずり回りながら立て直しの可能性を模索していた。
その甲斐あってか、無事に負債を返済することができ、見事にその会社の立て直しに成功した。
しかし、その報せを聞いたアリスは過労で倒れてしまった――――。
◇
目を開けたアリスの視界に最初に飛び込んできたのは、剣崎真琴の姿だった。
「おはよう、アリス……良かった」
アリスが目を覚ました事に気づいた真琴は安堵の表情を浮かべる。
「お、おはようございます、真琴さん……?」
アリスは、寝ぼけた頭で反射的に挨拶を返し、慌てて今置かれている現状を把握しようと辺りを見渡す。その様子に、真琴は現状を伝える。
「ここは貴方の部屋よ、アリス……昨日の夜、突然倒れたのよ」
でも無事で良かった、と真琴はいつもより柔らかい口調でアリスに話し掛ける。その表情は今まで見せたことがない穏やかさを備えていて、アリサはドキッとした。
「そうでしたか……ご迷惑をお掛けしてしまってすみません」
アリサは自分の不甲斐無さを滲ませながら俯く。
「――――ていっ!」
すると突然、ピシッという刺激を受けて、アリサは驚いて顔を上げた。おでこから伝わる痛みで、真琴にデコピンをされたのだと気づく。
突然の事態に困惑の表情を浮かべるアリスに、真琴は先程も見せた穏やかな表情を向ける。
「そんな顔しないで……アリサはいつも一生懸命頑張っているじゃない」
「真琴さん……」
「いつもすごいなって……私、アリスの事尊敬してるんだから! ……だから、そんな顔しないで」
ぎゅっと手を握りながら真琴は真剣な眼差しでアリスを見つめる。その真摯な想いが繋いだ手から流れてきて、アリスはキュッと胸を締め付けられた。
「……はい、ありがとうございます」
アリスの言葉に、真琴は満足したような表情を浮かべと、ぐいっと更に顔を寄せてきた。予想外の真琴の行動にアリサの心拍数は一気に上昇する。
「でも! アリスは頑張り過ぎる所があるから、あんまり無茶はしないでね! 大体、マナや六花もそうだけど、アリスだって…………」
その後も真琴の説教は続いていたが、アリスは高鳴る胸の鼓動しか聞こえず、ただ茫然と真琴の表情を眺めていた。
後にアリスが言うには、その後のお説教は全く覚えてないとのことだった。
(おわり)
----------------------------------------------------
【倍返しですわ!】
『やられたら、やり返す……倍返しだ!!!』
「はぁー……」
アリスとランスはテレビの前で、ため息交じりにドラマを見ている。ドラマの主人公が憤怒の表情に変わる度に、一人と一匹はびっくりして目を丸くしている。
……
…………
………………
「はぁー! 面白かったですね、ランスちゃん♪」
「倍返しでランスー!」
「あらあら、ランスちゃんったら、ではこちらも倍返しですわ」
ドラマを見終わって、アリスとランスは満足した笑顔でドラマの真似事をしている。セバスチャンはその様子を微笑ましく眺めていた。
◇
――次の日。
アリスはマナ、六花、真琴と一緒に下校していた。いつもであれば、皆を車に乗せて帰るのだが、今日はセバスチャンにお願いして、歩いて帰っている。
「でさー、今日もマナが……」
六花はいつものように、今日の”マナ事”の話をしている。”マナ事”とは、マナに関する出来事の略語で、学校が違うアリスの為に六花や真琴がよく話してくれる。六花の場合、大抵は自分がサポートした出来事についての話で、最近では、真琴も現場を見ていることが多いらしく、六花の話に度々頷いている。
今日の話は、マナが部活の助っ人で奮闘している間、六花が生徒会の仕事を負担していたというよくある内容だったが、その中で一つだけ気になる事があった。
その話を聞いたアリスは、セバスチャンに目配せをすると、セバスチャンはそのサインの意味を理解して小さく頷く。
「申し訳ありません、皆様、私は急用ができてしまいましたので、ここで失礼します」
「え? そうなの……」
セバスチャンの言葉に、マナは不安そうな表情を浮かべてアリスの方を見る。
「大丈夫ですよ、マナちゃん。 セバスチャン、それではお願いしますね」
アリスは笑顔のままそう言うと、マナは安心したような表情に変わった。セバスチャンは畏まりました、と短く挨拶を済ませ、そのまま姿を消した。
(六花ちゃんのチアリーダー姿、お願いしますね、セバスチャン)
アリスは、空を仰ぎながら、心の中でセバスチャンに再度お願いをすると、すぐに会話を再開した。
「それにしても、六花ちゃんのチアリーダー姿見てみたかったですわ。さぞや可愛かったのでしょう……」
今日は『各部活動の応援』という何ともマナらしい内容の仕事があったのだが、マナは部活の助っ人で参加できない為、六花にお願いをしたのだ。その時、六花に頼んでチアリーダーの格好してもらったらしい。
「うん! もうねー、可愛くてキュンキュンだったよー!!」
「そうね、アイドル顔負けの可愛さだったわ!」
余程六花のチアリーダー姿が可愛かったのだろう。珍しく、マナと同じテンションで真琴が六花を褒めている。恥ずかしそうに応援している六花の姿を想像し、アリスは心の中で納得する。
「あ! そうだ!! 六花、今度あの格好で試合の応援に来てよ!!」
まさにベストアイデアと言わんばかりの表情で、マナは六花の両手を握ってお願いをする。六花は、実際のシーンを予想してみたのか、どんどんと顔を赤く変えていった。
「い、嫌よ! あの格好すっごく恥ずかしいんだから!!」
口では否定しつつも、マナのお願いに弱い六花は、握られた手を振りほどくまでの拒否はしない。そこに真琴の追い討ちまでかかる。
「私も、六花のチアリーダー姿、もう一度見たいな……それにそうすれば、アリスも六花のチアリーダー姿を見えるわ!」
「ええええ……、マコピーまで…………」
真琴にまでお願いをされて、万事休すといった感じの六花はアリスに助けを求めるような視線を送る。しかしアリスは、キラキラした笑顔を返すだけに留める。
「ううう……」
誰の助けも期待できないと分かった六花は、キョロキョロと視線を泳がしながら、”恥ずかしさ”と”お願い”を天秤にかけて考え込む。
「六花……?」
しかし余程恥ずかしかったのか、マナのお願いを承諾できず、かといって拒否もできない六花は、そんな感情が雫となってポロポロと瞳から流れていた。
「あわわわ、ご、ごめん六花!」
マナは慌てて六花をギュッと抱きしめると、耳元でごめんねと優しく囁く。一方の真琴は深く反省しているようで、叱られた子犬のようにうな垂れていた。
暫らくしてもマナの肩に顔を埋めて動こうとはしない六花の姿に、アリスは意を決してマナに話し掛ける。
「マナちゃん」
「は、はい!」
少しだけ怒気をはらんだアリスの呼びかけにマナは思わず背筋を正した。
「マナちゃんは、少し六花ちゃんに頼りすぎです!」
「……ご、ごめんなさい」
痛い所を突かれシュンとなるマナに、アリスは続ける。
「別に頼る事が悪いとは言いませんが、その分きちんとお返ししないといけないのではないですか?」
アリスの言葉にマナは大きく目を開く。まるで目からうろこが取れたようにその瞳を輝かせている。同時に六花の肩がぴくりと小さく跳ねたのをアリスは見逃さなかった。
「分かったよ、アリス!」
そう元気に返事をするマナに、アリスはもう一つアドバイスを付け加えた。
「分かって頂けて良かったです。では、最後にもう一つアドバイスを……やられたらやり返す、倍返し……ですわ♪」
六花はその言葉を聞いて何かを連想したようで、耳まで赤くなっている事が後ろ姿からでもわかった。一方のマナは爛々と目を輝かせている。
「そうと分かれば……」
「きゃっ、え? マナ?」
マナは六花の体をお姫様抱っこの要領で抱え上げると、そのまま走り出した。
「――ごめん、みんな! 今日は私と六花、用事があるから先に帰るね!!」
「ええ、また明日。ごきげんよう」
走りながら体を半分だけ回して話すマナをアリスはいつもと変わらない笑顔で見送る。一方の真琴はポカンと口を開けてその様子を眺めていた。
◇
――それからさらに数日後。
アリスは自宅の会議テーブルに座って、いつものように各企業の経営状況の報告を聞いていた。
「――――――以上が、今週の報告内容です」
「分かりました。では、この件は継続して進めてください」
各社の報告内容に対し、テキパキと指示を出すアリス。その様子はいつもと変わらないように見える。しかし、アリスには一つ気がかりがあった。
アリスはチラリと視線を僅かに横にずらし、空席になっている席を見る。そこは、アリスが幼少の頃からお世話になっている社長がいつも座る席だった。
彼はアリスにとって先生のような存在で、幼少の頃はよく分からない事を彼に質問していた。その彼がいつまで経っても現れない事態に、アリスは内心ひどく動揺していた。
結局、会議が終わっても彼が現れることは無かった。
一抹の不安を覚えたアリスは、受話器を手に取り、彼の会社へ電話をかける。セバスチャンにお願いをしないのは、”何事も自分で確認をする”という彼の教えに従っているためだ。
何度目かのコールの後、耳慣れた声が受話口から聞こえアリスは少しだけ安心した。
「おじ様、今日は会議にいらっしゃらなかったようですが、どうされたのですか?」
「あ……ああ……」
アリスの質問に、歯切れの悪い返事が返ってきた。このやり取りだけで、アリスは今向こう側で起こっている事が何となく想像できた。
しばらくの沈黙の後、社長は重いため息をつくと掠れた声で現状の事を話し始めた。
「すまない、アリス……もう私の会社は――――」
一通りの説明を聞いて、先生と言える彼の会社が思っていた以上の窮地に立たされているという事実にアリスは愕然とした。まるで悪い夢でも見ているような感覚に陥る。
しかし、アリスは気持ちを切り替えるように深呼吸をすると、もう一度事実を頭の中で整理する。今回の問題は、ある巨大システムの導入に失敗したことが原因で、その影響で巨額の損失が発生してしまった事にある。
「おじ様……その件、私に手伝わせて頂けないでしょうか?」
「え? いや、しかし今更もう……」
「いいえ、おじ様。 諦めるのはまだ早いですわ!」
完全に意気消沈の社長に対しアリスは強い口調で鼓舞する。その瞳には強い意志を感じさせるギラギラとした光を宿している。
「……そうだな、まだ諦めるには早いか……しかしアリス、我が社の問題を君にお願いする訳には……」
アリスの内にある熱が伝染したように、社長の声には少しずつ生気が戻ってきている。
「おじ様……おじ様には幼少の頃からずっとお世話になっています。私は、そんなおじ様に少しでも恩返しがしたいのです!」
「アリス……」
受話口の向こうから聞こえてくる彼の湿った声に、アリスの胸に熱いものが込み上げてくる。
「今までの恩は、倍にしてお返しさせて頂きますわ♪」
アリスは先日のテレビを真似るように、冗談っぽく社長に伝える。
「はっはっは、では私も今度倍にしてお礼しないとな」
いつの間にか、生気を取り戻した社長の活発そうな笑い声を聞いて、アリスは少し安心していた。
それから数日間、アリスは会社を立て直すために奔走した。ある時はアメリカ、またある時はドイツと、アリスは世界中を駈けずり回りながら立て直しの可能性を模索していた。
その甲斐あってか、無事に負債を返済することができ、見事にその会社の立て直しに成功した。
しかし、その報せを聞いたアリスは過労で倒れてしまった――――。
◇
目を開けたアリスの視界に最初に飛び込んできたのは、剣崎真琴の姿だった。
「おはよう、アリス……良かった」
アリスが目を覚ました事に気づいた真琴は安堵の表情を浮かべる。
「お、おはようございます、真琴さん……?」
アリスは、寝ぼけた頭で反射的に挨拶を返し、慌てて今置かれている現状を把握しようと辺りを見渡す。その様子に、真琴は現状を伝える。
「ここは貴方の部屋よ、アリス……昨日の夜、突然倒れたのよ」
でも無事で良かった、と真琴はいつもより柔らかい口調でアリスに話し掛ける。その表情は今まで見せたことがない穏やかさを備えていて、アリサはドキッとした。
「そうでしたか……ご迷惑をお掛けしてしまってすみません」
アリサは自分の不甲斐無さを滲ませながら俯く。
「――――ていっ!」
すると突然、ピシッという刺激を受けて、アリサは驚いて顔を上げた。おでこから伝わる痛みで、真琴にデコピンをされたのだと気づく。
突然の事態に困惑の表情を浮かべるアリスに、真琴は先程も見せた穏やかな表情を向ける。
「そんな顔しないで……アリサはいつも一生懸命頑張っているじゃない」
「真琴さん……」
「いつもすごいなって……私、アリスの事尊敬してるんだから! ……だから、そんな顔しないで」
ぎゅっと手を握りながら真琴は真剣な眼差しでアリスを見つめる。その真摯な想いが繋いだ手から流れてきて、アリスはキュッと胸を締め付けられた。
「……はい、ありがとうございます」
アリスの言葉に、真琴は満足したような表情を浮かべと、ぐいっと更に顔を寄せてきた。予想外の真琴の行動にアリサの心拍数は一気に上昇する。
「でも! アリスは頑張り過ぎる所があるから、あんまり無茶はしないでね! 大体、マナや六花もそうだけど、アリスだって…………」
その後も真琴の説教は続いていたが、アリスは高鳴る胸の鼓動しか聞こえず、ただ茫然と真琴の表情を眺めていた。
後にアリスが言うには、その後のお説教は全く覚えてないとのことだった。
(おわり)
----------------------------------------------------
スポンサーサイト
テーマ : ドキドキ!プリキュア
ジャンル : アニメ・コミック